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56星男
横須賀くんがちゃっちゃと教室に戻ってしまった後もただ一人ぼんやりとベンチに体を預けるオレ


ああ、空は入道雲まで賑わせてああ、こんなに青いのに


黒やんとらんは何か変になっちゃってるみたいだし

なががわはもっととんでもない事になってるみたいだし

横須賀君が言うにそれはオレにも関係無くないらしい

ああもう嫌だなーこのままどっかいっちゃいたいなー

長く眠っていた逃亡癖がオレの心からじわじわにじみだす

もうすぐ夏休み、坂本連れてどっかに逃げたい



「ケーンーくん」


ああなぜ投げやりなオレの心はすぐに神様に見つかるんだろう

と首を反ったら逆さまにそこにいたなかがわのでかい黒目を見て思った





【星男】





こいつに初めて会ったのもそういえばここだったなと、なんだか遠い昔の出来事のように思いだしてると、いつの間にか後ろにいたはずのなかがわはオレの横に腰掛けていた。



なぜこのタイミングでさっそく現れるんだろうこいつは。


さすが坂本の後輩。嫌でも現実逃避は中止



「あの、お前いつからいた・・?」


「え、今、今。今学校来たんだー、ああ眠いわー」



本当に眠そうに、遠くを見ながらあまり目をあわせず、なかがわは呟く。


もう日差しは立派に夏だというのに相変わらず米の磨ぎ汁のように白いこいつの顔


正直、オレとこいつはそこまで深く知り合ってる仲じゃないけど

この顔みたら、やっぱりオレもさっきの話が不安で仕方ない。


最初は理解不能という枠にいたこの男について、最近ようやく分かってきた事は、多分オレはこいつに弱いのだと思う。



「昨日はどこで寝てた?」


「ああ、なんかなー昨日は寝たふりして知り合いのバーに朝まで居座ろうとしてたら知らない人が拾ってくれたからさあ、ツイてたなあ」


「あ、危ねえなあ」


へらへらと笑いながら話すなかがわにオレの中で横須賀君がさっき言った言葉がどんどんリアルになっていく

確かにこれじゃ目をつけられても仕方ねえだろうな


隙だらけ隙だらけ、引き気味のオレの顔にも気にせず笑っている。

隙以上に危険なのは、こいつ自身がその開きっぱなしのドアを閉めようとしない所


こんな事思ってて、でもちゃんと分かってんのは、こいつはオレが思ってる以上にはずっとタフなんだろうって事。


オレがこいつに感じてる不安の半分は見た感じの、「はかなさ」によるもんだと思うけど

実際今、着てるシャツのボタン掛け違ってるし、つっこんだろうか


いやでも、それでも残りの半分は、うん。


こいつの話す言葉の中になにかいつも感じる物で、まだその正体がよくわからないから、より不安。



「オレもね星が欲しくなってねえ」


「はい?」


「星が欲しいねえケンくん」



人が心配してるというのに、なんだいきなりこいつは。
星が欲しい?シャレか?やっぱり意味がわからん
しかも急に、やばいこいつ確実に狩られる。

逃げたかったのに、急に現れてはオレが逃げられないような発言をポンポンと


口を閉じたまま、ため息をついて、仕方なくオレはなかがわの発言に返事を返してみた。



「星って、星?」


「そうそ、昨日泊めてくれた人が月の土地をいっぱい持ってて、今の時代星とか一般の人でも買えるらしいよ名前もつけられんだって」


「へえ、そうか・・」


「次また来たら月の土地少し分けてくれんだって」



「え、また来いって言われたの?」



突然の星が欲しいの理由が分かってちょっと恐怖が薄れたのも束の間、次に続く発言にオレは再びなかがわの方を向く


振りではあるけど、潰れた見ず知らずの男を面倒を見て星の話を語り、また来いと言う


「ねえ、それ女?」


「いや、男、若者」


男、若い男。ちょっと怪しくないかそんな奴。



「・・その人、樫木高の人とかじゃないよね」


「え?よくわかんねー、あ、けど高校生つってた、なんで?」


なかがわの言葉を聞いた瞬間、思い出したくもない言葉が頭の中で光ながら点滅する


赤高のラリラリのエンジェルならやれるんじゃないか


「お前、何もされてねえよなあ?」


「何もって何?」



オレだって男にこんな事聞きたくねーよ、あほ


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