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第12話:砂漠の旅路
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「確か、メライデンって言っていたわよね?」

「名前は割と適当だよ? 合体魔法だから名前も合体させてるだけだし」

「合体魔法? 合成魔法じゃなく?」

「意味合いは一緒だろう。魔法使いと僧侶、この両方を扱える賢者が開発したとされる合体魔法。簡単なので真空呪文バギと閃熱呪文ギラを合体させたバギラ。敵を切り裂きながら内部は熱で焼かれるってね」

「賢者……か」

 ベロニカは魔法使いで、セーニャは僧侶の呪文へと適正を持つが、現代に於いては余りその辺りの括りが強くはない。

 事実上、賢者に近い適正持ちも居るみたいだし。

 そもそも、魔法使い適正を持ちながらだからといって全てを扱える訳でなく、一部しか扱えない人間だって存在している。

 ベロニカみたいな基本的に魔法使い系の全てを扱えるタイプは珍しく、ヒャドだけを扱えるとか高熱系のメラやギラ系が使えるとかも割とあるらしい。

 ユートは普通に賢者となって、勇者アレルと同様の血族だから勇者系呪文とかも操れるが、それこそ正にイレギュラーであろう。

 この世界で本来の勇者となる者の適正はユートにも判らないけど、少なくともこの世界線の勇者はユートである以上、考えても詮無い事ではある。

「右手にメラミ、左手にはライデイン。合体させたからメライデンってね」

「大体、同じクラスを合体させてるのね?」

「名前的に楽だから」

 ギガデインとメラを合体させる意味も無いし。

「私が知りたいのは二つの呪文を同時に扱う技術と、融合させる技術って処ね。ラムダの双賢の姉妹にして天才魔法使い、ベロニカを以てしても考えた事すらも無かった技術だもの」

「双賢の姉妹? 初めて聞くなソレは」

「ああ、双賢の姉妹ってのは私とセーニャを意味してるってのは解るわね?」

「まあ、二人は双子だし。だけど何故に双賢? 双子の賢者ってのもおかしな話だろう?」

「私とセーニャは古の頃、勇者ローシュの時代の賢者セニカ様の生まれ変わり……と云われてるのよ」

「先代勇者ローシュの仲間の賢者?」

「そう。伝承では勇者たるローシュ様と賢者セニカ様の他に、戦士ネルソン様と魔法使いウラノス様が邪悪なる神を斃すべく旅をしたとされているわ」

「ふーん、成程ね……」

 頷くユート。

(ドラクエV的に云えば、勇者と戦士と僧侶と魔法使いのパーティで、セニカが賢者に転職した感じか?)

 因みに、ユートがDQVの世界に居た時は流れ的に【ロトの紋章】繋がりで、勇者アレルと僧侶カダルと戦士フルカスと武闘家フォンのパーティだった。

 また、一六歳になる前に祖父から勘当されたユートはカザーブの近く、武闘家集団の隠れ里でフォンと会っており、その関係で多少の手助けくらいはした。

 ユート自身はその際には職業は無く、無職の剣士としてフォンと闘っている。

 その後にダーマ神殿へと赴き、遊び人になってからレベルを上げていき感覚的に所謂、転職可能なレベルになってから賢者に転職、魔法使いと僧侶の呪文を覚えていった。

 勇者の血筋から遊び人の頃から勇者系呪文を使える様になり、最終的には勇者と賢者の呪文を極めてる。

 つまり、その時点で既にドラクエVのゲーム上にて登場する呪文は、その全てをユートは覚えていた事になる訳だが、脳筋なフォンはユートが世界を救う事に興味を持たないのが理解を出来ず、ある時に再び闘いに発展したのは愛嬌か?

