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58ピンチの時は、やってくる
薄れかかった思い出を、改めて思いだそうとしてもやっぱりあんまりいい記憶は無い


みんなで遊んでても、女から電話が掛かってくればいつもささっと帰っていく姿は今でも覚えてる

他のセンパイは誰も呼んでないのに、あの人だけオレの女友達の真似をしてオレの事をケンちゃんと呼んでいた

話掛けられて、返事をしないと腕を引っ張ってくんのもうざったかった


だから、お先真っ暗状態のらんを前に能天気なメロディを鳴らして届いたセンパイからのメールなんて

オレは微塵も返す気になれずすぐにケータイを閉じたのだった。



【ピンチの時は、やってくる】



聞いてみたい、気持ちはある。


らんだって、少しはオレに話してみたいと思ってると思う、言わなきゃバレない嫌な思い出の事をわざわざオレの前でこぼしたのはきっとそういう事だ。



それでも、オレ達はらんが最後に呟いた後からはずっと無言で座っている

お互いに余り目を合わせず


何でそんなに落ちているのか、それをオレに伝えるためには根本からを話さないといつまでたってもきっとこの状態


なぜらんが話せないか、オレは理由を知っている。


話すと心臓が痛いからだ。


そんでもって、本当は黒やんたちが別れた理由の意味を知りたがっているのに、聞けずにいる自分の事もオレは知っている


らんを傷つけたくないのだ。



内容は分からなくても、これだけは分かる。
きっとこの話はこいつの中での一番の地雷、除去も軽はずみにはしてはいけないんだろうと思う。



別にオレにとってはつらい無言ではなかったが
この無言で放っておけばきっとこいつの中はどんどんうずまくに違いない。




「らん、もう帰ろうか」



「・・・どこに?」



どこにって、お前にはあの立派なマンションが無かったときなんてねーだろうが

べつに自宅と黒やんは関係ねーだろう、何を求めてんだこいつは


出来るだけ優しく優しくと気を使ったオレの声色に、らんはイレギュラーを返す


「家に帰ろうよ・・」


「帰りたくない」


「なんでよ・・・」


「あそこはオレと黒やんの一番の思い出の地だから、もう二度と帰らない」



ああ、この小僧は何言ってんだよ

何でオレがらんの家出宣言を聞かないといけないんだろう、ああ面倒くせー

親に電話しようかなーでも両親は一人息子がこんなアホな理由で家出しようとしてるのを知ったらさぞ悲しむだろうな

こんな時、普段ならば頼るのは黒やんなんだけど、今回だけは一番頼ってはいけない人であるし


オレは考えて、考えて、散々迷ったあげく不安が無くなりきれてない心のままメール送信ボタンを押した


やっぱり他に思いつかないし、プラスに働くかマイナスに働くかは賭けだけどプラスに持ってける人物がいるとするなら、きっとこいつただ一人のはずだ


メールを送って20分弱、寝てる、メール見てない、見ててもシカトなど可能性を期待せずに待ってたオレと今だ浮上しないらん


足音に気付いたのは二人同時だった




「今黒やんちにいたんだー、あ〜あこうなってると思った」



期待してなかっただけに、いつものからかうような声さえひどくオレを安心させる



「あきおくん?何でいんの?」


「お前らこそ何こんな錆びれた所好んで来て、バカじゃん?赤部二年目で今日初めてここの存在知ったし」


「うるせぇなあ〜今日からオレはここに住むんだよ・・・」



「あ、さっきたえに会ってきたよ」



オレがこっそり打ったメールの呼び出しで突然きた坂本に対し、さして反応を示さなかったらんが、たえという単語が出た途端、被っていた帽子が落ちる勢いで坂本をみた



「ぜんっぜん変わってねー、あれで19なら今の中学生はみんな19だっつの」


「黒やんは何してた?」


「黒やんはバイトじゃん、知ってんだろ」


「あ、そっか・・」



「お前も会ってくればいーよ、たえ、らんは?っつってたぞ」



坂本は、まるでらんの状態を見透かした上であえて言ってるような口調


坂本に聞けば分かるのだろうか、以前のらんと黒やんとたえさんについての話


坂本の話を流しているような表情で聞いていたらんだったが

しばらく押し黙った後坂本の方を見ないままポツリと呟いた。



「別に会っても話す事ないよ・・」


「ふーん、別にいいけど。じゃあなんで最近黒やんからの電話でねーの?」


「・・・・」


「お前がたえに会わないと黒やんまた前みたいに暗ーくなるよ、んまっ、別にオレはいっけど〜!」



やっぱり坂本は何か知っている、オレが坂本にメールしたのは多分当りだ


坂本の言葉を無視していたらんだったが、しばらくするとどんどん口元がきゅっと結ばれていく


座ったままパタパタと足を鳴らし始めたと思ったら、いきなり立ち上がりオレをチラ見して言った。



「・・・ちょっとコンビニに・・ケータイ料金払ってくる・・」


「へ!?」




突然の発言に、目を点にしたオレを置き去りにらんはあっという間に公園を走り去った


わけのわからないまま、笑い出す坂本と二人取り残されるオレ



「アハハハハハー!何あの理由ー!手ブラのくせに支払い用紙持ちあるいてんのかよー!アハハー!」



「ねえ!坂本!笑ってないで教えてよ!らんと黒やんに何があったか!」



爆笑する坂本を揺さぶり、説明を求めるオレに、坂本は横目でオレを見て悪どい笑みを寄越した。



「ん、じゃ今からオレらも行くか黒やんち」


「え!?やめた方がいいんじゃね?今らんも行ってんでしょ、ケータイ料金とか意味わかんない事言って・・」


「別にいーよ、らんの家じゃないしあいつに文句言われる筋合いはない」


「本当あんた・・」



らんの家じゃないけど人んちだという事に変わりはないのに当り前に言う坂本。

しかもお前たった今行って来たっつーのにまたカンバックするのか



「じゃあ早く行こうよ、なんとなく黒やん帰ってきたら気まずいし・・」


「うん、タバコ吸ってからね」


「え!?タバコなんてどーでもいいから、早く行こうよ」


「駄目、たえが居ると禁煙なんだよ、副流煙どーたらとかで・・」



行かない方がいいんじゃと言ったのに、行くと言う坂本は、次は呑気にタバコを吸い始めてオレはもう関心するしかなかった



「あー眠くなってきた〜、もうここで寝ちゃおうかな〜」


もう、真面目にやらんかい

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あきゅろす。
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