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40地雷を押すな
坂本を「好き」だと思った。

坂本の存在を詰られた事によって、追い詰められたように初めて言葉になって吹き出した感情


ただ漠然と「好き」だと


例えば、もし昨日らんに言われた言葉がなければ違う表現をしてたかもしれない強い感情


それでもオレは「好き」という言葉にするのが、一番簡単なような気がした





【地雷を押すな】





坂本、お前敵だらけだよ、どーすんの?


一回目の放送が鳴りやんでから、とうとうそのまま放課後まで二度と繰り返すことはなかったスピーカー。

坂本不在の職員室は、あの後どうなったのか、オレは何も知る事が出来ないでいる。



生徒がみんな帰ってしまった放課後の赤高が必要以上に静まり返って、なんだかどんより暗い気がするのは


いつもと変わらないのに、オレの目にそう映るのは


お前が居ないせいじゃないか?坂本明男。



オレ、お前が好きらしいんだよ、どうすればいい?



正直、今までの人生で味わった事のない好きなのだ。

ライク、ラブ、敬い、憧れ、色んな種類の好きがあるけれど、どれもそれだけじゃ足りない気がして


恋愛の方がまだわかりやすい。
好きだからって、何がしたいのか思いつかない。



けど、好きだ、好きだ、好き過ぎる。

心の中で呟くたびに反発してた物がすっと混ざり合う感覚に包まれる。



方程式はわからない。答えだけ見つかった。


好きだ、どうすればいい?

お前の事が好きな奴は、お前が今どこで何をしてるのか、お前が無事か、不安に駆られて仕方ない時、何をすればいい?




掛かってくる可能性に捕われ、一人学校から離れられず見つめていた携帯電話を開ける。


待ち始めてから随分と変わった時刻が光っていた。


着信は無し。


オレは役に立たない機械になったように見えたそれを畳んでポケットに仕舞い、とうとう立ち上がって教室を後にした。





オレは帰り道を一人歩きながら、今自分はどうすればいいのか思い付かず途方に暮れる。



オレが仙山に何を出来るはずもなく、それどころか坂本の心情も知る事が出来きずにいる。



こんなふうに歩いている間も、自分の存在が無駄な時間に消えていってるような気がしてならない



坂本に会いたい、せめて、一目見たい。



今すぐ坂本から電話があれば、多分オレはどこまででも走ると思う。







「おい、死人!」






もう既に仙山に囲まれてリンチに遭ってる所だったら


ってはい?!






「はああああああー?!!」


「なんだてめー」




なんで、こいつがここに居るんだ!?
いつ、どこから現れたよ、どうやって!?
なんてタイミング!こいつは本当に人間か!それともオレの心はGPS機能で読まれてんのか!?



