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63どこかで聞いた事ある話
次の日の朝、オレは取り敢えずらんに電話を掛けてみた。

でも電源が切れているらしく、通話不可能。
多分携帯はらんの家のどっかに放置されたまま、寿命が尽きたのだ。
充電すらしていのか、小松。


気が付けば、夏休みまであと二日、しかしオレの周りには、夏休みを爽快な気分で待ちわびている人間など居ない。


らんも、黒やんも、なかがわも、思う事譲れない事があるのだろう、きっと。


そうだ、今オレの周りで、脳天気な高気圧が様になる奴なんて、既にビーサン手ぶらで学校に来る、坂本くらい



「ねえ、まずいまずい」


と、思いきや、珍しく、なんだかダルそうな坂本。

夏休み二日前の本日、登校してみたら、オレの教室でオレの椅子に座りオレの登場をクロックスを履いて待ちわびていた。





【どこかで聞いた事ある話】






昨夜は、坂本に断りも無しに帰宅してしまったオレ
我ながら、まあまあ嫌なタイミングだった


なかがわを拾い、家に連れて帰り、なかがわを先に風呂に入れた隙に、ラブ電話を掛けたが不通。

それから、なかがわが寝静まった後、度々再チャレンジしたが、不通のまま明け方を迎えてしまった寝不足のオレ

こりゃーもう決定的だ、完全に坂本さんの機嫌を損ねた、絶対意地悪される


まずい、まずいと対策を考えながら、学校まで歩いてきたのに

到着したら、なぜか坂本が、まずいまずいと繰り返してる


おい、地球の重力の向きでも変わったのか
この光景は、全然予想外だぞ




「ん?マズイって、もしかしてオレが昨日帰った事?ゴメンねゴメンねプロレス技かけていいから!」


「苦情でちゃった」



「え?」




坂本の二言目を待つより先、オレは自分で考え抜いたお詫びを自己申告しながら、謝ったが、返ってきた返事はてんでちぐはぐ。


むしろ、今のオレの話一切聞いてないだろって、様子。



「あのさ、カッパ派ってサークルだったわけよ、オレが最初に言っちゃったから」


「うん、知ってるよ」


「でもすっかり忘れててTシャツ屋やってんじゃん、したら昨日苦情が来たらしくー、これ以上サークル活動ないならカッパ様は流れ星になったカッパ派解散の会するとか言ってるらしーのよ、カッパ派の人達」



なんだそら、解散する割には愛情たっぷりじゃないの

坂本が渋い口調で言った衝撃的な催し物自体の方がオレは断然気になるのだけど


「うはー・・まあ、ビックリだけど、仕方無いんじゃん。本当にTシャツ販売しかしてないし、もう相当売ったんでしょ?自由にしてあげれば?カッパ派」


「馬鹿、今そんな事されたらマズイんだって、ついこの間カッパパイ作っちゃったもん、千個。」



なるようにしてなった結果に、オレが一番穏やかな意見を述べる、オレながらいつになクールだと思いきや、坂本に叩かれるデコ


意味が分からず、額を押さえたオレに告げる坂本の言葉は、恐らく本邦初公開なのだろう


頭の中に密集する、ハテナを脇に寄せながらオレは考える、何?カッパパイて?



