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46蜜と毒薬
あの日、坂本がオレの家を去った後、一人になった部屋の中で妙に頭がドライになっていったオレ。


なーんか、数時間前から随分遠い所に来ちゃったなー


オレ言ったんだよね、自分で聞いてましたから確かです。
好き好き好き好きすきっスキーってな
チューしてとか言いましたねー


恐るべし、密室マジック




「なうあぁああああ!!」


嬉しいのは事実、好きなのも事実、言った事思った事全部事実。



でもオレは、突っ走ると回りが見えなくなる癖があるのも事実。



「うあまぁあああああぁ!!!!」



「テメー!!うるせーんだよ!いっつもいっつもいっつも!何で一人でそんな騒げんだよ!!」




レナに怒られて、ようやくいつもの景色が見えたオレは、静かに今後の事を考えた。




【蜜と毒薬】






翌日、学校に行く途中の道で、オレは最低な妄想に更ける。



もし、全て坂本のショータイムで、オレが学校に着いた時に、みんながドッキリ大成功モードで笑っていたら。



誰だ、オレが坂本に危ない感情を抱いてる事を奴にチクった奴は。


あいつか!?いや、あいつか?






うわーオレってサイテー。


不安と自己嫌悪の繰り返しで、進むスピードがのろくなる足を自分で踏み付けた。


この感情が曖昧に形になり、気付き始めた最初は、ロマンもへったくれもないが、まず第一に坂本に気付かれれば全てが終わると思った。


あんまりキレイな話じゃないが、坂本にさえバレなければ今まで通りやって、普通の友達として死ぬ程楽しめれば、どーにかなるだろう、ぬるま湯で普通の人生歩む道もキープしながら、とか思っていた。



