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このお約束な場面は、よく覚えが、しかしこんな時に、今かよ、今は駄目だよ
ってえ、ゆーかさー!!!
「何でいんの!!!!?」
「あはははお前こんなとこで独り言とか言うなよ、ムービー撮られるぞ」
気付かない、オレもオレだが、本当にこいつはなんなんだ!?忍者ハットリくんか!?
いつの間にか、狭いベンチの余ったスペースに三角座りで腰掛けている坂本の姿がオレの目の前にある
信じられない、信じない、人間じゃない。
今の爆弾みたいな状況で、現実逃避の言葉が頭をぐるぐると駆け巡り、オレは今気絶してもおかしくない。
オレの言葉を一体どまで聞いていたんだこいつは
リズムの会わない脈が全身をばたつかせ、石になったかのように動かない体にムチを打つみたいにドクドク響く。
何も言うな、何も聞かないでくれ坂本。
今つつかれると、全部が、いいも悪いも分からない、ただ本音っていうだけの全部がお前に当たるよ
オレはそんなもん見せなくないんだ
「いったのかなーって何」
ああ、駄目じゃん
何の思惑も混ざらない、こんな時に限ってそんな色の目をオレに向ける
好きだ、もうだめだ、他の言葉が何一つみつからない、粗末なごましも言い訳も全部自分の体から蒸発して消えていく
胸がくるしくて、死にそうで、我慢していた小さな袋ははじき飛ぶ
「お前は好きだって言われたら今まで、ずっといいねって言ってきた?」
悪あがきで作った笑い顔の上に涙がたらりと零れた。
下手な平常心を装えば、余計に重さが際立つな
もう台なしじゃん、なにもかも。坂本はこういうの言われんの嫌だろうな、だってこういうの含めて、オレが言った好きにいいと言ったわけじゃないんだろ
オレも言いたく無かったなあ、言いたく無かったんだ、こんな誰かと比べるような事、そんなふうになりたく無かった。
誰よりも一番がいいなんて欲だけは、見せたく無かった。
きりがなくて、お前の広い世界には誰が見ても邪魔くさい。オレだって、思う。
坂本はオレの言った意味が分かってるのか、分かってないのか、いつも通り変わらないままオレを目に通す。
オレの言わんとすることが、伝わってないなら、いつも通り馬鹿にして返して。
伝わったなら、オレの感情が必要じゃないなら、捨ててもいいんだよ
「とか、思っただけ」
「言ってないよ、いーねだろ」
喉の熱を吐き出す為に呟いた声に重なる返事は余りにも淡々と
坂本がオレの方を向かずに呟いた言葉に点滅する思考。
今まで聞いたどんな音より、その声は真っさらにオレの耳に響く
「いーよって言ってた、いーねとか言ってない」
無表情のまま淡々と呟く坂本の姿が、なんだかおかしくて
でもオレはなんだか体がジンジン痺れて、胸もさっきよりずっと苦しくて、でもそれがよくて
「なんでオレにはいーねって言ったの」
「さあ」
短い言葉と同時に、初めていつもの子供みたいな顔で笑う坂本。
脳までジンジンしてきたオレは、こんな大事な場面でこんな事しか出てこない
あ、笑ってる、笑ってるなあ
震える唇は、込み上げる感情に泣こうとしてる証拠、じっとしたまま動けないオレに坂本はだるそうな視線を少し向けて前を向く。
空はもう暗くなっていた。
「ねえ、ここだるくねー?この椅子背もたれ短すぎ」
「ん・・・」
「背中痛い、こんな所いつまでも居てどーすんだオレは帰んぞ」
「・・・」
体に力が入らず、動けないまま何も言わないでいるオレに飽き、坂本は落ち着きが無くなってきて、座ったままだるそうにベンチにもたれる
今はまだ色んなものが沸き過ぎて、言葉にも出来ないほど、嬉し過ぎて逆に苦しくて
無理だしばらくは立てない
そうこうしてるうちに、坂本は鞄を拾い上げ膝に乗せた。
ああ、せめてなんか言わないと、坂本が行ってしまう前に
焦って無理矢理顔を上げたら、立ち去ろうとしていた坂本はなぜかタバコに火を付けていた。
「早く帰ろーよ」
なんだよそれ
駄目だよ、お前が居る限りはこんなの死ぬ程幸せ過ぎて、立つ事さえ無理だ
「坂本・・ちょっとケンラブって言ってみたら」
「あーお腹すいたー」
オレの久しぶりの言葉を完無視する坂本
空がキレイで、オレはそんなこいつ姿と空から眺める自分の姿を想像して、久しぶりに吹き出して笑えた。
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