36トコトン馬鹿
朝の一件で残った熱は、やたら体から抜け切れず、学校に着いてもどこか頭がボンヤリとしているオレ
考えるのは、オレの肩にしがみつきぐっすりと眠っていた坂本を、どうしても自力で払えなかったオレと
どうにかしてでも、早く離れなければいけないと思ったオレ
真逆に聞こえるその二つの衝動が、なんとなく同じ頂点で繋がっているような、そんな気がした。
でも、その頂点は雲の上、何なのか、ああ見えない。
そんな事を考えながら、なぜか、らんと二人で横須賀くんと黒やんを観察してるオレ
イン、廊下
「ケンケン、オレ今このクラス出入り禁止だから(教師命令)二人の会話メモってきて・・」
お前は実刑因か
【トコトン馬鹿】
昨日、らんは、二時間丸々ふて寝していたらしいが、一応家庭科の授業に出ていたという。
しかし、危険だったのは家庭科だけではなく、ほぼ全ての授業の単位が0に近いらんは、一学期の最低ノルマを達成するまで、黒やんのクラスの出入り禁止をくらった。
当たり前だが、そんな生徒は赤高でも史上初らしい。
世話の焼ける子ほどカワイイ精神で元々教師受けがよかったらんだったからまだ良かったものの、普通ならオマケしても即効でアウトな状況である。
かなり生易しいノルマだ。
「うあー!苛々する!やっぱ入ろっかな!入ろうーよ!ケンケン〜!」
それなのに、そんなメガトンサービス級なチャンスを僅か一日でおじゃんしようとしている、らん。
意志が弱すぎるよ、自分の状況分かってんのか。この崖っぷちボーイは
「やめい!!分かった、分かったよ、オレが聞いてきてやるから、さすがに怪しいからメモはとんねーけど」
オレはとっとと自分の身を捨て去ろうとするらんを、ギリギリで止めて、しょうがないので、仕方なしに要望を引き受けた。
「もうケンケンの言う事なんでも聞く」
「授業に出な!」
要望に答えてしまった甘いオレに、らんは力の限り抱き着いてくる。
本当、らんは心底横須賀くんと合わねーんだろうな
でもこれまるで、恋人に近づくお邪魔虫を追い払わないでいられるか!って感じだよ
オレは幼なじみって居ないからよくわかんねーけど、黒やん、いい男なのにらんが居たら彼女も安々作れねえだろうなー、新たなる三角関係が出来そうだし
オレは黒やんとらんが今後どういう未来を歩んでいくのか、少し心配になりながらも、今は取り敢えずストレスの溜まったらんの気を休めるために教室に入り黒やんと横須賀の傍に近づいた。
「黒ちゃん」
「うん」
「楽しいねー」
「うん」
取り敢えずクラスメートに紛れ、黒やんと横須賀君にわかりずらい位置で聞き耳を立てるオレ
中々いいポジションだったみたいで、超ハッキリ二人の会話が聞こえるが
なんだこの会話は。
熱心に今大ブームの20世紀少年を読んでる黒やんの前で、そんな黒やんを楽しそうに眺める横須賀君。
横須賀君、黒やんは楽しいかもしれねーけど、あんた本当に楽しいのかよ
ヤバイ、端からみたらちょっとウケる光景だ。だって黒やんも一々返すからコントみたいになってんだもん。
オレは笑いを堪えながら、らんに頼まれた事とは関係無しに楽しくなってしまった。
もう好奇心ただ一つで、二人の会話に更に聞き入るオレ。
「黒ちゃんさー、今度うち来てよ親とか仕事であんま家いねーし。こっち戻って来てから暇なんだわオレ」
(本当は一人で帰って来たから一人暮らしだけど)
「うん、行く行く」
「マジでーじゃーいつ来てくれんの?」
(あ、イクイクって言葉なんかやらしー。よっしゃ)
「いつでも行ける」
「いつでも?」
(あースゲー理想の流れ)
「うん」
「まだいっちゃダメ」
(たまらん)
