第11話:錬成! . 「あれぇ? 父上、母上、ヴァリエール公爵様、公爵夫人にミズ・カトレア?」 「む、ユート……と、それにエレオノール嬢、ルイズ嬢……」 ユートの声にサリュートが振り返ると、隣を歩いているエレオノールとルイズに気付く。 「エレオノールにルイズ、お前達はユート君と一緒だったのか」 「ええ、お父様。彼は中々に博識で、有意義な時間を過ごせましたわ」 エレオノールがヴァリエール公爵に、笑顔を向けて応えた。 つい先程まで、ユートとの会話でエレオノールは、その年齢にそぐわない知識に舌を巻いていたのだ。 当たり前だが、ルイズは殆んど異世界の言葉みたいに理解不能で、頭から湯気でも出す勢いだったり…… 「そういえばユート君」 「何でしょう、ヴァリエール公爵様」 「それは少し堅苦しいな、名で呼ぶ事を赦そう」 「え? でも……」 これには流石に戸惑う、サリュートはヴァリエール公爵と友人なねだろうが、ユートは新興の子爵家に生まれた子供に過ぎない。 それが会って一日で名を赦すと言われても、これは戸惑ってしまう。 一応、ユートがヴァリエール公爵の名は聞き知っている事は、サリュートから教えられているらしいが、行き成り呼ばせようと考えるとは思わなかった。 実は心の内で、ヴァリエール公爵は『何れは身内になるやも知れぬしな』と、考えていたりする。 カトレアは、そんな内心を正しく感じ取った。 普段の公爵は、親バカのきらいがあるのだが、友人の息子だという事を差し引いても、厳格な父が名前を簡単に赦すなんてあり得ない話だ。 「(先程の婚約とかは、本気なのかも……)」 ユート自身は未だ五歳という幼さだし、ルイズなどこの中では最年少の四歳。 王候貴族ならば生まれた瞬間には……否、生まれる前から婚約者が居てもおかしくはないが、どうも父親たるヴァリエール公爵は、半ば以上本気で考えているみたいだ。 カトレアはその胸の埋に何か、黒いモノが蟠るのを感じていた。 「それでは……失礼ながらピエール様と呼ばせて頂きます」 「うむ」 ユートに名前で呼ばれたヴァリエール公爵は、満足そうに笑顔で頷く。 「それでは、ピエール様。先程の続きですが、僕に何のお話しでしょうか?」 「ああ、サリュートから聞いたのだがな。ユート君は魔法を上手く使えるとか。今はどんな具合かな?」 「はい。一応、父上と母上の系統を継いでおります。先日、土と水がラインとなりました」 「何と、まだ魔法を習い始めて半年も経っておらぬ筈であろうに、もうラインになったと云うのかね?」 「はい」 公爵の驚愕も当然だ。 普通のメイジの場合は、習い始めて直ぐランクが上がる事はまず有り得無い。 ユートがこんなに早い時期にラインと成ったのは、神より与えられた魔法への親和性と前世の経験値に加えて、毎日の様に魔法を倒れるギリギリまで精神力を使い、アメジスト製作で遂には倒れた事で、許容量(キャパシティ)が引き上げられたのと、祈りで精神が昂揚してトランス状態になったのが原因だ。 この分なら風と火も直ぐにラインに上がるだろう。 「ふむ、それは是非とも見てみたいものだな」 「公爵、本日は我らは屋敷に逗留をする予定ですし、パーティーが終了後に何かやらせてみますか?」 「おお、サリュート。それは良いな」 「(いや、父上……せめて本人に確認くらいしましょうよ)」 心の中で悲鳴を上げる。 「それで良いかね?」 「判りました。精一杯やらせて頂きますピエール様」 真逆、ヴァリエール公爵の方で確認をしてくるとは思わず、反射的に頷いてしまうユート。 【烈風】に目を付けられそうだと、頭を抱えたくなってしまった。 とはいえ、公爵はアニメの方で親バカが目立ったものの、中々に常識的な様でユートもホッとなる。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ カトレアの誕生会も終わって、夜の帳が降りる中庭にヴァリエール家とオガタ家の面々が集合していた。 ヴァリエール家の執事とメイドを総括している執事長ジェロームに頼み、大きめの石を持ってきて貰う。 ユートがこれから見せるのは、雑学の知識や此方で得た知識から独自に組んだオリジナルスペル。 本来ならスクウェアとなる必要があるのだろうが、これから見せる魔法は其処までの必要は無い。 「それでは、少し暗いので明かりを点けますね?」 そう言い呪文を唱えた。 