「パイ・・?千個?何だそら!!!」


「知り合いのね、菓子工場が新作開発に失敗してパイシート死ぬ程余ってるつーから、買いとってもう作った後なんだっつの」



「はあい!?Tシャツまではどーにかなるだろうけどパイってなんだ!?観光地じゃないんだから、パイ売ってどうすんの!?つーか何味だよ!?」



「オレが売ればパイだろうがパグだろうがブームになんに決まってんだろ!!フツーのパイだって、ウナギパイみてーなもんだっつの!」



「パグは無理!パグは辞めて!生き物だから!!!」



オレは心配だ、坂本がこんなにも手当たり次第に何でも作って売ろうとする現状が。


しかし、作ってしまった後ならもう仕方ないし、なんとか穏便にパイが捌ける方法はないだろうか。


ああ、夏休み二日前だっつうのに、友達はみんなドンヨリ沼で悩んでるし

坂本は無計画にパイなんか作ってるし


どうしてこう落ちついて、夏を待てないのやら



「しゃーない、今日終わった後集めたるか、集めりゃいーんでしょーあ〜あ、どうして坂本に祈るだけじゃ満足できないわけ、今時の奴は」


「それで満足して生きてる奴のが怖いって、でも集めて何すんの?」


「オレとお前で人生相談でも聞いてやればいーよ」


「はあ?人生相談!つーかオレもか!」



一体オレとお前は何様なんだよ
坂本、気付いてるかい、既にオレらの周りは人生相談を聞いてやらなきゃいけない奴ばっかなんだよ

どいつもこいつも結構重めだよ、なんて事、クロックス姿の坂本なんかに言えるはずもなく


役に立たないオレ一人が、一番の情報通でどうする、近所の悩みも解決しないうちに、名前も知らないような人の悩みまで抱えてもいいんだろうか


ああもう、どうして、どうして、平和に夏を迎えようとしないんだ、みんな


せめて、せめて、普通に迎えたいよ、オレは。









「坂本様、オレ夏なのに、一向に彼女が出来る気配がないんですどうしたらいいんでしょ?」


「手島と合コンしろ、ハイ次ー!!!」



一人当たりの所用時間、約10秒で、オレはもう何人と会っているのだろう。


何も考えないまま、時は過ぎ、もう放課後。


オレは今朝坂本が言った通り、本当にカッパ派の悩みを聞いている。


別に冗談だと思ってたわけじゃないが、アンジーに頼んで送って貰った、ふざけたメールにこんなに人が食いついている現実を目の当たりにして、ちょっと日射病になりそうだ。


アンジーに送って貰ったメールの内容


「カッパ派の人達へ、あんどうです。坂本が無料で人生相談をきいてくれるらしいです。ただです。放課後、よく坂本がタバコすってるベンチにてあります。かいさんしないでね。このメールを知ってる限りのカッパ派のひとに回してね。あんどうでした。」



無料である事と、あんどうですが何故か二回入った改行無しのメールが、まさかこんなにまで人を集めるだなんて、アンジーのメールを盗み見してる時には思いもしなかった。



しかも場所はここ、いつものニスつやベンチだ。

オレにとっちゃ定番中の定番だけど


こんだけ人呼んじゃったら、もう、隠れ家的スポットでもなんでもないわな





「坂本様、オレもう17になるのに生まれてから一度も飛行機に乗った事がねーんです、乗りたいんですけどどうすればいいでしょうか?」



「あなたは飛行機に乗ったら死にます、だから乗りたいとか思わないで下さい、はい次ィー!!!」



一体この集会に解散まで賭けたほどの意味がどこにあるのか

相談を受けたみんなはとぼとぼ帰っていく。

さっきの人は「手島って誰だ」と言ってたので、携帯を教えてあげればよかった。



「うわー!!マジでやってるしぃー!!!超うける超超頭おかしいナハハハハー!!!」


次に回ってきた人が、突然オレらを指差して爆笑しだしたと思ったら、それはメール送信で大活躍したアンジーであった。


坂本の中学時代からの友達でオレと同じクラスで、カッパTブラックがお気に入り


このイベントに一番協力的だったのに彼はオレらが本当にやっちゃうとは思ってなかったらしい


どかどかと近づいてきて、楽しそうにオレと坂本の前に座った(坂本が赤部ストアーからもってきた椅子)



「うわーウザマックス、あんどーかえれー」



「えーオレもカッパ派なんだから相談乗れよ、坂本くんにもう四年以上キンパツやめろって言ってるのに全然辞めてくれますん、僕が外人と付き合うにはどーしたらいいでしょうか」



「安藤が自主退学したら一週間だけ銀髪にしてあげます、はい次次ー」



アンジーが吸い始めたタバコを指で弾き飛ばしながら椅子を蹴る坂本。


ご覧の通り今はこんなに仲良しな二人だが、中学に入ってまだ顔見知り程度だった当初は物凄い仲が悪かったらしい


というか、元々オレオレキャラだったアンジーが自分とキャラの被りそうな坂本の事が大嫌いだったという。

暫くして、坂本の本格的な性格が分かってきたら、こりゃあ被んねえわ、と悟り和解したらしい。




「つーか、坂本お前、アジトん事何か知ってる?」


「は?アジトが何?」


「カシコーの友達にあいつの事色々聞かれた、あれよ、船に捨てられてた話とか昔居た外人の話とか、なんで今頃こんな事聞いてくんのかわかんねーけど、お前なんか分かる?」


「はあ?お前に樫木の知り合いがいるわけねーだろ」

「そっちに食いついてんじゃねーよ。」




樫木、なかがわ、アンジーの口からいきなり出てきた言葉にオレは過剰に心臓が反応する


横須賀くんに言われた話と一致、坂本には話してない。


内容が繋がってるって事は、明らかだ。


でもその前に、それ以上に衝撃的な言葉をなんでもない事のように話すアンジーと坂本に驚いている


船に捨て、外人、一体何の冗談?



「なんでカシコーがアジトなんだよ、お前以上に似合わねーし。あいつカシコーの存在自体知らねーだろ」


「オレも訳わかんねえからお前に言ってるし、まあいいや、これ話したのカシコーの知り合いが居るって自慢しただけだから」


「うらやましくないし、意味わからん、帰れ帰れ。」


オレにしてみればどぎつい内容だったにも関わらず、アンジーは終始笑顔で話して帰っていった。


けどオレはそういう訳にはいかない。
アンジーの話は、絶対横須賀君が言ってた樫木高校の話と関係してる


別世界みたいだった話が一気にリアルになって胸がざわついた。


こりゃ、もうオレがグダクダ悩んでる暇はねえよ

坂本に言わなければ




「さ、坂本あのさ」


「つぎいー。次ー!」


「ははあ!!!!!?」




アンジーを帰らせて、次にやってきた人物の顔を見た瞬間、オレが勢いをつけて出した言葉が止まる。


坂本とケンの人生相談室、このベンチに座ってて、今日以上に、オレってなにやってんだろ、と思う日は無かった。


それが、今この瞬間までの事。


思わぬ所で思わぬ話と繋がっていただなんて


オレ程度の想像力では、予測出来ていなかったのである。

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あきゅろす。
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