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55お馬鹿君と秀才君
体育館は相変わらずざわざわうるさくて、聞いちゃいない奴らがほとんどの中


オレは頭の中でらんが今どうしてるのか考えながらも
一応、超有名私立高校とある意味有名な馬鹿高校の不可解な話を耳に入れていた


「校長先生は、本日樫木高校に行かれています。みなさんに分かっていて欲しいのはまだ事件の詳しい事は何も分かっていないという事です、自分達の予想で噂話をしたり軽はずみにそのサイトを探したりしないようにお願いします」


教頭先生は頭痛そうに不安要素だらけな生徒達に小さな声でうったえる。


どんな揉め事か知らないが、これは完全に赤部中央に分が悪い自体になっているんだろうなと

何の関係もない一ボンクラ生徒のオレですら、それは分かった。





【お馬鹿君と秀才君】





集会で話された内容の全てはこうだった。


個人が運営してる、この辺の高校生向けに作られた交流サイトの掲示板で出会った赤高の生徒と樫木高校の生徒が何らかの原因によって公共の場で喧嘩し、警察が駆け付けた時には一人が病院に運ばれる程の怪我、左足にナイフの傷があったらしい。


その場はあまりにも人がごったがえした場所、似たような若者がいくらでもいるクラブであった。

しかも、ちょっと危険な場所として有名でアンダーグラウンドな香りのする場所。

一体誰がどこまで関わっているのか掴めない状況で、当の赤高生だけ警察への状況説明をうやむやにしているらしい。


なぜか被害者であるその赤高生だけが。



集会が終わって一気に出入口に流れ込む生徒達を避けて、オレはゆっくりと最後尾を歩いた。


なんか怖い話だったな、わけが分からないし、闇の匂いがする。

なんとなく、後味が悪い心でとぼとぼ人が一気に減った体育館を歩いていると、人ゴミから珍しい声に呼びとめられた

声自体はそれほど珍しくはないが、それがオレに、否オレだけに向けられるというのが珍しい。



「ケンくん、おはよ」


「ああ、おはよ・・」



このタイミングで取り留めのない挨拶を交わしてきたのは、二日前はほとんど喋ってないけど確かに一緒に居た横須賀君だった。


「ケンくん、ちょっと今からタバコ吸いいかない?」


「え、横須賀君タバコ吸うっけ?」


「オレは吸わないけど、ちょっと話したい事あるから、あのいつもの椅子ある所に行きたいんだけど」


横須賀君はいつものように笑顔だった。


けれど、いきなりのこの誘いが単なるサボりの誘いでない事は勿論、察し今の状況からなんとなく黒やんとらんの事がオレは頭に浮かんだ




いつものベンチは相変わらず日当たりがよく、ボンヤリとするには最高の場所。

でも隣に居るのが横須賀君という変わった組み合わせで一服しながらもどうもボンヤリ出来ない


オレが一呼吸ついてからさっそく口を開いた横須賀くんの話は、オレが予想していたものと違った上、一体何の事だかさっぱりわからないものだった





「ケンくん、知ってるかなー?グロリアスっていうサイト」


「え、さっきので言ってた交流系のサイト?」


「いや、違う。多分樫木の誰かがやってる際どい系のサイト、表はただの個人の日記サイトみたいになってるけど」


集会で言っていた、交流系のサイトの事すら今日知ったオレは、横須賀君の言うサイトの事など見た事も聞いた事もない。


オレは純粋にハテナマークの視線を横須賀君に送る。



「ええ?オレ全然しらねえ、何それ?」


「さっきの集会で、赤高の奴と樫木の奴交流サイトで出会ったって言ってたじゃん、出会ったのは本当にそこかも知れねえけど多分そいつらすぐ、そのグロリアスってサイトに移ったと思うんだよね、ちょっと前までグロリアスの掲示板にそれっぽいの残ってたし」



「え、何それ?どういう事?つーかそのグロリアスってどんなふうに際どいの?」


まるで事件について、全部知っているかのように冷静に話す横須賀君にオレの心臓は確実に速くなっていくのが分かる



「ケン君は樫木高校ってどういうイメージある?」


樫木高校のイメージ、とりあえずべらぼうに頭良くて、金持ちが多い、インターネットの中でさえ赤高の奴なんかと絡まないんじゃないかと思うから、集会での話、なんか変だなと思ったりした。


「よく、わかんないけど、赤高なんてまともに相手にしないような集団じゃないかな〜、とか思う」


「うん、なんかね、まともに相手にしないどころじゃないっぽいんだわ」



「どころじゃ?」



「馬鹿な奴で、遊ぶのが流行ってんだって」


「遊ぶ、って、樫木があ?」


「オレの統計から言って、頭良くて性格悪い奴が一番危ないね、この話オレすら聞いた時ちょっと鳥肌立ったもん」


何か悪夢でも見たかのような顔で苦笑い気味に語り始めた横須賀君の話は、オレにとっては鳥肌とかそういう問題じゃなく、本当にそんな事があってるのか、疑わしくすら思えた



「樫木高は赤高とか仙山みたいな逆ブランド高と違って、色々と厳しくてストレスが溜まるわけね、そんでそういうのを発散するために、頭使って危ないもんに手を染めるのが大ブーム」

「それって、そのグロリアスっていうサイト?」



「そう、薬だったり自殺だったり、個人情報の売買だったりもう聞くのが耐えられないえげつない言葉ばっかがそのグロリアスで飛びかってて、完全会員登録制」


「会員登録制?」


「表は普通の個人のページそのページのどっかからパスワードを入力するとそのサイトに行けるんだけど、パスワードは人からの紹介でしか貰えない」



オレは横須賀君の話をここまで聞いて、疑問を二つ抱く。
もし、横須賀君の考えが当たっているとしたら、例の事件の赤高生はどうやって秘密のサイトのパスワードを手に入れられたのか?

