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本当の勝負はここから、今からは下手に出るばかりじゃなく、こっちの都合良くグロリアス側に動いて貰わないと行けない。

向こうに主導権を握られては、こっちの目的は達成されない。あくまでも、那賀川を操れるのはこっちだという事を主張し、条件を出した。

一つが、那賀川を受け渡す日と場所はこっちが指定する事。
二つは、こっちが合図するまでは、那賀川に接触しない事。
その条件には思った通りに反論が来た。想定内の反応に用意していた理由を返信する。
多少疑われても、この条件が揃わなければ意味が無い。
理由として追加した内容はこうだ。
「那賀川は、グロリアスの存在に薄々感ずいており、樫木生を警戒している。自分は樫木に入る以前からの顔見知りで気を許しているが完全に信用されている訳では無く、むやみに他の樫木生が接触して失敗したら、恐らく自分も警戒される。
少しだけ時間を掛けて、那賀川の警戒が薄れた時に合図を出すので様子を見させて欲しい」

結構苦しいが、条件を勝ち取る為にはこれが妥当だった。
これで上手く行くか、可能性は半々。
このメールの返信には少し間が開いた、その微妙な時間がどっちに転んでるのか、覚悟を決めて、誠悟はメールを開く。


「どっちもか」



そこに浮上していたのは、新たな問題。


『本当に樫木生か?』


先程の理由を受けて、向こう側は、こっちが本当に樫木生であるかどうかを疑って来た。
しかし、付け加えて、本当に樫木生である事の証明が出来るなら条件を受け入れるとの事。

樫木生である事の証明は無理だ、本当は樫木生どころか赤高生なのである。
それでも、どうにかこっちを樫木生だと思わせる事が出来れば、後はこっちの思い通りに動かせられる。
反対に樫木生である事の証明が出来なければ完全に疑われ、今までの苦労が全てパーになる。

次のメールでどう返すかが、最後のチャンスだった。樫木生だとどうにか思い込ませるしかなかった。


そこでイチかバチか、考え出したのが、坂本と誠悟による「架空の樫木生」の更にダミーを立てる事。

それが、坂本が言っていた「偽樫木」の事である。
架空の「樫木生」を三次元化し、那賀川と接触させ、いかにも架空の「樫木生」が実在しているように見せる。
上手く成功すれば、あとは今後のメールのやり取り次第で信じ込ませる事が出来るかもしれない。

しかし、ダミーはグロリアスに通じておらず、「架空の樫木生」の設定に見合ったような奴じゃないといけない。

そんな奴をどうやって用意すればいいのか、ファミレスで話し合いをしていた誠悟と坂本が諦め掛けていたその時、偶然に現れたヒコボーの紹介で出会ったのが「諸星くん」である。


諸星くんは、坂本の思う「偽樫木」像にピッタリで、誠悟すら奇跡的なチャンスだと思った。

坂本からシナリオを聞いた時は、余りにも強引で正直無理があると思っていた誠悟だったが、強引にも進んで行く様に、いつの間にか血が騒いでいる。


樫木も、まさか那賀川アジト狩りに協力してくれるのが坂本だとは思うまい。


いや、最後まで思わせてはいけない。坂本の登場は、最後だ、最後の最後まで、坂本には逃げ切って貰う。
偽樫木の用意が整った誠悟は、直ぐにパソコンを開き、待たせていたメールの返事を制作した。





この約一ヶ月間、誠悟はほぼ自室に篭り、メールで偽樫木を演じ続けた。
一番大変だったのが、何も知らずに「偽樫木」を演じる諸星くんにグロリアスの人間を近づかせないようにする事である。
この計画の事を本当は何も知らない形だけの存在の諸星くんに接触されたら、直ぐに嘘がばれてしまう。
そこで考えたのが、グロリアス側が坂本が何かするかも知れないと警戒してるのであれば、その深読みを逆に利用する事だ。
誠悟はグロリアス側のメールとのやり取りで「那賀川と接触した際、『坂本は自分の存在を疑っている』というような事を話していた、坂本はグロリアスの人間を調べているようなのでやり取りはメールだけにしないと危ない」という忠告をし、接近を拒んだ。
そしてこれは、坂本に対する警戒を更に強める事にも繋がる。
この効果で、グロリアス側は架空の「樫木生」は那賀川と接触出来てかつ、坂本の動きを探れる存在だと思い込む。
そして、坂本に対する警戒が更に強くなり、那賀川の件はこっち任せにしてくれるようになった。
坂本掲示板は、グロリアス上で随時更新中。
坂本の追い方も日に日に激しくなっていっくのを見て、坂本はあえて意味深に動きまくった。
グロリアスで那賀川の件に関わっている者がどれだけいるか分からないが、確実に人数は坂本を警戒する派に分散される。
だから坂本は勝手に憶測してくれる事を期待して、逃げまくった。
いつの間にか樫木は、那賀川アジトを狩る事と坂本明男を追う事を混同する。


坂本を警戒してくれればしてくれる程、グロリアス内の情報は乱れ、真実は偽物に紛れる。





「ここまで来たのは奇跡だ、頑張れ坂本」


そして現在、約束の1時間まであと15分を切って、誠悟は少し焦りを感じていた。

店内の客は仕事帰りのサラリーマンやOLに変わり、誠悟の背景だけが動いていく。

坂本のやりたかった事は、「なかがわを餌に樫木を釣る事」

誰よりも先に現場のゴミバケツの中に身を潜めて待機していた坂本は、デジカメ片手に運命の瞬間を待つ。
誠悟は知っている、坂本が本当にやりたかった事


「人の縄張りに勝手に入った時の常識は、来たときよりもうつくしく、よ」


坂本の言葉を、誠悟は思い出す。

あと15分の間に必ず坂本が世界をクリーンにして帰ってくると信じながら。

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