『私が勝ったら旅に同行しなさい!』

『断る!』

『な、何故よ!?』

『んなもん、賭けになっていないからに決まってる』

『賭けになっていない?』

『そちらが僕の負けた場合の賭け金を決めたのは良しとして、なら君は負けたら何を支払う心算なんだ? それを明言しないのは賭けとしてどうかな?』

『……うっ!』

『脳筋め。ほら、そっちは何を以て賭けとするんだ? 自分が勝つから決めても意味が無いとは言わさないから、ちゃんと明言をして貰うぞフォン』

『……なら、貴方が勝ったら好きにしなさい! 殺されようが、アレルから離れて故郷に帰れと命じようが一つだけ聞いて上げる!』

『了解した。賭けは成立、ならば決闘の仕様をどうするか決めよう』

『何でもアリの実戦形式で良いわ!』

『判った、それなら始まりの合図も要らないな』

『来なさい!』

 そんな流れだった。

 尚、勝ったのは当然ながらユートである。

 当時、レベルが八岐大蛇を斃すのがやっとなレベルだったフォンが、そもそも何年間も強くなるべく修業と称してネクロゴンド地方でモンスターを斃して呪文をマスターしたユートを、倒すなど不可能だったのだから当たり前である。

 ユートはルーラを覚えた時点で飛翔呪文を編み出しており、ゲームシステム上では行けない場所にも行けたから問題無くネクロゴンドの洞窟にも入れてたし、その気になればバラモス城――後のカーメン城――にも行けたのだ。

 とはいえ、【ロトの紋章】の世界観だと知った時点でユートがアレルに先んじるのも拙く、放置するしか無かったというのもある。

 それをやったらユートがその後の世界まで面倒を見なければならず、バラモスを殺って放置したら世界がゾーマやクインゾルマにより滅ぼされるし。

 かといって、ゾーマとかユートが斃してアレルなどを無視したら、後の世界というか時代も滅茶苦茶になるから面倒臭くてもアレルに頑張って貰った訳だ。

 ユートが存在する時代でイレギュラーなのだが……

 当時のユートは勇者の血を持つ賢者でしかなくて、今現在みたいに成り代わりかどうかは知らないけど、勇者≠ナはなかった。

 その負い目もある……と云う事であろうか?

「序でに言うと、ローシュ様とセニカ様は恋人だったとも云われてるわね」

「恋人だった……ねぇ」

「何よ?」

「なら、勇者ローシュの生まれ変わりとか云われてる僕と、賢者セニカの生まれ変わりのベロニカが結ばれるとかもアリ?」

「っ! な、何を言ってんのよ!?」

 真っ赤になるベロニカ。

「あ、でもセーニャも同じ生まれ変わり……? 魂が二つに分かたれたのかな? ならベロニカとセーニャと僕の三人でってか?」

「ば、バッカじゃない?」

 怒りか恥じらいなのか、真っ赤なベロニカは叫んで風呂から上がり、更衣室へと駆けて行ってしまう。

「やれやれ。まだ引き摺ってるな僕は……エマ……」

 所詮、ユートは女性関係に誠実だとは云えない。

 だけど抱いたばかりで喪ったエマ、今はまだ一ヶ月も経たないからには多少なり引き摺っていた。

「あ、これはどうしよ?」

 ベロニカは幼い見た目ではあるが、一度は一六歳にまで成長した訳だから肌が十歳かそこらには思えない綺麗さで、ユートの分身が屹立してしまっている。

 まさかベロニカに鎮めて貰う訳にもいかないけど、自慰はしたいとも思わないから冷やして鎮めるという方法を取った。

「やっぱり余りやりたくは無い方法だな、これは」

 苦笑いしながらユートも部屋へと戻るのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌朝、まだ怒り足りないのかベロニカに睨まれる。

「さて、サマディー王国に出発しようか」

「ユート、砂漠を越えなきゃならないんだろ? 準備をしなくて良いのか?」

「そこら辺は大丈夫だよ」

「……信じるぜ?」

「師匠を信じなさいな」

「了解だ」

 互いに拳をぶつけ合い、ちょっとした笑みを浮かべる二人、ベロニカもセーニャも首を傾げていた。

 二人の関係は師弟であり一応は友人だろう。

 今もカミュの身体は鍛える為の拘束付き、デンダ戦でも外す必要が無い程度にはもう慣れていた。

 関所を越えると砂漠。

「うわ、砂砂砂かよ」

「やっぱりこの辺はホムラとは別の意味で暑いわ」

 火山の活性で熱いのと、砂漠の日照りが暑いのとはやはり別物。

「そうですわね、お姉様」

 カミュ、ベロニカ、セーニャが口々に愚痴る。

「日が落ちるまでは砂漠を渡らない。関所でゆっくりと寛がせて貰おう」

「どういう事よ?」

「暑い中を汗だくになって渡るより、寒い中を運動で暖まりながら移動した方が建設的だ。寒さなら服装でカバーも出来るからね」

「……そういう事か」

 ベロニカは納得したらしく頷き、カミュとセーニャも反対しないのか口を挟みはしなかった。

 星が輝く暗い夜。

 月と星の明かりと照明呪文(レミーラ)の輝きで辺りを照らし、モンスターなどが急襲を出来ない様にしているが、逆にレミーラによる目印にもなるからキメラやサボテンボールといったのが襲って来る。

