34黒川の弟
出来れば関わりたくないと前から思っていた集団。
仙山高校。
危ない上に馬鹿だから加減を知らない奴が多いみたいでポリスの出入りもしょっちゅうだ。
そんな奴らに目を付けられているというのに坂本は、呑気になかがわと中国の話なんかしています
「アジト、中国の生産物第一位は?」
「えーと、シーサー?」
「バーカ、それは沖縄だっつーの」
本当、何言ってんのこの人達。
【黒川の弟】
何も産み出せない会話が繰り広げられる中、時刻は9時を回っていて窓の外はもう完全に暗くなっていた。
雨ももう止んだようで、ホーホーとフクロウの声が聞こえてくる。
ああ、この調子のまま明日を迎えるのが怖い。
明日赤高ががらりと変わっていたらどうしよう。
オレは重い気がのしかかったまま、ボンヤリと黒川家の部屋の中を眺めていた。
流石に男が多い家庭だけあって柔らかい色の少なく、散らかってはいないがテーブルの上には大胆に物が積んである。
お母さんの趣味で置いてあるような物は一切みつからず大き目の電化製品が目立つ殺伐とした部屋だった。
黒やんちだって知らなければ一人暮らしの男の人の部屋のような感じ。
黒やんのお母さんも、うちのかーちゃんみたいにサバサバした人なんだろうなあと予想する。
そんなふうに部屋を眺めていたら、部屋の隅に脱いだまま置いてある学生服を発見する。
赤高の制服ではないそれはおそらく黒川弟のもの。
オレはそれを見て、今まで忘れていた、ある事を思い出したのだった。
「あ、たあ、お前制服掛けとけよ皺になんだろ、アホ」
オレと同じようなタイミングで黒川弟の制服が目についた黒やんは、無造作に置いてあるそれを見て、弟にハンガーを投げた。
「えーダリー。よくねえ?どーせ明日も着るし」
「テメー、オレがどんだけ苦労してそれ貰ってきたと思ってんだよ、燃やすぞコラ」
「あーハイハイ、ありがとーありがとーにーちゃんだいすき」
弟は黒やんに怒られて、渋々制服を掛け始める。
あの制服、黒やんが誰かから貰って来たのか?
よく見たら、確かに制服は、年季が入ってて少し色褪せていた。
もしかして、黒やんちって凄い苦しくて新しい制服が買えなかったのだろうか
そう言えば二年になってから黒やんバイト出る日増えたみたいだし
オレは坂本で相当苦労してる黒やんが実は家でも苦労しているのかも知れないと思い、心配になって黒やんの顔色が悪くないかチェックした。
「ケン、別に家計が苦しくて制服買えねーとかじゃないから。」
「え、なんでオレが言おうとしてた事分かったの?!」
「顔で」
そんな、顔だけでそこまで悟られてしまうなんて
オレは少し恥ずかしくなり、顔をごまかす為に適当に笑った。
でもまあ、それなら一安心とオレは頭を切り替える。
先程思い出した件、黒川弟も仙山高校だったという事。
見た目からして、上に居そうな黒川弟はもしかしたら何か知っているんじゃないかとオレは考えたのだ。
「ねえ、弟も坂本と仲いいからさー先輩とかに何か聞かれてねーかな」
「弟?ああ、たあ?どーだろ、たー、お前は先輩とかに何か変な事言われた?坂本の」
弟の名前が分からないオレは、声の掛けかたに迷い、取り敢えず小声で黒やんにこの考えを振る。
オレの話を聞いた黒やんは、そういえばという感じで、だるそうにハンガーに制服を掛けていた弟にそのまま尋ねた。
「さーオレ先輩なんかとは女の話しかしねーしなー、オレの仙山での地位なんて黒川の弟ってだけだし。ま、それがあるから適当に遊べんだけど」
「黒川の弟って仙山で結構利くんだ?」
「おー、にーちゃんが中学の頃いい感じに周りしめといてくれたおかげでマジで結構助かってるわ」
「うわーやっぱ黒やんも結構やんちゃだったんだ」
「むかーし昔ね、マジで以前だから、恥ずかしいからあんまり突っ込まないで」
確かに、オレも黒やんと仲良くなる前は、坂本の幼なじみの黒川くんって認識してて、一年の始めはちょっと恐かったしな。
まあ、知れば本当は瞳のキラキラした、野球好きのサーファー少年だったんだけど
オレが少し尋ねれば、黒やんは目を反らしてごまかすようにタバコをくわえた。
ちょっと動揺して、中々火が付かず、ライターを何回かカチカカチしている。
うん、やっぱ黒やんはいい子だな。