俯いて歩いていたら突然肩を小突かれた感覚がして、顔を上げると、あろうことか、一秒前までずっと頭に浮かべていた顔が目の前にある。



全くいつも通りの、世界をナメきった表情で笑う


坂本明男




「お前!なんでここに居んの!?どこいってたんだよアンタ!」


「お前こそ何一人で死人みたいな顔してふらついてんだよ、写メられるぞ」



なんだコイツ全然無事じゃねえかよ。

感情が高ぶって悪い想像ばかりしてた自分が恥ずかし過ぎる。


確かによく考えたら、放送で呼び出される前に帰ってたし、もしかしたらまだコイツ自身は今の状況をまだ何も知らないのかもしれない。


それはそれで更に危険だけど




「死人みたいな顔ってなんだっつーんだよ!ただちょっとブルーなだけだよ、こっちはお前がバックレてる間に色々あったんだよ、そりゃあもう色々!」



「ふーん、何だ色々って。こっちはいきなり目の前に死に場所探してるみてーにフラフラしてるお前が居たからゴーカンでもされたのかと思ったアハハー」



オレの千分の一も己の身の危機が頭に無い様子のコイツに、オレは力がどっと抜けてこの場に座り込みたい気持ちになる


せめて、自覚してくれ、今はまだ無事でも遅かれ早かれお前にも実感せざる得ない時が来る事を


少しでもいいから視野に入れとけよ、坂本。




「で・・お前今まで何やってたの、昼からこんな時間まで一人でさ」



「あ、ボーリング」



「は?ボーリング一人で?」


「誰かと行ってどーすんだよ、投げる回数減るじゃん」




何一人で行くのが定番な遊びみたいに言ってんだよ、コイツ。


そこまで欲張ってピン倒したいのか。

プロボーラーか、お前は。


つーか赤高と仙山がお前の名前で溢れてた頃、本人は一人でボーリング行ってるって何だよ。


仙山も赤高もお願いだから早くこういう事に気付いて、真面目に争うのやめようぜ。




「坂本、お前の知らないとこで、今赤高面倒な事になってんぞ・・」



オレはどうしょうも無く呑気な坂本に、せめて自覚してもらうべく今日の出来事を、あるがままに話した。


昨日赤高の奴が仙山と揉めた事、それが原因で深刻そうな呼び出しが坂本が帰った後にあった事。

オレがそいつの友達に飛ばされた事はなんとなく言いずらくて省いたけど、それ以外は全部話した


坂本はオレの話を聞きながらもやはり表情を変える事は無かったが、最後に何かを思い出したように頷く





「なるほどね、だからさっき仙山の奴がやたら騒いでオレんとこ来たわけだ」



納得したように呟かれる坂本の言葉


オレは一瞬何も言えなくなったが、聞き逃せないそれに頭が混乱しながらも、反応する




「は?来たの?仙山?」



「うんさっきボーリングしてたら、5人。なんか言ってきたけどあんま聞いてなくて、ボーリングの球投げたらブチ切れられたんで逃げて来た」




退屈な話を略すように、淡々とついさっきの出来事を話す坂本。


何だよ、お前仙山と対面してんじゃん!


つーかそれヤバイじゃん、そんな小馬鹿にしてるような態度で挑んだんなら、完璧に仙山スイッチ入っただろ。



もう何してくるかわかんねえぞ、百パー殺す勢いで来るはずだ




「坂本!とりあえずもう一人でうろつくな!次仙山が来たらどんな手使ってもいいから一人でも潰せよ!でなきゃお前が確実にやられる」



「大丈夫だって、あいつらアホじゃん、アホは構ってやったら調子乗んだろ」



「そんな事言ってる場合じゃない!」




「だってボーリングの球投げたのに誰一人キレる以外のリアクションしねーのよ、ボーリングの球たぞ、面白れーじゃん普通。そんなつまんねー奴らに付き合ってられっか」



「だから最初っから仙山は面白れー振りなんて求めてねーんだよ!求めてんのは赤高でトップだと思われてるお前を潰して仙山が上だって知らしめる事だけだっつの!」





何を言っても、意見を変えない坂本に、オレだけ焦りが募る。

仙山は集団だ、集団がお前一人を狙っている。



別に勝たなくったていい、お前が心配なだけだ、分かって欲しいだけ


ボロボロにされるのが似合わないんだよお前





「坂本、次なんかあった時はオレに電話掛けてよ」



「なーに、言ってんだよ、ほらすぐ泣く顔する」



「元からこういう顔なんだっつーの!いいから掛けろよ!オレがいた方がまだマシだろ!」




救える自身なんて、さらさらないけど、オレの知らない所で、お前が仙山にいいようにされるよりは



まだ


坂本は、オレの顔を見ながら不思議そうに首を傾げる。
何言ってんだこいつと思ってんだろうか、余計な事言い過ぎただろうか

嘘でも、分かったと言えばいいじゃないか。


オレは仙山に何されても、そんな時でも横で今みたいに何か面白い事見つけてるお前が居れば


そんな場面もそれはそれでいいんじゃないかって思うんだよ


なあ







「あほか、お前がいた所で何の役に立つっつーんだよ」







坂本にとって、善も悪も石ころ程の価値も無い事は知っている


だから、この言葉に、そのどちらも含まれてない事は十分に分かっている。




でも、いやだから、むしろ。




「坂本のバーーーカ!!!!!」



「はい?」



気を緩めれば、取り返しのつかない事を言いそうな気持ちを押さえて、オレは叫んだ。



オレ自身さえ思いつかなった一番言われたくなかった台詞。


よくもまあ、こいつはさらっと言ってくれたもんだ。


分かってる、分かってるよ、分かってんに決まってんだろ、オレが居たって何にもならない事くらい。


普通そう、誰でも思うはずなのに、オレはお前が好きだからそんな事口走っちゃうんだよ。


馬鹿みてー。




「そんなに面白れーリアクションが欲しかったらな!お前、お前なんか大阪に住めばいーじゃん!!」



「どーしたアンタ」



「うるせー!!バカ!オレなんかどーせ居た所で役に立つどころか、笑いの足しにもなんねーよ!!」




自分でも、よくわからない暴言を吐いてオレは逃げるように走った。



走ってるせいで息が苦しいのか、別の物が原因か、走りながら涙が出てきて、喉がヒューヒューと苦しい



坂本のあほ、分かってんだから別に言わなくていいじゃん



オレがお前にとって何の役にも立たない存在だって



けど、オレにとってお前は





「あの馬鹿・・・」




オレはその日、ダッシュで家に帰って制服も脱がずにボロ泣きで布団に潜り込み、意識を失うまでの間



オレのケータイに四回も坂本から着信があった事に次の日まで気付く事は無かった。

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