オレが言わなきゃ誰にもバレない、誰にも言わなきゃ、オレが男が好きだって話は成立しない。



それでも、好きだという気持ちを一切捨てる気のなかったオレは、その果てに一体何を望んでいたんだろう。




なんだかズルイ自分が嫌だ、心のどこかではそんなつもりだったオレが坂本からチューされれば手の平返したように欲に走るのが最高に嫌だ。


坂本のいーねの意味を都合よく解釈したり、かと思えば疑ったりしてるオレのシーソーは、隠そうとしていたオレの感情より人には見せられない。



らんから見ればオレは死ぬ程幸せな状況なのかもしれないのに


あいつに殴り倒されても仕方ねーよ


感情を我が儘にぶちまけて、それでも笑った坂本が居たというのに



なんでか色んな事が怖いオレは、らんに殺されても仕方が無い。




死ぬ程幸せなのは昨日のあの瞬間から変わらないのに、怖いのは一体何でなんだろう。




理由は考えれば分かるはずなのに、ダイレクトな言葉で今はあまり知りたくなかったオレは、頭をからっぽにさせる事に必死になりながら、足を学校まで引きずった。






「ケンちゃん青あざ見せてー」




学校に到着して、挨拶以外で一番に話し掛けて来た友達の様子に、オレが妄想した最悪の展開は無かった事はとりあえず分かった。



空気の入れ替えをしない教室の二酸化炭素から逃れようと、一人ベランダに出でいたオレの元に現れた彼は茶化しながらオレのズボンの裾を上げる




「あーアンジー、まだいてーんだってここ」





アンジーこと安藤太斉は今オレと同じクラスで、一年の頃から微妙に交流があった。

アンジーは坂本と同じ中央中出身で、カッパTを持っている。
坂本が名前を覚えてる数少ないカッパ派。簡単に言えば坂本の中学からの友達である。

オレからした手島みたいな。



「坂本もお前も馬鹿なー、仙山とかにボコられちゃって、普通ねーよ。あはは。やっぱ坂本がなにかしら赤高に災いしょい込んでんだよなー」



アンジーは笑いながら坂本の事をボロカスに言うが、オレもそれに悪意が無い事は分かっている。



黒やんとらん程ではないが、坂本と付き合いの長い人間の中に出てくる坂本の話は大体こんな感じだ。


実際ずっとそんな奴だし。



「マジ金髪デヴィルって呼び方可愛い過ぎ、一歩聞き間違えたらフツーにカワイイ子悪魔系のお姉ちゃんだし、かえよーやー」



「オレらが変えてもひろまらねーけど、じゃあアンジーならなんてつけんの?」



アンジーは外人好きだからこんなあだ名が付いたように、幾度となく金髪デヴィルという言葉に違う想像させられて迷惑だと前から主張していた。


そんなアンジーをオレはからかい、彼の坂本に対するイメージを楽しみにしながら、自分の中の坂本のイメージも想像する



自己中、我が儘、ベロ真っ赤、目えラリィ、ケンの呼び方、ケとンの間に小さいえが入っててかわいー、ラブ、ラブ、カンフー出来るらしい、ラブ、ラブ


あれラブしか出てこなくなった、なんだーオレの頭は考えんの面倒になってきたのか



なんだかふわついてきた頭に浸りながら、多分オレはこんな感じに坂本を好きでいたかったのかもしれないと思った。


一人で勝手に幸せにさせてもらって。


またぬるま湯に足を突っ込もうとしてる自分。
今日の曇り空は自分の甘さをどうしてもごまかそうとしない。


幸せが、今は安全だぞと重要な部分を線引きして入れないようにしてる


坂本もちゃんと居るし、またたまにチュー出来ればいいじゃんみたいな



余計な言葉や考えはいらないじゃんみたいな


勝手に幸せならずっとこのままでいいじゃんみたいな


正体不明の怖さなんてどうでもいいじゃん、みたいに




「あ、分かった、17」




オレの浮いてきた頭を引き下ろしたのは、しばらく考えて発したアンジーの言葉


オレは訳のわからないそのイメージの由来に首を傾げる




「何だーそれ、時間かかった割にはインパクトねーよ」




「前向きに生きてっかなー坂本の17人は」





アンジーは何かを頭の中で回想してるように、ニイっと笑ってオレの方を振り向く


二言目のアンジーの言葉には、その17という数字に人がついて、遠回しに人間の数だという事をオレに伝えた




「何が、17人?」



「分かるでしょー、中央時代の坂本の歴代の女の数だよ、でもあいつ本当男女交際とか向いてねーわ。どれも一ヶ月持った試しがねー」




爆笑するアンジーを目の前に、オレは自分の顔が凍てついていくのが分かった。



はい?17人?



「うっそー・・」



無理矢理に作った口だけの笑顔は絶対に、今の震えた声に嫌味な程あってるだろう


無表情のがましだったかもしれない




「マジだよ、これ実はあんま知られてねーんだけどさー、表面的には中央中の女はほぼ全員坂本の事最低男だって毛嫌いしてんだけど、噂とかなんだとかハチャメチャじゃん?ちょっとでもイイなんて言ったら馬鹿な女だと思われんだろ?」


「じゃ、なんで?」



「そんなまともぶってる女のほとんどが、いざ坂本に話しかけられりゃ、半年先まで嫌がってる振りして周りに自慢して回るんだよ、なんだかんだで危険なもんに触りたいんだろ、女って」



アンジーの言葉の意味はなんとなく分かる。

いい意味でも悪い意味でも、坂本は有名だ。

自分の好きなもんだけ吸収し、興味のないもんを徹底的に跳ねのけるオーラ


坂本に跳ねのけられるのは普通の人間から跳ねのけられるより何倍ものダメージを相手に与えるのだと思う。

だからそう安々坂本に近ずけないと思ってる人間が多いのだ。


男なら噂や行動でネタにして笑っている振りをして、あいつに期待や羨望の眼差しを向ける


そんで女なら、ボロクソに言う陰できっと誰でもちょっとは想像するのだろう、あの透明な目が自分に向けられる事を




「たまに居るんだよ、自分はそこら辺の女とは違うって思って挑む坂本明男ハンターが、ま、みんなあいつの自己中加減に振り回されてすぐギブアップすんだけど」




「17人は、たまにじゃねーよ・・・」





この怖さは、きっとどんな夢見な気分でも、坂本明男相手に、安心してると痛い目に合うって警報



あいつを普通の物差し計ろうとしたって、そんな物簡単に折られてしまうのだから。




「あいつもあいつで、その気もないのに受け入れる時はアッサリだから、こんな馬鹿みてーな数字になってんだよ、な?おもしれーだろ、17」



感じては、いたんだよ、甘すぎる展開に、何かジョーカーが隠されている波動は


ま、ほんのチョッピリだけどさ




「それ本当おもしろい・・・」




あの、甘い唇の味は、蜜だったのか毒薬だったのか、オレはすっかり中毒になるほど味わった後に、やっとそれについて考え始めた

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あきゅろす。
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