「なにそれ、おめーが来いって言ったじゃーん」
なんだこの会話は!訳わかんねー!どうしよう、笑う。←(横須賀の心情が分かってないので意味不明な会話に聞こえるケン)
マンガを読みながらも、一応聞いているらしくちゃんと質問に合っていた返事を返していた黒やんもオレと同様、変な話の流れに軽くウケている。
それをニコニコといつもの爽やかスマイルで見つめる横須賀君。
もしかしたらこの人達なりのコミュニケーションで、本当に楽しんでいるのだろうか(違う)
「あ、黒ちゃん首に天道虫止まってる(ウソ)」
「え、マジ?」
「ちょっと、じっとしとけって」
以外にもマジで聞きがいのある会話をしていた二人の話を本当にメモろうか悩みながら見ていると、急に横須賀君が黒やんの首元を見つめて、更に手を伸ばし黒やんの首元をがさがさといじり始めた
「あれ、どこいったかなー」
「ウソだろ、オレそんなん付いてる感触ねーし」
「テントームシってちっせーから、あ、はい取れた」
「見せて」
「もう飛んでいったわ」
「だからウソだろ、今何も飛んで行ってんの見えなかったっつーの」
「黒ちゃんマンガ読んでたじゃん」
「今読んでねーし」
あ、今のはわざとかな・・
横須賀君の衝撃宣言を知っているオレは、今の行動には下心が含まれている事をなんとなく察知した。
もし、万が一の事があっていつか本当に黒やんが横須賀くんに落とされたらどうしよう、ちょっと不安。
黒やん横須賀くんの前ではいつもより、若干ボケっとしてるからなー
まだ少し二人の会話が気になったオレだったが、大体ネタが集まって、これ以上をらんに報告すると長くなるので、この辺で引き返そうと、気付かれないように這って教室を後にした。
廊下に戻ると、足を伸ばして廊下に座って待っていたらん。
邪魔ー、さすが自由人。
「ケンケン、あの二人どーだった?何て言ってたよ?」
瞳に不安を宿して、戻ったオレに必死に尋ねてくるらん。
たくさんネタがあるけど大体似たような特に意味のないもんだったので、オレはらんに最後のテントームシエピソードだけを伝えた。
「えっとー、横須賀君は黒やんの首にテントームシが止まってるって言ってそれ取ってた。黒やんウソだろーっつって後はずっと20世紀少年読んでた。」←(適当)
オレは難しい言葉が苦手ならんの為に、なるべくわかりやすい言い回しで伝える。
気を利かせたオレの言葉に、一発で二人の様子を理解してくれたらんは、どんどんと戦闘モードのキレ顔に変わっていった
「あんのヤロー!!まっだそーゆう手ェ使ってんのかあぁ!?やっぱ全然変わってねェーッ!!」
らんは何か身に覚えがあるような言い方でキレながら叫び、またも廊下に置いてある消火器をガンガンと蹴り始めた。
なんで、こいつはいっつも消火器に当たるんだよ。
普段あんまり使われないからいいと思ってんだろーか。
「やっぱオレいく!ありがとケンケン、オレ決心付きました」
「だからやめろって!つーかそれならオレが忍び込んだ意味無くなるじゃん!!」
怒りが頂点に達したらしく、教室に飛びこんでいこうとするらんをオレは必死に止める。
それでも暴れるらんに、オレが力尽きて手を放したその時でした。
手を放した反動でらんは頭から思いっきりあるものに激突した。
そう、消火器とは必ずセットで存在する
「ジリリリリリリリリ!!!!」
「うっそー・・」
小松蘭太朗、非常ベルを鳴らして消防車を学校に呼んでしまった事により、一週間の停学。
悪いけどこれはオレにもどーにも出来ません。
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