2 「てめえ、あんまふざけてんじゃねえぞ!!てめえをこの辺歩けなくするくらい、わけねーんだよ仙山は!!」 オレの態度に怒りが頂点に達した仙山は、オレの首をギリギリと締めるように掴む。 全員でオレを一斉に囲み、壁とオレと仙山の隙間はほとんど無くなる。 首が締まった事によって更に肺は苦しくなりオレは思わず大きく咳込んだ お構い無しの仙山は、下半身をガンガンと蹴りまくり、足腰は完全に機能を失う。 「・・うぁ!!」 止まらない咳をするオレに、一人の仙山の奴の手が、顔に近き、開きっぱなしの口に固い拳が問答無用で突っ込まれた 「おい、知ってっか?こないだの赤高の奴、わざわざオレらんとこにお前の写真持ってきてくれたんだわ、気持ち悪りいけど助かったよ」 オレの口をギリギリと開けたまま固定して、冷えた口調でオレに呟く 「そいつは、これから一生仙山って言葉に脅えながら暮らすんだよ、雑魚が刃向かったら誰でもそうなる、なあ?」 口の中は渇き、吐き気を催すような胸やけがどんどん広がる 目の前の相手は、拳の力を弱める事の無いまま、ポケットを探って何かを取り出すような仕草 かろうじて開いていた目が、捕らえたのは、先の尖る金属、血の気がさっと引いていくのは嫌でも感じた。 「今どき、ベロに穴開いてる奴ぐれー珍しくねえだろ、オシャレだろオシャレ。」 目の前で、不気味に揺れる、太めの釘。 拳を突っ込まれたまま、中指の第二間接で舌をなぜられた マジかよ、さすがにこれはヤバイ。 「でもオレプロじゃねーから、喋んのに障害とか残るかもなー」 注射機のような持ち方で男が持っていた釘は、凍るような冷たさでオレの唇につけられた。 もう、ダメだ、入る 「逃げてーケーサツよんだわよー」 オレの舌に釘の先が押し付けられて、あと数ミリで肉に到着するその時 背中にある壁の上の上の上の方で、充満しきった灰色の空気を割るような、声。 オレを含む全員の動きが一斉に止まった 暗い部屋に、パッと電気を付けたような明かり。 「救急車も呼んだしー消防車も呼んだしーバイク便も呼んだしーモノレールも呼んだしー、ま、嘘だけど、みんなチョー警察って言葉に弱いじゃーん。うけるー」 「坂本!!!」 3メートル以上の壁のてっぺんで輝く眩しいブロンド なんで、電話は無くなった、通話ボタンを押す前に、 なんで、いつも、どうやって どうして、お前はオレの前に現れる事が出来るの? 坂本。 「テメエ!!降りてこいや!ぶっ殺す!」 「オラ来いや!!」 坂本の登場により、事態は急変し、オレに迫っていた鉄の塊もアッサリ地面に落とされた。 オレは心臓を騒がせながら、ふらつく頭で上を見上げる 青空をバックに光る金色の髪と薄茶色の目、額縁に入れて飾って置けば調度いい、鮮やかな色彩。 カラフルな世界。 釘付けになりながら、ひたすらその姿を目に映していたら、坂本と目があった。 笑っているような、気がした。 ハッキリと言い切れないのは、この瞬間ようやくオレは今までよく持っていたというほどの意識を手放したからである。 「てめえ、坂本、お前は明日から透明人間だ、お前の歴史は今日で終わる、お前の名前も今日で消えんだよ」 「へー」 「知ってんぞ、今まで誰もお前潰しにいかなかったのは、黒川が居るからだろ、お前の揉め事片付けてたのは、全部お前じゃなくて黒川らしーじゃん、皮が禿げたお前に赤高の馬鹿共もきっと殺しにかかんだろな」 「へー」 二回目の返事と同時に、坂本は、両手で勢いを付け、高いコンクリートから体を放ち、まるで飛ぶように地面に着地 次の瞬間、ほんの一秒にもみたない瞬間に、素早い動きで一番近くに居た仙山生に回し蹴りをし、その場にいた全員が怯むような早さで、まず一人目の意識を失わせた 「やっぱやってる事古いとブームにも乗れてねーな。」 仙山の生徒達は、突然縮まった距離で、実感し、数人の張り詰めていた気迫が少しだけ濁る。 実感したのだ、真実はどうであれ、坂本明男が目の前に居るということに 「ああ?」 「その言い訳、ちょっと前にオレが遊んでやった奴の間で流行ってたって知ってっか?」 集団の中、坂本は他には目もくれず、オレに拳と釘を向けていた男にだけ近づいていったらしい 「でも、今時そんなん流行んねーから」 前髪からギラついた目を除かせながら、坂本はまだポケットに手を突っ込んだままだった。 [前へ] |