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「坂本、分かれよ。」



「何が?」



「そんなオレの顔に気付くんなら、分かれよ。オレ坂本が好き。」




「・・・」




「好き、チューして坂本」




前通りになんか、出来ない。前通りになんかやってたら、期待し過ぎて、絶望もきっと一杯して死んでしまう。


こいつがこんな調子なら、きっとどんどん溺れて、怒る振りも出来なくなる。



こんな言い方をしたのは、少しでも曖昧に取られないように。
今思ってることをそのままに。


グレーの位置にいるのが、今のオレには一番辛かった。


気持ちを知られて嫌われるより、一回のチューを思い出にこれから今まで通りやっていく方がずっと苦しかった。



もう一緒に居れないって事よ、オレの最後の努力だ。



オレの言葉に無言のまま睫毛を伏せる坂本。

こいつは睫毛の色も薄い。眼球に合わせたみたいなキレーな色。



残り少なくなってきただろうと感じる、坂本とかわす言葉を待ちながら


オレはやっぱこいつが好きだなあと思いその色を眺めていた。







「前から思ってたけど、お前のオレの事見る目ってさー。」




突然口を開き始めた坂本。
その声は淡々としていて静かで、一切の感情が読めない。



「縋るってゆーか、祈るってゆーか、オレこいつの神様なんかなーって思ってた。」




伏せられていた睫毛は上がり、再びビー玉の目がオレを覗く。


オレは口を挟まずじっとしたまま、ただその目に自分の姿を映した。




「ずっと何なのかわかんなかったけど、それがそーゆう事?」




坂本は、何かが繋がったような言い方で、オレに笑い掛ける。


その笑顔の意味を、投げやり気味に聞いていたオレは瞬時に判断出来ず


ただ坂本の笑った顔に、心臓をバクつかせるしかできない。






「ふーん、オレの事好きなの。なんか、いーね、それ。」





坂本の答えは、満面の笑みで、いーね。のシンプルな一言。


その「いい」の意味はどういう感情なのか、深く悟れないけど、そんな小難しい事オレはこの瞬間に全部どうでもよくなった。



なんでもいい、軽くてもいい、坂本がオレの「好き」に「いい」と笑う。




やっとオレはオレのままで坂本の隣に居る感覚を取り戻した。



オレは男で、坂本も男だけど、同じ人間の形をしてるから思いっきり抱きつく。

好きで、抱きつくのに、何の支障も無い生物に生まれてこれて嬉しい。





「これは、いい?」



「うーん!普通!」




オレの抱擁に、微妙なリアクションの坂本。
贅沢を言ってはいけないが、あまりにもムード無い声色にオレは顔を付き合わせてぶすくれる。



無言で口を尖らせながら坂本を見ていたら、突然狭くなる視界。


鮮明に残る感触が、再びオレの口元に戻ってくる。





「これは、いい?」




口を離した瞬間、ニヤリとイタズラ顔で笑う坂本。



馬鹿じゃねえの、死にます。



「いいに、決まって、る、ですよ、つーか」



「ん?」



「オレ、またして欲しそうな顔してた?」



「いや」




また、サービスしてくれたのかと思いきや、短く否定する坂本。


オレは戸惑い気味にその顔を見つめていたら、にっと歯をみせて見せ付けるように舌を出す





「今のはオレがしたかったから。」




顔に、血が集まっていくのをかんじる。


何だよ、そういう事は、する前に言ってくれや。



自惚れても仕方ないじゃん、嬉しくても仕方ないじゃん。





愛されてるかのよーだって、勝手に思ってもいいじゃん。






「坂本、あと10秒」




「8秒、いくらお前だってそー簡単に坂本に触れられると思ってもらっちゃ困るんだよね」




「いくら、お前って、じゃあオレ以外だったら何秒?」



「2秒」




ああ、ラブ。





残り最後の8秒間に、坂本と一瞬でも気持ちが重なったか
.
オレは想像する。そしてポジティブに期待する。


いい、って思ってる坂本を、自惚れながら想像する

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