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64どこかで聞いた事ある話U
オレはこの目で確かに見ているのに、この人が今ここに居る事が信じきれずにいる


他に誰がこようと、この人だけはこんな所に来るはずがない、とオレにとってはそれほどの対極に居るような存在の人だったのに



なぜ、あなた、君が、というか



「・・カッパ派じゃねーよな」


「カッパ派・・・?」



やはり知らない、当たり前だ。ではなぜこんな所に迷いこんでしまったのだ

心中が知りたい。



「あの、一体今日はどういった・・」


「滋賀良樹!!!」


無言で顔を見つめながら、何かを考えていた坂本が、オレの言葉を遮りながら、思い出したように良樹の名を叫んだ





【どこかで聞いた事ある話】





オレの憧れの後輩、滋賀良樹は、いきなり叫んだ坂本を怯え混じりの目で睨んだ。

中学の頃から、その強さと寡黙さで他中でも有名だった良樹の事を、坂本が知ってても不思議ではないが、ジャンルの違い過ぎる二人に何か繋がりがあるようには思えなかった。


坂本の目の付け所はおかしいから、一般的な目での、最強一匹狼「滋賀良樹」
に反応してるとも思えない
今のこいつのリアクションは、一体何だというのだ。



「坂本、良樹の事知ってんの?」


「ちょっとね、ねえお前オレの事分かる?」



なにやらニヤニヤした坂本に、オレが尋ねてみれば、一瞬目をキラリとさせて横目を流し頷いた。

そして自分を指指し、今度は良樹に向かって尋ねる坂本。


良樹はオレの時と同じように、思い出しせないというように、困った顔をして考え始めたが、次の坂本の言葉で、オレと良樹の顔色が変わった。



「オレ昔さー、一時期お前の事尾行してたんだわ」



一瞬その意味がすんなり頭に入って来ず硬直したが、すぐに理解して驚愕の目を坂本に向けた


言葉の意味は理解したけど、その行為の意味はサッパリ理解出来ない


愉快そうに笑いながら話す坂本を見ながら、どうしてもパッカリ開いた口が塞げずにいる



「良樹さー、昔園川公園で、蜂の巣蹴ってたろ」


「な、なんでそれ・・」


「で次の日殺虫スプレー置いてあったろ、あれオレだからーアハハ!!」



その話、オレにも聞き覚えがあるんだけど!


忘れはしない、赤高で良樹と再会したときに、それをオレだと勘違いされたんだ!

何だそんな有り得ない話あるか!と思ってたのに


お前か!お前だったのか!

オレはあの時坂本と間違えられてたっつーのか!
こんな繋がりあっていいのか!?




「あ、あんたが、あの時の・・あのせつはお世話になりました」



良樹の対応もあの時と同じだ!!
なんで良樹はオレ以外の事はちゃんと覚えてるんだ。
しかもそれが坂本かよ、オレの方が良樹と同じ中学なのに(唯一の武器)


オレはとんでもない話の流れに、ただ呆然と二人のやり取りを眺める。


ちなみに坂本は一体なにゆえ、良樹を尾行していたのだろうか。

一番素朴な疑問が、オレの頭の中に残るだけだった。


「あー・・でさ、良樹は一体どうして、ここに?」


「相談に乗ってもらえるって、聞いた」



オレの質問に、良樹は少し気まずそうに目を反らしながら呟く。


良樹が相談?無茶苦茶気になるが、一体なぜオレと坂本に。

ああ、もうなぜって言ってたらキリがなさすぎる





「おい、カッパ派じゃねー奴の相談は受け付けてねーよ、好きでやってると思ってんのか」


「さっきから言ってる、カッパ派って何だ?」


「ただただ坂本にお祈りするTシャツの会だよ」


「・・・??」




ケチな坂本は、利益の無い、良樹の相談を断るが、それでも良樹は立ち上がらず動かなかった。


眉間に皺を寄せ、何か訴える表情でオレ達を見る。


今まで良樹のこんな表情をオレは見た事がない、ただならない物を感じた。




「頼む・・相談する相手がいねえ」



切羽詰まった顔、綺麗な角度で頭を下げる良樹。


思いもよらない光景に、オレは言葉が出なくなってしまった。


あの、クールな良樹がここまでする悩みとは一体どんな事なんだ?


一方坂本の方はというと、特に表情は変えず、しばらく良樹のつむじを眺めながら何かを考えている。


この男、人がこんなに真剣に頼んでるなら、ちょっとくらい無利益でもいいじゃないの




「わかった、いーよ」



「本当か?」





坂本の返事に、頭を上げて、澄んだ瞳を輝かせる良樹。


まるで罠から助けて貰った鶴のような眼差しで坂本を見る良樹だが、オレは今の無言の数秒に坂本が何かを企んだ事を完全に見抜いた。


こいつ、一体良樹に何を吹っ掛けるつもりなのか




「でもその前にオレから質問があるんだけど、良樹、赤高の奴らに今一番足りてないもんって何だと思う?」


「足りてないもの・・?」



いきなりの脈絡のない坂本の質問に、目一杯のハテナマークを浮かべつつも一生懸命考える良樹。


隣で聞いているオレも、一体坂本が何を言いたがってるのか全く分からず、良樹と共に真剣に考えてみた



「えーと、やっぱ頭脳か?全員に共通する事と言えば・・」


「ケン、大正解。じゃあ、赤高の頭脳レベルを上げる為には、今何が一番必要だ良樹」



大正解を貰えてちょっとオレが嬉しがってる隙に、坂本は良樹に更なる質問をぶつけた


オレの発言をヒントにして頭を振り絞った良樹は、ハッとした顔で坂本に答える


「頭脳が足りないなら・・・やっぱドリルか!?」


「違う!糖だ!」



ええ!?ドリルもドリルだけど、お前が今まで勿体ぶってた答えが糖かよ!?