それはこれから見せるだろう魔法とは別に、コモン・マジックとして似た名前ながらまた別の魔法としてスレイヤーズから再現したモノである。 「火より生まれし輝く光、我が手に集いて力となれ。ライティング!」 ユートの手の内より光球が生まれて、それが中に浮いて一気に辺りを昼間の如く照らす。 これはハルケギニアにも存在する光を生む魔法であるライトに近いが、此方では杖の先をボンヤリ輝かせる程度のモノを、想像力(イマジネーション)で補強して、完成させた。 事実、公爵達もライトなのだと誤解したが明かりの強さに驚いている。 目敏くヴァリエール公爵夫人のカリーヌが、ユートへ質問すべく口を開いた。 「貴方、指輪を杖に使っているのね?」 「はい、公爵夫人」 ユートは、嘘を吐いても意味を為さないと感じて、素直に首肯する。 「ピエールの事は名で呼ぶ事になったのでしょう? ならば、私の名前を呼ぶ事も赦しましょう」 カリーヌ夫人は女性特有の柔らかな笑みを浮かべ、そう言った。 「判りました、カリーヌ様と呼ばせて頂きます」 固辞するのも失礼だし、ユートは貴族としての一礼をして、そう返事をする。 「では、始めます」 パンッ! と手を合わせると詠唱を開始する。 詠唱はスレイヤーズ系の呪文を頭の中で展開して、口では此方側のルーンによる詠唱を行う。 『全ての命を育みし母なりし存在(もの)無限の大地。ヒトの身を円環と成して、理を循環し、我が手に集いて力と成せ!』 詠唱もオリジナルながら【鋼の錬金術師】をベースに想像構築し、合わせた手と手で∞の円環を創る。 それにより、魔力を身体の内で循環させていく。 閉じた円環(ウロボロス)と生命の螺旋(カドケウス)は共に蛇を象徴とするが、ユートの魔力の錬功はそれを根元としており、使用する魔法とは即ち…… 「【錬成】!」 精神力を媒介に、魔力を頭の中の術式に従って構成して、大石へと叩き込む。 やった事は【錬金】と変わりないのだが、ユートの【錬成】は精神力の消費が少ない割に効率良く、可成りダイレクトに想像力を顕す事も可能だ。 ユートが大石を鉄に変えるイメージで魔力を叩き込む事で、その大石はその通りに姿を変えていた。 これの基となった魔法、【錬金】そのものが理解をし難い為、原理の説明までは出来ない訳だが、無理矢理に説明すると原子レベルまで石を分解し術式に従い再構成する事で、石の元素をFeに変換するのだ。 原作でもシュヴルーズが石ころを真鍮に換えたし、ギーシュが土や石から青銅を創れる様に、ユートも石を鉄へと創り換える。 魔法によって石から鉄へと変化させる事自体は珍しくないが、魔法を習い始めて間もない子供が石を鉄に変えた事に驚愕した。 石の質量をその侭、鉄の質量に変換は出来ない上、【錬成】の際には不純物を極力排除した為、基の石より鉄は小さくなる。 それでも、これだけ純度の高い鉄なら申し分なく、然れどエレオノールはそれ以外で驚愕していた。 ユートは、ライティングを保持した侭で別の魔法を発動させている。 詰まるところユートは、魔法の複数同時展開が可能であって、この事に関してはカリーヌ夫人とカトレアも気が付いていた。 ヴァリエール公爵とサリュートは、鉄を作ったという結果のみに目が往っている様だが…… ある意味では底知れない実力を示してしまったが、決して意図的にやったわけではなく、その事にユートは全く気が付いてはいないという。 「ユート君、貴方は二つの魔法を同時に扱えるのですか?」 「は? はぁ、使えます」 だからこそ、カリーヌ夫人に指摘を受けても理解が及ばなかった。 「あ、ああ……貴方ねぇ、その年齢でこれだけ高度な術を使えて、更に二つ同時に魔法を起動出来るなんて事がどれだけの事なのか、理解出来ていて!?」 未だ目の前の現象が信じ難いのか、エレオノールは吃りながらハッキリ叫ぶ。 今年で15歳の彼女でもあんな事は不可能であり、10歳も年下の少年の腕に驚嘆させられたのだから、これは仕方あるまい。 「ふ〜む。どうやらユート君は才能があり、且つ努力を惜しまぬ様だな。これはやはり……」 公爵は、どんな形でも構わないから『欲しいな』と思う。嫡子故に婿には取れないし、歳の近いルイズはワルド家のジャン・ジャック・ド・ワルドと婚約を考えているし、どうしたものかと悩むのであった。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |