[携帯モード] [URL送信]
65闇のサイト
なかがわの星の人を見つけた。


灯台もと暗し、星の人は、同じ赤高、滋賀良樹だと分かったのに

夏休みに入って二日目、オレはまだなかがわにその事を伝える事が出来ていない。


あの日、すぐになかがわに電話をかけたが、繋がらなくなっていて、そのまま今こんなに時間が経ってしまっている。


なかがわのケータイは、今や懐かしき、ボロボロのプリペイド式ケータイ。

まだ使っている奴がいたと知った時は、驚きだった。

それが、ここ数日繋がらなくなっている。
金欠でカードが買えないのかな〜なんて、表面では思っているが。


オレ深読みは、どんどん嫌な想像に、傾いて


ついに、例のアレを見る決心に、思考が辿り着いたのだった。




【闇のサイト】





突然の行方不明に、横須賀君から聞いた樫木高校の話が、頭にちらついてしまうのは、不謹慎ながらも仕方ない事だ。



横須賀君から話されたあの日まで、オレは樫木高校の生徒が運営してるサイト「グロリアス」の存在を知らなかったし、絶対に見たくないと思った。



でも今は、もし万が一、そこになかがわの情報が書かれているとしたなら。



グロリアスを、見てみよう。夏の空が眩しい外の景色と対象的に、明るくない静かな自分の部屋で、悶々と考えていたオレは、一人そう決心した。



横須賀君の話によれば、そのサイトはパスワードを受け取った者以外にはアドレスを知らさない会員制。

インターネット知識が無い、オレにはそのやり方がよく解らないが、横須賀くんはどうやらアドレスを知っているらしい。



躊躇ってる暇はない、横須賀くんにグロリアスのアドレスを聞くのだ。


迷いを捨てたオレは、携帯を手に取り、横須賀くんに電話を掛けたのだった。




「ケンくん?珍しいね」


「うん、ごめんいきなり、あのさ、前言ってた、グロリアスっていうサイト、見たいんだけど」


「グロリアスを?見たいならいいけど、なんで急に。ドン引きしてたよね」


「なかがわの電話が繋がらなくなって、まさかとは思うけど、心配なんだよ」



オレの言葉に、数秒の沈黙が電話の向こうで流れる


いきなり繋がらなくなった電話の真相は、ひょっとしたら、そんなに大した事じゃないかもしれない。


けれど、今何かを見過ごしていて、手遅れになるような事があったら、その時の後悔は、きっと想像を絶する。



「分かった、すぐメールで送るから。で、電話繋がらなくなって今どれくらい?」


「今日で四日目、初日はオレ、朝まで一緒に居たんだよ」


「そっか、この事坂本には言ったの?」



横須賀君の問い掛けに、心に引っ掛かっていた罪悪感が刺激される。


オレは、まだ坂本に、なかがわの事を言えずにいるのだ。


タイミングを逃しているというのも、嘘ではないが、言い訳のようにも思える。

だって、言おうと思えばいつだって言えるのだから。

いざという時に、自分だけの力じゃ、どうにもならない事だって分かってるのに。



「まだ言ってない、ごめん・・」


「なんで謝るの?」


「ごめんなさい・・。」



いきなり声のトーンが落ちたオレに、横須賀くんの声からも戸惑いが伝わった。

とても酷い悪事を働いたみたいに、オレの口からはなんでか謝罪の言葉が止まらない。


本当は怖かった。樫木の奴らがやってる事、頭おかし過ぎて、冗談だと思いたかった。


何も起こらな過ぎて、忘れてしまうまで時が経ってほしかった。


今更、坂本がなかがわの事を他の後輩よりも特別に思ってる事を気にしていた訳じゃない。

全くないと言えば嘘になるけど、それよりも


ただ、ビビっていたのだ。
仙山の時のように、坂本を危険な事に突っ込ませるのを。

無茶苦茶な事ばっかりするけど、坂本は凄いよ。

きっと坂本なら、樫木の一つや二つどうにかしてくれるよ。


でも、集会で言ってた通り、刺された奴もいる。
絶対なんてない。


なかがわにだって本当の事を言った方がよかったのかもしれない。


言わなかったのは、全部自分勝手な理由。


あれは単なる樫木の悪趣味な悪ふざけで、何事もないことを、信じていたかった一人よがりの判断だ。




「大丈夫か?オレもプレッシャーかけて悪かったね」

「言えなかったんだ、オレ。横須賀くんに言われた通り、考えたんだけど、本当は考えたくなくて」



オレはまるで教会で懺悔録をする人のように、心の中の物を全部口に出している

「オレもあの時はそこまで本気じゃなかったし、ケンくんがどーすんのか、気になっただけ。大丈夫、ケンくんのせいじゃないから」


オレのテンパりように、横須賀くんの声は少し柔らかくなり、落ちつかせようとしてるのを、感じた。



「オレも協力するから、とりあえずグロリアス送るわ」



通話を終了した後、横須賀くんからすぐにメールが届いた。


本文にはサイトのURLと共に、会員のみに配られるパスワードが書き込まれている。