 暗い夜だからか腐った死体が涌き出る為、ベロニカもセーニャも顔を顰めた。

 キメラは兎も角として、植物なサボテンボールとか腐った死体は、火や熱関係の呪文が効き易い。

 ちょっと強めな黄金に輝くサボテンボールも現れたりしたが、ユートのメラミに焼かれて死んだ。

 その肉は美味いだとか、ベロニカが言うので取り敢えず手に入れた。

 何でもサマディーに滞在した時、そんな話を耳にしていたらしい。

「お、メタルスライム」

「すぐに逃げるし呪文が効かないスライム……てっいうか、あれスライムって呼べるのかしら?」

 見た目が青い涙型なスライムや赤いスライムベス、だけどその肉体は流体金属というスライムの名前には喧嘩を売っていた。

「兎に角、斃すぞ!」

 ゲーム的には経験値が美味しいモンスターであり、ユートは特殊な技法によってメタスラ鋼を採れる。

 それを使えばそれなりの武装も造れる筈だ。

 まあ、一つ二つで何が造れるでもないのだが……

 カミュの攻撃。

 メタルスライムに1のダメージを与えた。

 セーニャの攻撃。

 ミス。

 ベロニカの攻撃。

 ミス。

 ユートの攻撃。

 会心の一撃、84のダメージを与えた。

 メタルスライムを斃したといった処か?

 ユートはメタルスライムの死骸を拾い、握力で握り潰すが如く握り締めながら氣を手に収束する。

 緒方逸真流・錬術。

 本来は強化する術だが、使い方を変えれば別に使い道が見付かった訳だ。

 メタルスライムは塊となってユートの手に収まる。

 これがメタスラ鋼。

 とはいえ、掌に乗る程度の量では意味が無かった。

「武具にするならもっと要るんだよね」

 溜息を吐きながらユートはメタスラ鋼をアイテムストレージに容れ、カミュ達と再び夜の砂漠を歩く。

 今までと今の戦闘でだろうが、ユートのレベルが上がって26になっていた。

 まあ、些細なモノだ。

 広い砂漠ではないとはいっても、やはり砂で足を取られたり戦闘したりで遅々として進まないから日が昇り朝がきた。

「よし、キャンプを張って朝食を摂ってから寝るぞ」

「「「え?」」」

「ルパスさんとルコが砂漠で熱中症になったって言っていたろ? 日がある内に動いても無駄な汗を掻いて水分を消耗するだけだよ。なら、今は休む。結界を張ればモンスターに襲われたりもしないから」