そして、横須賀君はどうしてグロリアスにそんなに詳しいのか


「横須賀君は、グロリアスに行った事あんの?」


「うん、ちょっと、前の高校の奴から変な噂聞いたから、頭いい高校は結構情報繋がってんの。頭いいってだけで信用すっからそこは馬鹿だよね樫木も」


「じゃあ、横須賀君はさ、どうやってパスワード貰えたの?」


「超簡単だよ、オレはあるサイトにプロフィール書き込んで、ある一言を添えただけで向こうからパスワード持ってるやつが話掛けてきた」


「ある一言って?」


「僕は赤高生です」



重要なのは、自分が赤高生だと相手に伝える事、ただ一つ、それはそういう意味を持っていた。


「樫木の奴らにグロリアスに引き込まれた赤高生は多分まだいると思うよ、例の赤高生も薬売るとか言われて会って騙されて揉めたとかで警察に喋れないんじゃねえかな」



なんだか、仙山の時がまだ微笑ましく思えるような、えげつなさだ。

鼻から馬鹿にしまくった態度でわざわざ赤高生を狙って、赤高は馬鹿だけどそんな樫木の遊びに使われるような理由は無い


オレはただ不可解だった自分とは無関係の事件に初めてふつふつとした苛立ちが沸いてきた。



「それでさ、ここからが一番重要なんだけど、赤高生を騙して笑うとかだけなら、まだマシな方で樫木にはもっと危ない集団もいるんだ」


もう既にオレの心に多大なダメージを与えている、横須賀君の話

もうクライマックスは過ぎたかと思っていたのに、ぐったりしたオレの心臓は次の言葉に構えてきゅっとなる



「アブノーマルな性趣向に走る奴ら、盗撮とかもう完全に犯罪じゃんってね、そしてアナルでやりたい奴らが女じゃ難しいから赤高の馬鹿ならどうにかしてやれるんじゃないかって噂してるらしい」


「は?」


「それで、一番狙われてんのが、坂本の後輩、あの髪アッシュの白い奴。」



坂本の後輩、アッシュ、そんな奴はオレの知る中ではただ一人、一個下ながら赤高の隠れた超危険人物

那賀川亜治斗


「なんで、あいつが?」


「あの子も、結構危ない所に顔出してるし知り合いのクラブとかによく顔出して寝泊りさせて貰ってるみたいだし、樫木の奴も顔知ってたんじゃないかな 」


「でもいくらなんでも、さあ」


「前、グロリアスの掲示板に書かれてたんだわ、赤高のラリラリのエンジェルならヤレんじゃないかって」


「はあ?何それ、ちょっとあんまりだろ!」


たとえそれが、本気じゃない、軽いインターネット上のふざけた会話だったとしても、内容が内容だし、個人を特定するようなもんを堂々とネットの海の中にさらすなんて


樫木の奴らって、何を考えてんだ、赤高をなんだと思ってんだよ


横須賀君に向けるのは筋違いだと分かってるのに、荒い声をぶつけてしまう。


それでもずっと落ち着いた様子の横須賀君は、そんなオレを無言で眺め、少し間を置いてから語りを再開した



「さすがにもう削除されてるみたいだけど、一時はなかがわの顔の画像なんかも貼り出されてどういうつもりにしろ悪意満載で盛り上がってたんだわ、ぶっちゃけ今みたいにふらふらさせとくと危ないと思うよ」



「でもあいつ、住所定まってないっつってて、その日寝る場所にも困ってるみたいだから、うろうろさせんなって言ってもさあ」



「ケンくんさあ、何でオレがこの事ケンくんに言ったか分かる?」



事の複雑さに、上手い返事が出来ずにいるオレに、横須賀君はどこか意味深な笑みを浮かべた



「・・なんで?」



「考えなきゃ、だめだって。こうなった以上なかがわの頼れる安全な場所は坂本しかいないって事。」



「は?」


「坂本ん所に四六時中誰かがいんのは、ケンくんにとっちゃあんまいい状況じゃないでしょ、そんだけ坂本が好きなら」



さらりと横須賀君が発した言葉に、一瞬今までの話さえ全て頭の中からぶっ飛ぶ

ここで初めて、横須賀の笑顔にさっと血の気が引いた


「あはは、合コンの時さーあのまま収集つかなかったらもうオレが助け舟だそうかなって思ってたわ」



「は、え、え、いったい、なんのはな、し?」



「無駄、無駄、ずりいよこっちは初対面で黒ちゃん好きってばらしたんだから、いいじゃんデキてんだし」


「え、ていうか何で?何で?坂本?坂本がなんか喋った!?」



「いやいや、坂本じゃなくてケンくんの顔でね」



なんだと、なんでオレの顔はいっつも情報だだ漏れなんだよ!
オレの顔には感情が文字で浮きでてるとでもいうのか!?




「腹括っといたほうがいーよ、オレはとっくに括ってるから」



チャイムが鳴ったと同時に椅子から腰を上げた横須賀君が、最後に呟いた言葉の意味をオレはまだ考える事が出来ず


さっきのリアクションで自分から坂本との事を認めてしまっていた事実にもしばらく時間がたってから気付いたのだった

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あきゅろす。
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