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66大変はそれだけ
あれから、時間は経ち、日中の暑さが段々和らぎ始めた頃


オレは一人赤部近くの公園に居た。


なかがわの電話が繋がらなくなって、もう四日経った。

この辺に居る保証はないが、心当たる場所が思いつかないせいで、ひたすら赤高周辺を歩いた。


当たり前のように、手掛かりは見つからず、未だ繋がらない電話に、ため息が出る。



後姿でいいんだ、オレの前に現れてくれないか



赤くなり始めた空を仰ぎながら、いつかここになかがわと来た時の事を思い出していた。





【大変はそれだけ】





グロリアスに、書かれてあった事は腹立たしいが、きっとあの内容は本当の事なんだろうと、なんとなく分かる。


アンジーの話に出て来た言葉とか、今までなかがわに対して抱いていた疑問が


あの内容で、全てつじつまがあってしまうから。



全て理解した訳じゃないが、つまりはそういう事なんだと、空白が埋まったのは事実だ。




駄目だ、やっぱり衝撃が強過ぎて、まだ頭の中がぐちゃぐちゃする。


外の気温はどんどん落ちついているはずなのに、まるで太陽の真下にでもいるように頭がくらりとした。



もう少し前に、この事を知っていたら、オレはもっと警戒してた?

なかがわの事をもっと知っていたら、早く動けてた?