 ユートに説得された三人はテントを張り、結界の方も簡易的なのを展開しつつ聖水を撒いておく。

「水は冷たいのがこの壺、ゲヌークの壺から幾らでも沸き出るから、飲みたければ飲むと良いよ」

 ゲヌークの壺。

 アトリエ世界に行った際に造った調合品。

 涌き出るのは蒸留水ではあるが、毒ではあるまいし飲み水代わりにはなる。

「ま、蒸留すると旨味成分となる部分が消えるけど」

 蒸留水は不純物を蒸留により取り除いた純水。

 だが然し、不純物が混じるが故に水は旨味を持つ。

 蒸留水が不味い訳ではないのだが、やはり不純物がある程度でも混じる水の方が良い事もあった。

 いずれにせよ、ゲヌークの壺の出す蒸留水は本来だと調合に使う為の物。

 飲めるけどユートは飲むという方向性で余り使わなかったし、寧ろこういった世界での身体拭き用とかが多いだろう。

「う〜ん、湧水の方が美味しいわね」

 ゲヌークの壺からコップに掬って飲んだベロニカ、だけど味はいまいちと感じたらしい。

「そうですわね。不味い訳ではありませんが……」

 セーニャも同意する。

「中々に確かな舌だね? やっぱり蒸留水だといまいちになるか……」

「不味くはねーぜ?」

 カミュも飲んだ様だ。

「どっちにしろ砂漠で普通に飲み水を確保出来ているだけ、砂漠の旅路としてはラッキーだろうに」

「そうね」

 水不足に陥りがちな砂漠にて、潤沢な飲み水を確保する贅沢の前では多少の事は我慢も出来た。

 本来のゲヌークの壺だと殆んど常温に近いのだが、ユートのは使うアイテムを変えて可成り水温が低くなる様にされている。

 云ってみれば飲み水用のゲヌークの壺だ。

「それにしても、その水が湧き出る壺にせよテントにせよ、凄いマジックアイテムばかりよね」

 魔導具【テント】は空間歪曲を応用した物であり、よくある見た目に反して中が広い建物系だ。

 だいたい、十人くらいが大の字に寝ても互いに身体が当たらない広さ。

 更に外気から中を保護しているから、テント内では外と無関係に気温が一定に保たれている。

 暑すぎず寒すぎず丁度良い塩梅という訳だ。

 だから砂漠のど真ん中、真っ昼間でも眠るのに困る事も無い。

 また、モンスターを寄せ付けない結界も敷かれているが故に、余程の邪悪地帯でもない限り安全だ。

 それこそ、大魔宮(バーンパレス)とかバラモス城とかゾーマの城という様なボスやラスボスの本拠地でもない限りは。

 休憩はとても大切だ。

 ならば居住性や安全性に気を遣うのは当然!

 更には食糧も大量に保持されているから、空腹にも強い魔導具となっている。

 正に渇かず飢えずだ……無に還りたくはないけど。

 セーニャが作った朝食を摂り、砂漠の埃をそれぞれに払ってから毛布に包まって眠る四人。

 普通なら見張りを立てねばならないが、このテントは防犯の観念も確りとしている為、全員で一斉に寝ても安全だったりする。

 昼に一度は起きて軽めの食事を摂り、ちょっと話をしてから再び眠った。

 そして日も落ちる夕方、四人は再び起き出す。

「砂漠でこんなにグッスリ眠れるなんてね」

「前回は酷いものでしたものね、お姉様」

「まったくだわ」

 サマディー王国から砂漠を渡り、ホムスピ地方であるホムラの里へ入った姉妹だったが、当然ながら砂漠の旅路は女の子の身ではキツかったらしい。

「僕も昔に砂漠を旅して、可成りしんどかったのを覚えていたし、何より旅路を少しでも楽にしたいってのがあっからね。必要が発明の母とはよく言ったよ」

 元々、シグザール王国内とはいえザールブルグから西の港町カスターニェへの旅路で、安全性を得る為に造った魔導具だった。

 あれは割と長い旅路になるし、村に立ち寄れないと野宿が当たり前。

 だから必須だった。

「ねえ、ユート」

「どうした、ベロニカ?」

「今度はアンタの合体魔法を見てみたいわ」

「別に構わないが……」

「序でにその技術、盗ませて貰うから」

 ベロニカの瞳が不敵に光るのは、やはり天才魔法使いとしての矜持からか。

「お姉様。合体魔法っていうのは若しや、ユート様があの時に使った呪文?」

「そうよ。あれはメラミとライデインを合体させて作った火雷球らしいわ」

「まあ、そんな魔法が」

 セーニャが驚く。

 キャンプを終わらせて、ユート達は再びサマディーに向けて進んだ。

「あ、早速出たわよ」

 サボテンボールが数匹、強さも数も適当だろう。

「右手にバギマ。左手にはベギラマ……合体魔法」

 ユートが右手と左手を組んで魔法を合体させる。

「バギラマ!」

 嘗て、賢王ポロンが覚醒する前に無意識でゴールドオークに使った合体魔法、それがバギとギラを合体させたバギラだった。

 今回は中級呪文の合体、バギラマの閃熱エネルギーで焼けた真空の刃が、相対するサボテンボールを切り刻みつつ焼いている。

「ゴクッ、これが合体魔法の威力……ね」

 ベロニカの呪文を視る目が怪しく光り、絶対に覚えたいと強く願っていた。

「やるもんだね。流石は俺の師匠ってな」

 こうして旅路は順調で、パーティはサマディー王国の城下町に辿り着く。


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