61星に賭けて
たえさんの話を聞いた後のオレは、黒川家に戻らず、タバコも買わずに一人家路をとぼとぼ歩いていた
二日振りに会った坂本を、置いてきてしまったのは本当に心残りだけど
たえさんの話を聞いて、どうしてらんがあんなに落ち込んでいたか、むっつり黙っていたか
今聞いた話で、オレにはらんの気持ちが分かってしまったから
複雑ならんの気持ちが分かってしまったオレは今あの場所に居られない、オレの心は、すぐに顔に出てしまうから
もし、坂本に彼女が居たとしてオレがらんの立場だったら、想像しただけでもう
「うわああああんかなしいよぉああん!!辛い!辛い!っておわぁあああぃ!!」
夕方で閉店するような店が並んだ商店街、ほとんどのシャッターが降りた今
坂本を想い泣き叫んでもかまうまいと思いきや
なぜいつもお前はそこにいる
【星に賭けて】
赤高傍の商店街、特売セールも終わった時刻に買い物してる奴なんか一人も居ない
が、路上で普通に寝ている奴が一人居た。
しかも知り合い
「な、な、な!なんでこんな所で寝てんだよ!!」
「あ、この声もしかしてケンくん?」
いかにも、オレはケンくん、ってそんな普通の会話をするな!
違う、こいつが一体どんな事をしていようと、平常心を保つにはへぇーっと笑って流すレットイットビーが大事だった
よっしゃ、まとめる。
誰が、なかがわが。
どこで、商店街の路上で。
どんなふうに、仰向けに腹の上で両手を合わせ
何してる、寝てる(目を閉じている)
うん、日常日常・・・。
駄目だ、馬鹿そんなわけあるか!
「おい!目え開けろ!色んな意味でこんな所に寝てたら危険だろ!詳しくは言えないけどお前今ピンチなんだって!」
「わお、ケンくんもっと早く来れば・・先にゲイ専門ヘルスにスカウトされて、そっちと家族だわ・・オレ」
「んな!!てめえ、その発言今の状況じゃちょっとシャレになんねーよ!不謹慎野郎!」
「アハハ大丈夫。なんか変な宗教の教祖にもスカウトされたから、給料は出ないけどタダ飯付きで」
「ああもう!詳しく話聞いてんじゃねえよ!」
ひょっとして、その腹の上の合掌は神のイメージなのか
適当にも程があるだろ、逆に罰当りだぜ
「でもまあ、今ここで寝てるって事は、どっちの誘いにも一応乗らなかったんだね、よかった・・オレが通ってなかったら次は宇宙人が来てたな」
「うん、なんかなー、最初は誰でもいいかなーと思って賭けてたんだけどさー」
「賭け?何の賭け?」
「ここでずーっと待ってて、最初に声掛けて来た人に家族にしてもらおうって」
「勝手に!?」
「うん、その時どーしても眠くてさあ、結構せっぱつまってたんだわオレ、でもしばらく寝て眠気覚めたら分かった」
「結局見つかる前に寝たんかよ・・」
それなら、そんな賭けをして怪しげな奴らに声掛けられる前にもっと普通の所で寝ろ、野宿でもまだここより普通の場所があるはず
気持ちよく寝ていたんだろう、今は妙に機嫌がよさそうななかがわがのへらっとした口元を見てオレは心底そう思う。
「分かったのよ、オレはまたあの人に連れて帰ってほしかった」
「あの人って誰?」
「星の人」
そう呟いて、なかがわは初めて目を開ける
開かれた目は天を見上げて星と星を点で結ぶように動いた。
「朝言ってた、星が欲しい、の奴?」
「うん、昨日会った場所も、その人の家も全然違う場所なのに、なんでかオレは、ずっとここで星の人を待ってたんだわ」
「会いたいなら、家に行った方が早いんじゃ・・」
「会いたい、つーより・・連れて帰って欲しい」
「なんじゃそら・・」
「何回もオレが行くより、もう一回連れて帰ってもらえばいつまでも堂々とそこに居ていい気がしねえ?」
こんなご時世の、常識から考えれば今、こいつが言った事は、何言ってんだ、そんなうまく出来てねえよ世の中、とバッサリ切り捨てられそうな事
けどでも、そんな事誰よりも分かってそうなこいつが言えば、それは誰もが気付かなかった盲点
シンプルな答えのような、気がしてしまう、オレ。
「あーあ・・あそこのビルのエレベーターまだ動いてっかな・・」
目を開けてからというもの、お祈りポーズを辞めたなかがわは姿勢も大のじに変わり、近くの建物を品定めし始めた。
エレベーターなら、まだ動いてるかもしれねえけど、こいつ今日エレベーターで寝る気か、だからそういうのを辞めろってんだコノヤロウ
「なかがわー・・」
「うーん?」
「オレ今日悲しい事あったから・・オレんちに泊りに来てくれ」
わざとらしい泣き声でそういえば、なかがわはにやっと笑ってオレの手を掴み起き上がった
「オレケンくん好きだわ」
なかがわは、笑うと目の下が膨らむ、さすが赤高の天使っち
深い意味は全くないが、フツーに、かわいい顔とオレも思ってしまった。
現在地、まだ商店街、こっかうちまで結構ある
隣を歩くなかがわは黙ったまま、オレもセンチメンタルな振りをして、喋らず歩いた
でも本当は、うちにつくまでの長い道程で、何度も言おうか迷っていた
なかがわ、宿かないならうちにいつでも来ていい、と
けれど結局言わなかったのは、オレのなかがわに怯える心が残っていたからではなく
こいつが待っている星の人がいつかこいつを連れて帰る方に
正体の分からないそいつが、オレの悪い予想と当たらない方に
オレも賭けてみたくなったから
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