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44舐める者と舐められる者
赤部ストアーから帰宅したあの日、家に帰って再び熱を計ってみたら、やれやれの40度越え


オレはその日から、休日を挟んで四日間学校を休んだ。


四日目の今日まで、坂本から連絡は無し。勿論会ってない。オレからの連絡も無し。


風邪については大分良くなったオレ、天気のいい日中は起きてぼんやりしていた。

庭でタバコを吸いながら、エンドレスに、あの日の幻のような数分を回想する



「意味わかんねえ、男・・」


今まで以上に坂本の真意が知りたくて仕方無かった。






【舐める者と舐められる者】





「ケン、キヌサヤ余ったからウサチョンにあげていいわよ」



ぼんやりと空を眺めながらタバコを吸っていたオレの背中に、かーちゃんがガラス戸を開けて声を投げかける。


オレはそれに顔だけで振り向いて怪訝な眼差しを返した。




「何だよ、ウサチョンって・・」




不満を含んだオレの声も気にせず、かーちゃんは下に置いてあるダンボールから、白い塊を持ち上げる。



「オイ、何勝手にそんな名前付けてんの?そいつはウサチョンとかじゃなくってマギーだっつーの」



「はあ?何その名前、なんでマギーなのよ」



「・・・耳がでっかくなっちゃったから。」



「・・・・」



「なんか言ってよ!!」




理由を聞いてきたから答えたのに、ノーリアクションのかーちゃんに、オレはまた背を向けてむすくれる。

結局オレの腕の中でヒクヒク鼻を動かすウサギをどうする事も出来なかったオレは、とりあえずどうにかなると思って家に持ち帰った。


今まで、家で動物を飼った事がなかったから、かーちゃんは動物嫌いなんじゃないかと心配だったが、意外と何も言う事無く、気まぐれに餌をあげてくれる。



オレがこの白いチビを見る度に心は、しつこくあの男の事が浮かべていた。


いつも、いつも、意味不明な行動でオレを困惑させる坂本。


仙山を、一人で相手して、しかも勝っちゃったみたいになったりして


黒やんちで話してたときは即効で無理だっつってたくせに、そりゃあ20、30、じゃないけど十人以上を一人で。


しかも、その後意識無いオレを赤部ストアーに運んで、ウサギ買ってきて、オレの上乗っかって・・


本当何がしたいんだ、あの男は


本当にあいつの頭の中は宇宙だよ、つーかさ、つーかつーかつーか、つーか!!





カッコイイじゃねーかチキショー!!オレだって見たかったよバーカ!!




何でこんなに関わってて、オレは重要な所全部見逃してんだ、頭を落として足元に広がる自分の影を見つめながら、ため息をつく。




かなりのキーワードで、核心に迫らなきゃ頭がおかしくなりそうな部分も、実際オレはあいつに目隠しされて見ていない。


この悩みで、我慢が限界を越えたオレは昨日、こんな話を真面目に相談出来る相手を頭フル回転させて探した。


出来れば、まだ誰にも言わずにいた方がいいのかもしれないのだか、それはオレが耐えられない。


悩みに悩んで一人を導きだしたオレはアドレスから一人の名前を選んで恐る恐る通話ボタンを押す。




「ケンさん?」



「あ、ヒコボー、悪い今平気?」


「大丈夫ですよー。どーしたんですか?」



オレが縋ったただ一人は、カリスマイケメン、だけど薄幸の坂井くんである。


通話ボタンを押して、こんな時に後輩を頼るなんて、オレはなんて情けないんだという事にようやく気付く。


男として。



「あのさー・・ちょっと聞きたい事あるんだけど、ヒコボーはさ、さ、坂本に・・・舐められた事ある?」



「え・・?舐められた事ですか?!どこを?!」




オレの予想外で訳の分からない質問に、ヒコボーは電話の向こうでかなりビビッいるのが分かる。



それを電話ごしでも痛い程感じたオレは、益々自分が恥ずかしくなり、必死で電話をぶち切りたい衝動を押さえた。




「・・ベ・・・ベ・、ベ、・・・・顔。」




「(べべべ顔?)顔!?いやー今まで坂本さんには色々されたけど、さすがに顔舐められた事は無いっすねー・・」



ベロを舐められました、それんな事を堂々と真昼間から伝える勇気はどうしても湧かず、オレは仕方無しに若干ハードルを落として伝える。


それでも、ヒコボーにはかなりの衝撃を与えてしまったようで、オレは自分のハードル調整にだんだんと不安を感じてきた。



「え・・もしかして、ケンさん坂本さんに顔舐められたんですか?」



「え!?・・・は、いや、・・・・んなわけないじゃーん」



駄目だ、オレに起こった事と世間との対比が!



これ以上の事をヒコボーに相談すれば、何かが足元から崩れ落ちていってしまう気がして、本当の事は言えないままその時の通話は終了。


結局、昨日は、ヒコボーに意味不明ないたずらまがいの電話を掛けたという事実だけを残して、何も解決しないまま過ぎていった。



あの男なら、もしかすれば嫌がらせ的にヒコボーにも似たような事してんじゃないかと思って、電話を掛けたのだが。


ヒコボーの事は相当気にいってるし、その位の常識外れなら、坂本なら有り得なくもないと、そう解釈しようとしたのに。



前例は無いっぽい、前例がない坂本明男の行動にはどう対処すればいいのでしょうか。



別にそれほど困るような事ではない、今も平和に芝生の上。犬に噛まれたと思って忘れろよ、と言われるような事かもしれないけど。


坂本とオレという条件で、これはかなり特例なケースになってしまう。



理由は、オレが坂本明男に自分でも信じられないが惚れてしまっている、という事と


オレのお蔵入りの感情を、坂本明男は知らないという事。



ね、事件でしょ。






「ケーン、ケンって!」





再びオレを呼ぶかーちゃんの声で、オレは現実に返りもやもやとした感情が一瞬吹き飛ぶ。



気付かなかったが、結構前から呼んでいたようで、かーちゃんは少しイライラしながらオレの名前を連呼していた。


まったくよー、人が相当でかい人生の瀬戸際で悩んでるうっつーのに、何なんだ!




「あんだよー!キヌサヤじゃなくてニンジンあげてやれよ、ニンジン!バニーなんだからさー」




「坂本くん来てるっつってんだろーが!早く中上がれや!!」




また、ウサギの相談かと思い文句を言えば、室内を指指し怒鳴るかーちゃん。


ガラス戸の向こうには、あの日あの瞬間から四日振りの、生身のあの男。



「よ!登校拒否!」



居るし!


オレは表情をぶっ壊しながら、持っていたタバコを落とし庭の芝生を燃やした。

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あきゅろす。
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