こう、気が落ちるのは、不安や疲労のせいだ。
分かってるけど、重くのしかかる物を持ち上げられない。


気がつけば、オレの心は無意識に言葉を繰り返している。
それははっきりと聞こえた。



誰か助けて。





追い込まれていた、瞬間だった。
オレの意識を内側から外に帰す、携帯の着信音。

無機質な音なのに、まるで誰かが掛けてくれた声のよう。


縋るように通話ボタンを押した後に聞こえてきたのは、本物の声、電話ごしでもまるで、すぐ横に居てくれてるような錯覚。




「おい、今起きた。たまには外に遊び行くよ、外外。」


「さかもとぉお!!」



「お前なんつー声してんの?れなに蹴られた?」


「さかもと!大変、なか、なかが、なかがわが、お願い!来て!」



「はい?どこに?」



「なかがわ!来て!お願い!」


「だからどこに!つってんだろ!!なかがわと来て以外の単語喋ろ!!」




声が聞けただけで、こんなにも、安心出来た事は今まであっただろうか。

まるで、流れ出して止まらない後ろ向きな思考を問答無用に止めるセメント。


電話が掛かってきたのは、ほんの偶然。


それが分かってても、ケータイを握る手は、神様からの贈り物でも扱うように震えている


運命の存在なんかを信じてしまうのには十分な偶然だ。


手短に場所を伝え電話を切った後の精神は、笑える程単純に穏やかなものになっていった。



坂本が来たら、もうとにかくなかがわの事を伝えて

今まで黙ってた事怒られる所は怒られて


坂本の方がよっぽどなかがわに詳しい。
きっと今よりは何か進歩する。


ようやく冷静に働き始めたオレの頭が、これからする事をまとめ出した時、背中に声が掛けられた。




「だからなんでいつもここ?」



相変わらず派手な頭、色素が薄い目には、夕方でも眩しいんだろう、でかいメガネで呆れ声から想像される顔は半分隠されている


いつもの見慣れた、寝起きでだるそうな坂本の姿は、何故だか、不思議と懐かしく感じて、嬉しかった。




「坂本おおお!!」


「だから何!?今日のノリ!くんな!くんな!」



抱き着きたい衝動に駆られ、思わず駆け寄ればあっさりと足踏み一歩で避けられるオレ。

この辺も普段と変わらずで、調子が戻ってきたオレは、ノリを切り替え、口を開く。


横須賀君に聞いた最初から、今日、今までの事全部。
いきなり言われても、理解しずらい内容だから、時折言葉につまりながらも事細かに全部話した。


話しを聞いてる間の坂本は、以外な程黙ったまま。


微妙な表情の変化が段々と明らかに分かる、眉間の深い皺になっていく。




「だから、今なかがわを探してたのよ、心当たりつったら、オレ赤高周辺しかわかんねえし」


「・・・・」



一通り話した後も、坂本は無言で眉を寄せながらオレを見る。


その表情は、怒っているのか、疑ってでもいるのか、まだ分からないが明らかに、不快を示しているような顔。


覚悟はしていたが、坂本か言葉が出るのを待つ間が怖かった。


そりゃあ、今まで黙ってたのも悪かったし、なかがわがそんな風に言われてる事は腹立たしいだろう。


怒りを表して当然だ、オレは覚悟を決め、きゅっと唇を結び待っていたら


少しの後、坂本から発せられた言葉は想像とは少し違うものだった。





「え、大変って、それだけ?」


「え・・・?」


「お前が、言語解読不明になってた理由ってそれだけ?」


「う、うん・・・」


「こーんな所にオレが呼び出された理由ってそれだけ?ふざけんなよ」




思いもよらなかった坂本の言葉にオレは戸惑いを隠せないでいたが

そんなオレの様子にすら坂本は苛々しているようだ。

オレがあれだけ衝撃を受けたなかがわの話に、坂本は億分の一も動じていない。

そんなまさかのリアクションを取られたら、オレだってこの後どうしていいか分からないじゃないか



「だって、四日電話繋がらねえんだよ?」


「二年姿くらましてた奴が、四日電話が繋がらねーくらいなんだよ」


「でも、今は状況が状況じゃん!もし樫木と何か絡んでんだとしたら・・」


「多分無いだろ。例え絡んでよーが、たかが樫木にアジトが捕まるわけない。四日も経ってんならなおさら」



一体何を根拠にしているのか、坂本はオレの不安要素をズバズバと次々に切り捨てていく。

オレが心配を拭い切れていない様子に、めんどくさそうにさえ見える



「どんな捕まり方してようが、四日は長すぎる。前に中国人のスナイパーに鍵付きの地下室に監禁されてた時も、二日目には脱出して黒やんちで飯食って帰った」


「スナイパー!?」





オレのリアクションにまるで興味を示さず、まるで作り話みたいな事を、世間話のように淡々と話す。

こいつとオレの常識の差はいったいどのくらいの物何だろう


まるで、テレビや電気を知らない原始人と現代人のような温度差だぞ。



「そ、そんなドラマみたいな話、信用出来るか!!」

「そら、ウサギなんか飼って能天気に生きてるお前からすればありえない話だろうけど、あいつはナカガワアジト。樫木に目付けられてるなんてカワイイ話よ」


「オレにウサギを飼わせてんのはてめーだよっ!!」



動揺のカケラも見せない坂本の態度に、オレも段々と力が抜けてきた。


そこまで言われたら、坂本の事を信じて待つしかないけど、一体なかがわは今まで坂本の前で何をやってきたんだ。


坂本に会う前以上に、ぐったりしてきた体。

自分だけが本当の事を知っていると思ってたのに

実はまるで分かってなかったって、事なのだろうか



「ねえ、なかがわが、捨てられてたとか、グロリアスに書いてあった事、全部本当なのかな」


「うん、本当。でもそれ秘密でもスキャンダルでも何でもないから」


「え?」


「あいつが自分で誰にでも話すから、中央中だった奴なら結構みんな知ってるし、今更珍しい話題でもないしねー」



坂本が告げた言葉で、数日前の坂本とアンジーの会話を思い出す。


アンジーも、まるで思い出話でもするように、なかがわの事を、何も知らないオレの前で口に出していた。


「ねえ、どうしてなかがわって、そういうの平気なのかな、普通そんな事人に知られるのって、辛いもんなんじゃないのかな」



「あいつ自身が、そーゆー自分の生い立ちとかを全然辛い事だって思ってないから、言ってるわけよ。それならそれでいーじゃん、あいつはお前が思ってる程悲劇の子でもないんだって」

「だって・・」


「だからこんな所で一人でジメってんなって暗いにも程があるわ。あいつだって樫木のサイトなんかよりこんな事でお前なんかに心配されてるほーがよっぽどショッキングだっつーの」



コンクリートの段差に座っていたオレの前に、ようやく坂本は近付いてきて目の前に立つ。


オレの頬を両手で挟み、ニッと笑う顔に、心臓がピクリと痙攣した。


もしかして、オレを慰めているのか、やばい、今日はちょっと優しいじゃん。

撫でる手の動きを、ずっと続けて欲しくて、上がりそうな口の端を我慢しながら、ひらすら坂本を見つめていたら、坂本はいきなりオレの膝の上に跨がって、背中に手を回し肩の上に頭を乗せた。


なにこれ!なんか猫がゴロゴロしてるみたいでかわいいよ。
稀に起きないラブモードの予感は感じていたけど、まさかここまでくっついてくるとは

脈は急激に跳ね上がる、体温も急上昇。


坂本、ここは野外だけどそんな事全然気にしてないようだね

まあ、合コンの時のチューに比べたら、人目ははばかってるほうだけど、お前こういうスリルを味わう系が実は好きなのか?


ちょっとハラハラするけど、お前のそーゆう所もオレ目茶苦茶ラブいよ



「坂本、今からどっか行くの?」


「疲れたからやめる」


「あは、今誰か来たら何て言い訳しよーか」


「兄弟です」


「それも危ねぇーよ」


「いとこです」


「一緒だよ」


「教祖と信者でえーす」


「更に色んな意味で危ないっつー・・!」



目が合ってしまったのは、坂本がオレの首にふざけて甘噛みしようとしていた瞬間


ねえこんなタイミングの場合は、なんて言お、坂本。

こんな所でこんな事をしてる時に、まさか本当に誰か来ようとは

ネタとしては笑えるけど、実現するってどうよ


けど今は、その前に、あいつだ、あいつが居る



「あれ?」


「なかっ!!!!」


「あ?」


背中を向けている坂本は、オレの首に犬歯を立てたまま、オレの叫びに怪訝な視線を向け、まだ気付いていない


ムギワラを被って、手に二本のヒマワリ。


きょとんとした顔で、こっちを見ている


行方不明だったなかがわが立っている事を

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