2 「坂本、分かれよ。」 「何が?」 「そんなオレの顔に気付くんなら、分かれよ。オレ坂本が好き。」 「・・・」 「好き、チューして坂本」 前通りになんか、出来ない。前通りになんかやってたら、期待し過ぎて、絶望もきっと一杯して死んでしまう。 こいつがこんな調子なら、きっとどんどん溺れて、怒る振りも出来なくなる。 こんな言い方をしたのは、少しでも曖昧に取られないように。 今思ってることをそのままに。 グレーの位置にいるのが、今のオレには一番辛かった。 気持ちを知られて嫌われるより、一回のチューを思い出にこれから今まで通りやっていく方がずっと苦しかった。 もう一緒に居れないって事よ、オレの最後の努力だ。 オレの言葉に無言のまま睫毛を伏せる坂本。 こいつは睫毛の色も薄い。眼球に合わせたみたいなキレーな色。 残り少なくなってきただろうと感じる、坂本とかわす言葉を待ちながら オレはやっぱこいつが好きだなあと思いその色を眺めていた。 「前から思ってたけど、お前のオレの事見る目ってさー。」 突然口を開き始めた坂本。 その声は淡々としていて静かで、一切の感情が読めない。 「縋るってゆーか、祈るってゆーか、オレこいつの神様なんかなーって思ってた。」 伏せられていた睫毛は上がり、再びビー玉の目がオレを覗く。 オレは口を挟まずじっとしたまま、ただその目に自分の姿を映した。 「ずっと何なのかわかんなかったけど、それがそーゆう事?」 坂本は、何かが繋がったような言い方で、オレに笑い掛ける。 その笑顔の意味を、投げやり気味に聞いていたオレは瞬時に判断出来ず ただ坂本の笑った顔に、心臓をバクつかせるしかできない。 「ふーん、オレの事好きなの。なんか、いーね、それ。」 坂本の答えは、満面の笑みで、いーね。のシンプルな一言。 その「いい」の意味はどういう感情なのか、深く悟れないけど、そんな小難しい事オレはこの瞬間に全部どうでもよくなった。 なんでもいい、軽くてもいい、坂本がオレの「好き」に「いい」と笑う。 やっとオレはオレのままで坂本の隣に居る感覚を取り戻した。 オレは男で、坂本も男だけど、同じ人間の形をしてるから思いっきり抱きつく。 好きで、抱きつくのに、何の支障も無い生物に生まれてこれて嬉しい。 「これは、いい?」 「うーん!普通!」 オレの抱擁に、微妙なリアクションの坂本。 贅沢を言ってはいけないが、あまりにもムード無い声色にオレは顔を付き合わせてぶすくれる。 無言で口を尖らせながら坂本を見ていたら、突然狭くなる視界。 鮮明に残る感触が、再びオレの口元に戻ってくる。 「これは、いい?」 口を離した瞬間、ニヤリとイタズラ顔で笑う坂本。 馬鹿じゃねえの、死にます。 「いいに、決まって、る、ですよ、つーか」 「ん?」 「オレ、またして欲しそうな顔してた?」 「いや」 また、サービスしてくれたのかと思いきや、短く否定する坂本。 オレは戸惑い気味にその顔を見つめていたら、にっと歯をみせて見せ付けるように舌を出す 「今のはオレがしたかったから。」 顔に、血が集まっていくのをかんじる。 何だよ、そういう事は、する前に言ってくれや。 自惚れても仕方ないじゃん、嬉しくても仕方ないじゃん。 愛されてるかのよーだって、勝手に思ってもいいじゃん。 「坂本、あと10秒」 「8秒、いくらお前だってそー簡単に坂本に触れられると思ってもらっちゃ困るんだよね」 「いくら、お前って、じゃあオレ以外だったら何秒?」 「2秒」 ああ、ラブ。 残り最後の8秒間に、坂本と一瞬でも気持ちが重なったか . オレは想像する。そしてポジティブに期待する。 いい、って思ってる坂本を、自惚れながら想像する [前へ] |