第14話:まつろわぬアーサーを弑逆 . 神聖衣(ゴッドクロス)に進化した麒麟星座(カメロパルダリス)、それは最強の黄金聖衣さえ凌駕する。 天帝ゼウス率いるオリンポス十二神、彼らがその身を鎧う神衣に最も近いのだというそれは、元々の色がまるで水晶の如く煌めく。 「雷光放電(ライトニングプラズマ)!」 一億発すら生温いと言わんばかりの数の拳が、黄金の輝きと共にアーサーの躰を射抜いた。 『グォォォオオッ!』 流石に呻き声を上げて、アーサーが吹き飛ぶ。 だが、幾ら神聖衣を纏ったといっても、戦力自体は向上するが敵を弱体化する訳でなし、不死性を喪わせた訳でもないから先程よりはダメージを与えてるが、決定打には程遠い。 すぐにも起き上がる。 「(さて、ユナイト出来る時間は短いな)」 【重なる双顔の双子(ジェミニ・アルターエゴ)】も維持には相当のコストを掛けたが、此方はそれに輪を掛けてコストが高い。 ゲーム風に言うならば、ユートがMP:300だったとして、【重なる双顔の双子(ジェミニ・アルターエゴ)】は1ターンに30の消費となる。 これが【勝利を呼び込む天使(ニケ)】の場合だと、消費は1ターンに50にも及ぶのだ。 前者はMPが尽きるのに10ターン掛かるとして、後者は6ターンしか保たないという事になる。 1ターンを1分だと考えれば、僅かに6分しか保たないのだ。 因みに、実際は【重なる双顔の双子(ジェミニ・アルターエゴ)】の保持時間は僅か数分である。 つまり、今はまだ神聖衣を2分程度保持出来れば、万々歳というべきか。 「時間は掛けられない!」 実験としてワンショット放ってみたが、次は普通に斃せる力を使わなければ、力尽きてしまう。 ユートはグッとアーサーを睨むと、作戦開始であると言わんばかりに駆けた。 まずは囮攻撃。 「流星拳!」 数百発の拳を放つ。 然し、この程度であればアーサーは剣を盾にユートの拳を防いでいく。 その最中だというのに、アーサーの背後にユートが詰めて風の刃を撃ち放つ。 不完全ながらその風刃はアーサーの両腕を斬った。 それだけでなく、左右から他のユートが現れると、大地を隆起させて槍と化して突き刺し、更には太陽も斯くやな炎の塊を放つ。 そして水を高速で放ち、ジェットウォーターにより斜め十字に斬った。 「盗ったぁぁああっ!」 まつろわぬ神とはいえ、行き成り増えたユートには驚き、しかも流星拳の威力で上がった土埃でアリスはこれが見えていない。 それらの状況を全て利用したユートは、まつろわぬアーサーを不死足らしめているモノ──鞘を奪った。 ユートが知るアーサー王……アルトリア・ペンドラゴンが本来なら手にしていた筈の聖剣の鞘──【全て遠き理想郷(アヴァロン)】も強力な治癒能力を有していたから、まつろわぬ神のアーサーの【不死】も鞘にあると考えたのだ。 実際、伝説上のアーサーの鞘にも同じ快復系能力が有った筈だし、決して喪ってはならないと言い含められてたにも拘わらず、鞘を喪ったアーサー王は死を迎えたのだという。 そして伝説の通りに彼の英雄神も鞘を今、喪ってしまった。 神話や伝説に縛られているまつろわぬ神は、それを準えた時に弱体化や強化が成される。 今のアーサーは先程までに見せていた黄金聖闘士を越える能力はなく、精々が黄金聖闘士並に落ちてしまっている事だろう。 「終わりだ……」 アーサーから鞘を奪った五人目のユートが、瞑目をしながら呟いた。 「村正抜刀(エクスカリバー)ッ!」 これまでは斬り裂けなかったアーサーの右手首を、ユートは村正抜刀(エクスカリバー)により容易く斬り落としてやる。 落ちた手首から恐らくは聖剣だと思われる剣を拾い上げ、自らの小宇宙をその聖剣(仮)に籠めていく。 「本来なら主義に反する。だけどまあ、今回くらいは構わないだろう……」 黄金の小宇宙が聖剣(仮)を煌めかせ、流石に破裂をしそうなくらいユートから小宇宙を吸い取る。 セイバーの聖剣(エクスカリバー)である訳なし、そんな機能は勿論存在はしていない。 だから擬似的に行う。 即ち…… 「約束された勝利の剣(エクスカリバー)ッッ!」 セイバーごっこだった。 放たれた黄金の光が斬撃となり、まつろわぬアーサーへと真っ直ぐ向かう。 斬っっっ! 恐ろしく薄く鋭く研ぎ澄まされた斬撃は、アーサーの肉体を一刀両断にした。 そして丁度、タイムリミットが訪れてユートはニケと分離する。 