35熱帯夜
その日、ようやく家に着いたオレは即効で風呂に行き、風呂から出たら物凄い眠気に襲われた。
疲れた、今日の一日。
あ、らんはちゃんと家庭科出ただろうか、怪しーなー。
一日を振り返っていくとどんどんボヤけていく視界。
眠気の限界を感じたオレは、オレの部屋に置いてあるテレビを付けてまだまだ寝そうにない夜型人間の二人をよそに一人で布団に入る
「オレはもう寝る。本当は寝る時は真っ暗派だけど、どーせお前らまだ寝ないんだろ、我慢してやるよ」
そう恩着せがましい捨て台詞をはいて、床に着いたと同時オレの意識は夢の中へと消えていったのだった。
【熱帯夜】
(※ケンが寝てしまったので、三人称のナレーションでお楽しみ下さい)
「オレも風呂借りよー」
ケンから事前に、風呂の場所を教えて貰い適当に使ってと言われていたアジトは、爆睡するケンと手相鑑定の深夜番組にハマっている坂本を置いて、一人部屋を出た。
「うわーケン生命線みじけー」
なぜか自分の手相ではなくケンの手相を見る坂本。
「あ、違った生命線じゃねー、何この線。テメー余分な線多過ぎなんだよ」
手相の見方がちょっと難しい坂本は寝てるケンに文句を言う。
「どっちにしろお前どの線もみじけーわアハハハ!」
どの道、幸運な傾向が見られないケンの手相に、一人なのに楽しむ坂本。
そうこうしてるうちに30分番組は終わり、暇になった坂本はケンが寝る前に充電していたケータイを勝手に外し、自分のと変え暇潰しにカチカチしていたその時だった。
「さか、もと」
爆睡中のケンが、坂本の名前を呟く。寝言である。
嫌な夢でも見てるらしく、その声は唸り声に似て苦し気であった。
「なに?」
一方、寝言で自分の名前を呟かれたというのに、全く意味深な考えをせず、ケンが起きたのかと思って普通にケータイをカチカチしながら返事をする坂本。
一方夢の中に戻ったケンは、坂本の返事が聞こえてるはずもなく、再び黙る。
そんなケンに坂本は、返事したのにシカトされたと思って、腹いせにケンが寝てるベットを蹴る
「ん、わ、坂本が・・」
坂本に蹴られた事で揺れるベット。
その揺れが夢に影響したのか、ケンは再び寝言をほざき出した。
どうやら、坂本の身に何かがあっているらしい
「はあ?」
またも、自分の名前を呟かれ続きを言わないまま黙ったケンに、坂本はようやくケンは寝ながら喋っているという事に気付く。
本当は、寝言を言ってる人間に返事を返してはいけないのだが、あまりにも面白かった坂本は、寝てるケンの上にのぼり、ケンに顔を近付け、珍返答が返ってくる事を期待しながら尋ねた。
「オイ、オレがどーしたって、ケン坊」
「坂本が・・仙山にみつかる、早く、かくし、て・・」
「・・・」
夢の中の映像に相当苦しんでいる事が分かるような、少し青くて、引き攣ったケンの表情。
坂本は無言で跨がったまま、ケンの様子を暫く眺めた後、その顔に二三発平手を打ち、夢の中に居たケンを無理矢理現実に引き戻した。
「うわ、なに?なにやってんの・・」
いきなり頬に痛みが走り驚いて目覚めたケンは、なぜか自分の上に乗っている坂本に更にビビる
夢の記憶はないようで、状況が分かっていない様子のケンは、坂本の行動に訳の分からなさを感じつつも、若干早く心臓を走らせながら坂本の言葉を待った。
「おまえさー・・」
そう言い、珍しく続きを躊躇う様子の坂本に、ケンは更に混乱したまま黙って坂本を見つめる
しかし、坂本の行動がおかしい事など今に始まった事ではないので、ケンの思考は再びある物に支配されていった。
そう、眠気。
「なに・・あ、煙草布団の上で吸うなよ、灰が落ちっから・・・」
そう言って、坂本が続きを言う前に、ケンはまた眠りの世界に落ちていった。
そんなケンをまた暫く無言で見つめる坂本。
そして、さっきとはうって変わった呑気そうな寝顔にデコピンを食らわす。
「オレも寝よ。」
ケンの上に登ってから、布団に入っているケンの温度で段々と眠気が移っていった坂本は、何も言わなくなったケンに飽き、自分もケンの隣に潜り込み、三秒で眠りの世界に落ちていった。
ケンと坂本が完全に意識を手放した、5分後、風呂から上がり再びケンの部屋に戻ってきたアジト。
部屋を出る前とはうって変わった光景に思わず立ち止まる
放送が終了して、ザーザーと砂嵐なテレビ。
微妙に火が消えていないまま灰皿に置かれた坂本の煙草(危険です)
そしてなぜか子供のよーに同じ布団でくっついて寝てる二人。
「えー・・オレもあそこで寝なきゃいけねーのかなあ」
ケンの家初訪問だったアジトは、もしかしたらここの家に泊まった者は同じ布団で寝なければいけないという決まりがあるのかも知れない
と一人悩みながら夜は更けていった。
(※ケンが起きたので、ここからは通常通りケン視点でお楽しみ下さい)
なぜか、鳴らなかったオレのアラーム。
しかし、体内時計のしっかりしているオレは目覚ましが無くてもいつもと同じ時間に目覚める事が出来た。
目は開いたが、なぜかすげーあったかくて、昨日の疲労が抜けきれていない体はまだ起き上がろうとしない
あー、なんだこのあったかさ。スゲー気持ちー。
って、オイイ!!
「坂本・・さん!?」
振り向けば、オレのスウェットにへばりついている金髪。
坂本、坂本がいる。オレの部屋にこんなにキンキラキンな物は坂本以外に無い。
どうしよう、と思ったが一向に起きる気配の無い坂本。
いつ入ってきたんだ、この男。でも、どうしよう、こいつの体温心地良すぎてこのままじゃ二度寝してしまう。
坂本を引っぺがして起きなきゃ・・
でも、なんでだろう。手が動かない。坂本の呪いか!?
剥がせない!どうしても坂本を剥がせない!
どうしたオレ。どうしようケン。剥がせばいいんだよ、普通によー
「あ、ケン君起きた?」
背中に居る坂本をどうするかで、悪戦苦闘して壁を引っかいていたオレに、一人だけ毛布を持ってきて床で寝ていたなかがわが声を掛けてきた。
なかがわはもうすっかり起きていた様子で、朝のニュースを見ながら血まみれのシャツに着替え始めている。
「あ!なかがわ!お願い!坂本外して!」
「なんで?坂本くん爆弾でも仕掛けられてんの?」
「いーから!お願い!早く!」
それから、ようやくなかがわの手伝いで、坂本から解放されたオレは、なんでどうしても自力では坂本から抜け出せなかったんだろうという疑問を心に残し
やたら体が熱い朝を迎えたのだった。
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