パスワードは、特に何の繋がりもないように見えるアルファベットと数字の羅列。


URLをクリックしたら、パスワード入力ページに画面が飛んだ。


オレは、間違えないように書き写したパスワードを一つ一つ確認しながら打ち込んでいく。


背景の黒い画面が、嫌な緊張感を高まらせ、覚悟を決めてパスワード認証ボタンを押した。



数秒の後に飛んだのは、先程と同じ黒い画面に、白い文字でグロリアスと書いてある普通のケータイサイトである。


間違いなく、あのグロリアスだ。


グロリアスの文字の下には、赤文字でいくつかの掲示板が設置されている。

全部抽象的な記号や絵文字だ。パッと見ただけじゃなんの掲示板か分からない。

どれになかがわの事が書かれているのか分からないオレは、やみくもに一番上から順にクリックしていった。


自殺志願者掲示板。
誰か分からない、個人の名前や電話番号がぼかさず載せられてる掲示板。

自殺志願者の掲示板の方は時折、ふざけたような内容の物もあるが、個人情報が載せられてる掲示板は、誰かが尋ねて、その返事に誰かが個人情報を書き込むという結構本気っぽい物。
淡々としてる分、余計に不気味だ。

一通り目を通して、なかがわの事が書いてなさそうだと分かれば、すぐに先に進んだ。


あらかじめ、横須賀君から聞いていて、どんなサイトか知ってはいたものの、やっぱり実物は何倍もえげつない。


あらためて、楽しんでやってる奴らの事が理解出来ないと思う。

ゴシップのレベルじゃない、ひらすら、負のオーラに満ちていた。

気分が悪くなっていくのに堪え、オレは黙々と文字を読み進めいくつかの掲示板を流し読みする中、オレは一つの掲示板を開いた後に止まる。


その掲示板のタイトルは、音譜のマークただ一つがぽつんと書いてあるだけだった。

本来、楽しい表現で使うそのマークもグロリアスにあるわけだ、健全な意味じゃない事は当たり前に分かった。


そう、見つけた、下まで見なくてもすぐ分かる。

一発目から、赤高の那賀川と書かれてあるのだ。



確認した瞬間、暑いはずの部屋でオレの背中につうと冷や汗が伝った。


とにかく、どんな事が書いてあったとしても、見なければと、息を飲んで下に進む。




それから一時間ほど掛けて、その掲示板内に書かれてある事を全て読み切った。

外は太陽が若干傾き、部屋に日だまりが出来ている。

頭の中は真っ白だ。思考が定まらないオレは、気を落ちつかせるために、エアコンを付けてベットに寝そべる。


静かな部屋に、車の音が、やけに響いて通り過ぎるが、そんな音すら現実味がないように思えた。



赤高の那賀川は0歳の頃、密輸船に置き去りにされた捨て子。


そのまま、不法滞在の外国人に、13歳頃まで軟禁状態で育てられる


だからあいつに、漢字とか聞いてみ、ほとんど書けないから。


その外国人も強制送還されて、那賀川の事捨てて、国に帰った。


だから那賀川は、中学中退(笑)なんでしょ?その後消えたのに、なんで今赤高行ってんの?


あいつになら何やっても大丈夫だよ、あいつ自体がヤバイ事やってるから絶対警察とか行けないし


あいつは虚像みたいな人間。この意味分かる奴いる?あいつがいきなり消えたとしても、あいつを証明するもんはこの世にないんだよ!
だからみんなでやっちゃお♪




最後の書き込みは今日の日付、内容はまだふざけた計画的なもの


今この瞬間はまだ、なかがわが無事である事、たたそれだけを祈る。




目を閉じながら、オレはなかがわが何を言っていたか、思い出そうとしていた。



「家族にしてもらおうと思って」



「ずっと待ってたんだわ」


「堂々とそこに居ていい気がしねえ?」




何を喋るにも、なかがわはいつもずっと微かに微笑えんでいる。


オレが奴に感じていた「不安」の残りの半分が分かってしまったような気がした。


あいつはきっと何かを求めている、あの微笑みの中にはきっとそれがあって、同時に、その求めている物は持っていなくて当たり前、手に入らなくて当たり前。


諦めを通り越した、麻痺のようなニュアンスが含まれていて


本当の悲しみを冗談のように笑うような、本当の喜びを幻想のように見つめるような



おかしな事言ってても、どこかシリアスなのは



もしかすると、あいつは、自分が求めてるような何かと、例え現実が真逆な状況であったとしても、それをただ淡々と全て受け止めてしまって、周りがどんなに嘆いても、自分では自分の事を悲しめないんじゃないだろうか。



どうしてだろう、どうして


「オレケンくんの事好きだわ」



あいつが、そう言ってさしのばした手を掴んだ時には


その事に気付いてやれなかったのだろう


ほんの、少しでも


[前へ][次へ]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!