その瞬間、クリスタルの如く煌めいていた神聖衣も本来の青銅聖衣に戻って、ユートの中からニケが飛び出してきた。 「ありがとう、ニケ。戻って良いよ」 ニケは嬉しそうに飛び回りながら姿を消す。 「ぐっ!」 ドッシリとくる感覚。 ユートの内に神氣が流れ込んでいく証拠だ。 暫しの感覚に翻弄されていたが、それもすぐに治まった。 「ふぃーっ!」 嘆息をするのと同時に、ユートは辺りを見回す。 辺りは瓦礫とクレーターばかりで、この地は完全に廃墟となっていた。 可成り消耗して神聖衣の維持も出来ないし、ユートが廃墟にしたという訳でもなかったが、流石にこの侭というのも後味が悪い。 ユートは柏手を打って、地面へと両手を付く。 「【錬成】!」 それにより建築物や遺跡やクレーターが元通りとなって、破壊痕などは殆んど目立たなくなった。 「これて良いな……ん?」 自己満足に過ぎないが、形ばかりは修復したユートは足下に鎧の成れの果てを見付ける。 「何だ、これは?」 よく解らない代物だが、取り敢えずは手に入れておく事にして、亜空間ポケットへと仕舞う。 この時のユートは知らなかったが、この鎧の成れの果てはまつろわぬアーサーが遺した遺骸であり、魔術世界では【竜骨】と呼ばれて場合によって信仰の対象にすらなる物だった。 【竜骨】はまつろわぬ神が実態を喪う際、極稀に遺すとされている。 因みに、ユートが奪った聖剣と鞘も遺されており、【竜骨】となっていた。 「終わったな……」 一通りの後始末を終え、ユートが立ち去ろうとすると黒王子(ブラック・プリンス)アレクサンドルが、アリスと共に歩いて来る。 だが、アリスは可成り辛そうにしていた。 ズシャッ! 「あう!」 流石に見ていられなかったのか、アレクサンドルが手を貸そうとしたら、その前にユートが抱き上げる。 「大丈夫か?」 「は、はい。ありがとうございます」 ユートが知るアリスより少し若い──今も若いが──一八歳の少女。 元々、身体が弱かったのに六年前……つまりは現在の事、まつろわぬ神との戦いで身体を壊してしまい、二四歳の現在で寝た切りになっている。 今は杯座(クラテリス)の白銀聖衣の特殊能力によりある程度は快復をしたが、それでも完全だとは言い難い状態なのだ。 とはいえ、アレクサンドルの冒険に好奇心から付き合ってこれな訳で、アリスの自業自得でもある。 「黒王子、貴方達の宿は? 其処まで彼女を運ぶ」 「了解した、此方だ……」 アレクサンドルの案内を受けて所謂、お姫様抱っこでアリスを運ぶ。 腕の中のアリスは羞恥からか、顔を真っ赤にしながらも動けぬ身体の所為で、大人しく運搬された。 道すがら、アレクサンドルがユートに問う。 「幾つか訊きたい」 「仮面の理由なら顔を見せたくないからで、趣味とかではないが?」 「違う!」 アレクサンドルは思わず叫んでいた。 「ごほん、貴様はカンピオーネになったのか?」 「いや? なってない」 「どういう事だ? まつろわぬアーサーを斃したのではないのか?」 「斃したよ」 「それなら神殺しに成功した筈だろう」 「そうだね、だから権能は確かに増えたみたいだよ」 「増えた……だ……と? という事は貴様は初めからカンピオーネなのか!」 「そう、だからまつろわぬアーサーを殺してもカンピオーネにはならない」 初めからカンピオーネなのだから。 屁理屈にも等しい事を言っているが、カンピオーネになったのがアーサーを弑奉った瞬間ではないから、ユートの言は正しい。 「だが、現在のカンピオーネは五人の筈。引き篭り、知的ぶった爺、ジョン・プルートー・スミス、俺、腕力至上主義女。六人目が誕生していたなど聞いた事もない」 ユートはアリスが力尽きて眠っているのを確認し、ゆっくり口を開く。 「僕は八人目だ」 「な、んだと?」 「アレクサンドル・ガスコイン。六年後の未来で聞いている、プリンセスから」 「ぬう?」 未来のプリンセスからときて、アレクサンドルは唸るしかない。 有り得ないとも言えず、些か困ってしまう。 実際に時間関係の神から権能を簒奪しなのならば、確かに過去へ跳ぶなんて事も出来そうだからだ。 しかも妙に具体的に言われてしまう。 「この話は基本的にオフレコで」 「……良かろう」 時間くらい繊細なものは中々お目に掛からない。 これは黙っていた方が、アレクサンドル側としても得策と考えた。 