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41坂本のスイッチ
仙山高校の悪ガキ連中は、自分より上の奴に言われた事ならモラルもなんも関係無く

意味すらわからなくても、なんでもやる。

それが仙山高校。



以前もチャチな噂が原因で、一週間、見ず知らずの仙山の生徒に付け回されて毎日リンチの嵐


身も心もヅタボロに疲れ果ててしまった少年が居たという前例がある


多分そのリンチに関わった仙山生の大半は、そいつを殴らなきゃいけない理由を知らずにやってた者ばかりだ。


今になっちゃ、名前も顔すら覚えてねえんだろうな
オレ以外は


その少年というのは、何を隠そう中学三年生だった高柳少年だ





【坂本のスイッチ】





目覚めたら、体の節々が痛くて、涙垂れ流し放題目が半分開かない


制服着たまんま寝てしまったから、当然制服はぐちゃぐちゃだ。


学校行きたくねー。体もだるいし、今なら心も簡単にポキっと折れそうだし



とりあえずカーテンを開けるべく、上体を起こすと、頭がふらふらして、目もフラッシュをたかれた時のようにチカチカする。


あれ、なんかマジに体がおかしい。


精神状態のせいだけじゃない体の異変、同時に心無しかいつもより若干体温が高い事にも気がつく



「辛い・・」


とりあえずこのままの状態では死んでしまうと判断したオレは、喉もカラカラだったので二階の自分の部屋を出て一階のリビングに降りていった




「げっ熱あるじゃないの!あんた風邪よ!手洗いうがいしないで寝てるからでしょー!今風邪流行ってんだって言ってただろテメー!」


「しらねえよ・・いつ言ってたんだそんな事、つーかだるいオレ今日学校いかねー」



下に降りて水を飲んでいると、オレの顔を見たかーちゃんはすぐに問答無用で体温計をオレの耳に突っ込んできた(耳ッピ)


そして、案の定普通に38度以上あるオレ。




「そうした方がいいけど・・あんた今日テストなんでしょ、あんた馬鹿なんだから行った方がいいわよ。昼で終わりなんだし」



「は!?今日テスト!」



「知らねーのかよ」




呆れと怒りの混ざる目でオレを見つめるかーちゃんの言葉で、オレは今日赤高の中間テストがあった事を初めて思いだす。



しまった。忘れてた。ますます行きたくねーよ。

つーかオレ病人なのに寝てたら駄目ですか、かーちゃん。




「お母さんも出来れば休ませてあげたいけど、あんたが将来、就職出来ないで街中でキャバクラのキャッチしてる姿が目に浮かんで心配なのよ、リアルに。辛いわよ、笑顔で話し掛けてるのにシカトされんの」


オレはかーちゃんにそこまで心配されてたのか、オレだって赤高ぐらいは卒業出来るよ。多分。



本当に、心配そうな目でオレを見つめるかーちゃんに、何も言えず、オレは仕方なく行きまーす、とだけ返事を返した。





赤高についたら、クラスはなにやら一生懸命机に文字を書いている奴らばかりで、ああ、やっぱり今日本当にテストだったんだと自分の呑気さを再確認する。



でもオレはそれ以上に体がだるくて、そいつらに混ざる事も出来ずに一人机でうなだれていた。



「ケンケン〜超諦めモードじゃーん。ヤバイじゃーん!オレが考えた必勝方教えてやるから〜諦めんなってー!あのな、イタリアはブーツの形で静岡は金魚の形って覚えとけ!これだけで世界地理と日本地理30はいくべ!」



いったら逆に困る。


一人テンション低く机に頭を寝そべらせてたオレに自信満々にかなり幅狭い必勝法を教えてくる手島。


色々突っ込みたくてたまらなかったオレだったが、手島に絡めるような、そんな元気が今あるはずもなく、不本意だけどサンキューとだけ言ってテストが配られるまで体の節々の痛みと戦った。




五科目の適当な時間配分のテストは、いろんな奴の回収待ったの挙手により、予定より少し長引いたが、なんだかんだで昼過ぎには終わった。



オレの手ご堪えと言いますと、そりゃあもう空気を手で掴む感じですね


とっくに開き直ってます。早く補習と追試のスケジュールを組んで下さい。



手島、静岡が金魚ってどの辺で叫べばよかったかな

なんとなく頭に残ってて、ほんのちょっとだけ探してしまった自分が恥ずかしいです



何はともあれ、テストが早く終わる事だけを願っていたオレは誰よりも早く帰りの支度をしてHRが終わるのを無言で待っていた。



坂本とも今顔合わせたくないし、ばったり会って、また泣くだなんだと言われれば今なら絶対リアルに泣く。


泣いても泣いても泣き飽きねえよ、今。


精神の話は今はいいんだ。風邪に障るから。


とか考えながらも、オレはやっぱり仙山との話がまだ気になっていた


その事を考えるだけで頭が痛くなってくる。


今のオレじゃいつも以上に何の役にも立たねー。

結局そんな奴よ、オレって。



ただ早く家に帰る事だけを望みながら、ひたすらに自分の情けなさに堪えていたこの時



オレが悩む時間も虚しく、事態は真っ逆さまにクライマックスに向かって落ちていってた事を


オレはこの瞬間も、そうなるギリギリに差し掛かるまで、一人だけ知らないでいた。



他のみんなは、もうこの時にはアッサリ気付いていたようで、しっかり警戒をとっていたのに。




同じ頃、オレのクラスよりいち早く終わっていた隣のクラスには、さっさと集まっていた三人が、教室の窓ガラスから、下校する赤高生達かったぱしに絡む、凶悪なオーラを放った仙山の集団を見ていた