どっちもどっちな会話を真剣な顔で交す二人をオレは完全に置いていかれた気持ちで見詰めた



「頭が働かない原因はドリルをやってるとか、やってないとかそういう問題じゃない、理由はただひとつ、糖が足りてねーんだよ」


「そうか・・盲点だった・・」


そうかじゃないよ、何を納得させられてるんだ良樹。
常識的に考えて、糖ただ一つに頼りっきりのやつよりは、まだ、ドリルを一生懸命やってる奴の方が賢いとオレは思う



「だからオレ、赤高生に糖を摂取して欲しくて、赤部限定スイーツ作ったんだ」


そう言って坂本が取りだしたのは、ギザギザした掌一個分くらいのパイ。
入ってる袋に大きくカッパと書かれている
オレは一目見て、ああ、これが噂のあれか、と察知した。



「でかいな・・」


「このくらい、赤高生には糖が足りてないってわけよ、で、これを一年にも食べて欲しいけどオレ恥ずかしくて一年のクラスいけない。だから良樹、お前が一年にそれを売ってくれ」


「え・・?でもオレ一年の中でもそんなに話す奴いな、」


「大丈夫!お前が一言買えって言えば(恐がって)どんな奴でも買うって!オレは相談を聞く、お前はそれを売る、赤高生は糖を得る、誰が困んだよ!」



こんな所に回転椅子持ち出して、人生相談室開いてる奴がどの口で恥ずかしいとか言ってんだ。


あまりにも無理矢理な結び付けでカッパパイを売ろうとしてる坂本に、オレは唖然とする


滋賀良樹という最強ブランドの名前を使って、パイを捌く手間を省こうとする坂本の思惑を、オレはここでハッキリと確信した。


坂本に言いくるめられた良樹は、少しの不安を瞳に残しつつも、やってみる・・と頷いた。


クールで最強だが、心がピュアな良樹だからこそ、この取引が成立してしまったのだとオレは悟る。


随分と余計な話を長引かせたが、とうとう良樹の話を聞く気になった坂本が、良樹に相談って何?と尋ねる。


良樹は少しの間、頭で言葉を考えた後、ゆっくり沈むような口調で話した



「一昨日、バイト中に出前に行った店に死に掛けた男が居た・・そいつピクリともしない程昏睡してたのに、店の奴誰も心配しねえから、仕方なくオレが連れて帰って」



「はいはい」



「家に着いたら、急に意識ハッキリし始めて、元気になったから、まあよかったけど・・そいつオレの家にとんでもない物を、忘れていった・・」



「もらえばいーじゃん、ハイ次ー」




苦悩の表情を浮かべ話す良樹に対して、一言で纏めて終わらそうとする坂本。


オレの方はというと、初めて聞くはずの良樹の話に、どこか引っ掛かる物があった


なんか、この話



「もらえねえ!・・返してえけど、そいつと会った店の店長とか常連に聞いても誰もそいつの住所も連絡先も知らない。早く返さないと、多分凄く困ると思う・・」



「でも、そんな事オレに相談されても、こっちは顔すら知らねーのに、どーにも出来ねーよ。大体、何忘れてったんだよそいつは」



「パスポートだ・・顔ならこれに載ってる」



そう言って良樹は制服の内ポケットから、小さな紺色の手帳を取り出した。


その最初のページを開いて、オレ達の方に向ける。




「名前は、世界イチロウ、やっぱり、警察に届けた方がいいか・・?」



パスポートの中に写る、世界イチロウの小さな顔写真を見て、オレと坂本は固まる。


同時にオレは、良樹の話を聞きながら、ずっと引っ掛かっていた物の正体に気付き、頭が真っ白になった。


一昨日、昏睡、店、連れて帰る。
出てくるキーワード、一つ一つに感じるむず痒さ。


どこかで聞いた事ある話




「良樹、それ偽造だから捨てていーよ。ただのメモ帳だ」



流石の坂本も一瞬驚いてた後に、訳がわからないのと呆れたのが混ざる微妙な表情で、オレ達の反応に戸惑う良樹にそう告げた。


オレは未だ、ばくばくと絶えず響き続ける心臓。


必死に、信じられない気持ちを押さえながら、恐る恐る良樹に聞いた。



「良樹って、ひょっとして、月の土地とか持ってる?」


「なんで知ってるの・・・?」



オレは良樹に、せめて、これだけは教えてあげたかった。


そいつは昏睡してたんじゃなくて、酔っ払って寝てる振りをして朝まで店に居座ろうとしてただけだと。


そのパスポートに写ってるそいつは、世界イチロウなんかじゃなくて



オレも坂本も、多分赤高の奴ならよくよく知っている
ぶっ飛び無痛覚児


なかがわ、であること



「なんでこんな所で繋がんだよ・・」


思わぬ展開でなかがわより先に「星の人」と対面したオレは


放心状態のまま、意外な組み合わせにそれ以上言葉が出なかった

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あきゅろす。
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