「ではもう一つ……貴様が未来から来たのだと前提で言うが、俺と条約を結ぶ気はあるか?」 「条約……?」 「そうだ。国同士が結ぶ様な謂わば相互不可侵条約というやつだ。当然ながら、お互いの国に入る場合は、連絡を入れ合う必要がある訳だが……」 「あ、そんなのあるんだ。けど僕は六年後に英国へと入ってるんだけど?」 「俺の断りなくか?」 「いや、だってね。成った時点の……過去に跳ぶ前の僕が条約を知る筈ないし」 「それもそうか。ならば、貴様が未来に帰った時点で俺に連絡を入れろ」 「良いけど、すぐは無理」 「何故だ?」 「中国でアルマゲスト連中がまつろわぬ神招来の儀式をしてね、本当は生贄となった少女を救う為に時を巻き戻す心算が、こんな過去の英国に跳ばされたから。戻ったらすぐにまつろわぬ神やアルマゲストと決戦って流れになるんだ」 「……そうか。それならばそれが済んでからでも構わんから連絡をしろ」 「判ったよ」 アレクサンドルと一種の同盟を結ぶ事になる。 「これが連絡先だ。恐らく携帯電話は変えても番号は変えんし、それで連絡が着くだろう」 「僕は六年後に改めて連絡しなけりゃ、連絡方法が無いんだけどね」 「判っている。そういえば八人目だと言ったな?」 「ん?」 「他の二人はどんな感じの連中だ?」 「余り未来の情報は渡せないんだけど……」 「それもそうか」 この辺りは期待していなかったのか、アッサリと諦めてしまった。 暫く歩くと海辺の町に辿り着き、そのホテルの一室までアリスを運ぶ。 「じゃ、アレクサンドル。今のプリンセスに宜しく。ああ、僕の事はプリンセスに絶対言わないでね」 ベッドに寝かせてから、ユートはアレクサンドルと別れ、未来のアリスと和麻が居るであろう場所まで急いで戻る。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 「お帰りなさいませ」 丁寧に頭を下げて挨拶をしてくるアリス。 「ただいま」 それに返事をしてすぐ、和麻の方を向く。 「和麻、闘い方は学べたかな?」 「無理言うなよ。あんなの参考にならねー」 神殺しなんて埒外な存在ではあるまいし、あんな闘い方が出来る筈もない。 「そういや、何だか最後は分身していたな?」 「精霊で構成した遍在だ。属性の違いこそあるけど、影分身みたいな感じで自律性と実体を持っている」 「成程な……」 その属性の力しか使えないのだが、昔みたいな風のみよりは使い勝手が良い。 「今の和麻は弱い。力も無ければ経験も覚悟も装備も何もかも足りないんだ」 「ああ、そうだな」 「覚悟や経験はどうにもならないけど、装備品くらいは貸して上げよう」 流石に死なせる訳にもいかないから、ユートは装備を貸してやった。 「魔導衣【疾風】と暴君の魔銃とバルザイの偃月刀」 物陰で着替えて来ると、ちょつとした魔導師ルックとなる和麻。 後は戻るのを待つばかりであり、ユートはその時がくるまで眠る。 何故かアリスが隣に座ってきて懐いてきた。 それから二時間、和麻は戦闘のシミュレーションをしてユートは仮眠を取り、アリスはユートの隣で愉しそうにしている。 「──っ! どうやら現代に戻るみたいだ」 時空間に歪みが生まれ、裂け目が顕れると三人を再び呑み込んだ。 現代に帰還したユートは未だに【刻の支配者(ハイパー・クロックアップ)】の影響下なのを利用して、心臓が抉られる前に翠鈴を奪い去る。 《HYPER CLOCK OVER》 「な、に……!?」 それを見たアーウィン・レスザールは驚愕した。 自分の知らぬ間に少女を取り返され、離れた位置に立った三人が居る事に。 否、違和感がある。 「莫迦な、儀式は完遂されて少女は喰われたのではなかったか?」 ユートはそんな叫びなど意にも介さず…… 「和麻、お前はアルマゲストを皆殺しにしろ!」 「解った!」 そう返事してバルザイの偃月刀を投げた。 それは生身のアルマゲストの連中を引き裂く。 『ウギャァァァッ!』 数人が纏めて屠られた。 「そして僕はまつろわぬ神を殺す! アリスは翠鈴と其処で待機してて!」 「判りました!」 一応、申し訳程度に結界を張っておく。 「さあ、征くぞ!」 ユートは未だに名も知らないまつろわぬ神目掛け、一気に駆け出した。 . 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