「坂本、お前のお客さん」


「うわーダリ、そんなオレ好きなのあいつら」



窓ガラスに顔をくっつけて今にも門を越えて向かってきそうな仙山生達を見る坂本と、リアクションに疲れきってため息をつく黒やん。


「どーせオレとか黒やんは坂本くんに繋ってるって、とっくに向こうも分かってるし。赤高から出れねーね」



一度仙山と会った事のあるなかがわも、黒やんからケータイで呼び出され、坂本達のクラスに来ていた。



「今出たら確実に病院直行だろ、つーか病院すら連れてってくれねーかもな、今は絶対出ない方がいいわ。」



思った以上の人の集まりに、黒やんも動ける状態じゃないと判断し、呟く。



「アジト殴られてくれば?今なら無料で大サービスしてくれんだろ」


「人の事マゾみたいにいうねー。殴られんのはいいけどあんな所で死んじゃったらカッコ悪いでしょー」



あのクルクルパーのなかがわすら、今の事態がどんなにデンジャーであるかを分かっていた。



気付きませんでした、体調不良でした言い訳はいっぱいあるが



それでも、オレという奴は


「黒やん待機ー?」



「待機!オレちょっとケンにも言ってくるわ。あいつ仙山に顔割れてるかわかんねーけど、とりあえずマジで危ないし」



黒やんが教室を出て、オレにこの状況を伝えに走ったとき、オレはもう既に下駄箱付近であった。



なにせ、クラスの誰より早く終礼と同時に教室を出て行ったから



「あ、待てあいつに言って」



「なんて?」



急ぐ黒やんを、坂本は足止めた。




「いつまで待たせんだ、アホ、坂本死んでるかもしれねーぞ。これだけ、間違えんなよ」




オレはこの日、動く事に精一杯で朝から一度もケータイをチェックするのを忘れてたいた


昨日はかじり付くように見ていたのに、世の中ってなんでこうもタイミングが合わないのだ。



オレは下駄箱から校門に辿り付くまでの間、ようやく時間を見ようと思ってケータイを開いた。


すると、いつのまにか四件もの着信。



坂本

坂本

坂本

坂本


数時間の間隔を開けて掛かってきていたのは、全て坂本から。


どういう事?これは?



オレはケータイを眺めながら完全に下を向いていた。

熱のせいで足どりはフラフラ。

それでも、頭の中は冷静にこの謎の着信の事で埋まっていく。



声を掛けられるまで、門の方なんて一切見ずに




「あれー?君、坂本くんのお友達だよねー?」


「は?」


「ちょっと付き合えや」



鞄を思いっきり引っ張られ、何事かと力の方に目をやれば十人ほどの、仙山の制服



ケータイを掴んだまま、固まり、状況が飲み込めないオレ


熱が更に上がったような感覚がして意識はだんだんうつろになり始めていった。





「おい、ケンもう帰ったっぽい」



焦った様子で教室に戻って来た黒やんは、坂本にオレが既に教室を出ていたという事実を深刻に伝える。



「帰ったあ?」



「うん、つーか、居ねー」


黒やんの言葉に坂本は座っていた机を降りて眉間に皺を寄せながら近付く


すると、最初からずっと窓ガラスを離れず、仙山が赤高生に絡む様子を観察していたなかがわは、坂本と黒やんの会話を聞いて呟いた。



「あ、今絡まれてんの、ケンくんかも、つーかケンくんだ」



「マジで?」


なかがわの言葉に、黒やんも窓に駆け寄り、一緒になって窓の外を覗いた。



「やばい・・坂本、ケン連れて行かれてんぞ」



黒やんの言葉に、背中に居る坂本はしばらく沈黙の間を残した。


誰もどんな言葉が隠されているのか悟れないような、透明で静かな間



「仕方ねーなー」



過ぎた沈黙の後に一言だけ、呟く。



「坂本、グラウンド裏の方だ、ちょっと待ってろ、最悪ケーツ呼ぶ、凶器持ってっかもだし。」


「いい、オレ見てくるわ。一番泣き虫さらうとか、捻りなさ過ぎてつまんねーわな、構ってやらいーんだろオレが」



「あぶねーっつの!オレも行く」



「いい」




坂本は、眩しい髪を少し掴みながら、整え、何かのスイッチをいれるように肩を回した



「あいつは、オレ一人が現れてやんのとかが、一番喜ぶんでしょ?」



尖った歯を除かせながら、口だけで笑う坂本は、ポケットに手を突っ込み、小走りで教室を出ていったのだった。

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あきゅろす。
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