「つーか、ケンくんさー、もう一回れなやってよ」
「何、れなやる、って」
「前髪上げてれなの真似。つーかやっぱれなに似てる。さっきの行動とか超似てマジでツボだったわ。」
黒やんが帰って来る前に盛り上った、れなの話。
似てるっつても、そこまで言われた事ないのに、行動で似てるとか言われたら凄い微妙だな。
あいつアホだし←(自分は棚に上げるケン)
オレは複雑な心境だったが、黒川弟があまりにもせがんでくるので、別に減る物でもないと思ったオレは大人しく前髪を上げて要望に答えてやった。
「れなでーす」
「アハハハ!超うける!」
「あ、違う。あいつこうだ。ういっす!レナーっす!あははは!ヤンキー丸出し!」
「そう!そう!いいね〜!ケンくん、これ言って!「たあ、そこダメ!」はい!」
「たあ、そこ・・って!言わねーよ、なんだーこの遊びは!アハハ!ばれたらレナに殺されるっつーの!」
「アハハハ!やっぱれな、いーな!ヤリたいねー」
思った以上にウケてくれるので、ちょっと調子に乗ってレナの真似を続けていたら、突然玄関の方で何かがぶつかったようなとてつもなくデカイ音して部屋の中まで割れるくらいの大きさで響いてきた
それぞれ好き勝手な事をしていたオレらだったが、あまりにも尋常じゃない音に、全員が玄関の方を向く。
「何!?今の音?うわ、まさか仙山じゃね」
パニくったオレはさっきの話の流れで仙山を思い出し、もしかして坂本への攻撃が既に始まったのではないかと予測する。
「いや、さすがにちげーだろオレんちだし」
「酔っ払いが楽し過ぎて、激突したんじゃねーの?オレ捕まえてこよーか」
「いい、坂本大人しくしてろ、オレが見てくる」
一瞬は驚いていたものの、すぐに嬉し気な企み顔になった坂本の申し出を却下して、玄関の扉が心配だった黒やんは、注意を払いながら一人様子を見に歩みを進めた
「誰ですか?」
「あの、民也いますか!?」
玄関のドアに異常がなかったため、恐る恐る扉を開けた黒やんの前には、本当に今のあんたかい!って疑いたくなるほど小柄な女子高生が金属バットを持って立っていたという。
「いるけど・・」
「おじゃまします!ウラァアアー!!!クソ男ー!!出てこいやあ!ぶっ殺す!!」
少女は黒やんの超不審な眼差しもサラリとかわし、乱暴に靴を脱いでズカズカと部屋の中に上がりこんで来た
「あ、お前何やってんの?」
「何やってんのじゃねーよ!!ああ?テメエ!昨日友達がお前と女が歩いてんの見たっつーんだけど!」
「何言ってんだよーんなわけねーじゃん、オレお前とラブラブじゃーん」
部屋の中に入るなり、黒川弟の前に立ちはだかり、床にバットを打ち付けながらかなりキレている様子の少女。
うわー、なんだこれ、修羅場かなー。
つーか、今時の女子高生は激しいにも程があるな
オレはいきなりの展開に戸惑いながらも、視線は二人に釘付けである。
「誰に聞いたかしんねーけど、オレユウカ一筋じゃーん、信じんなってー」
「民也・・!って!!誰だよユウカって!!私はミカだっつーんだよ!オラ!ユーカって!!誰だよ!ああ!?」
「あー・・お前の前世の名前だろ」
「おちょくってんのか!?マジ、殺すぞテメエ!!」
話し合いはどんどん悪化し、少女は乱暴にバットを振り回す。
おいおい、仙山の女はこれがフツーなのか!!なんかレナがまだマシに見えてきたぞ。
それより、今名前分かったけど、民也、お前もっと焦ろよ!マジで頭割られそうな勢いなのに何その涼しい顔。
「うわー今日の女は一段と激しいーな・・」
オレ達がポカンと二人の様子を観察していると、玄関でしばらく途方に暮れていた黒やんがもう完全に悟りきった表情で戻って、椅子に座り、泥沼状況の二人を見て呟く。
「黒やん、弟大丈夫かな?」
「大丈夫だけど、この状況だから今日はお前らもう帰った方がいーよ、悪いな、しょっちゅうなんだよ、たあに恨み持った女が武器持ってくんの」
「え!?」
「前の制服も女に燃やされたから無くなったし、あいつ女に関してすげえろくでなしだから。つーかあいつだけじゃなくて親父も最近変な女に嵌まってあんま帰ってこねーし、どうしてうちの男はみんな女癖最悪なんだよ、もーヤダ」
一行に解決の兆しが見えない二人をもう見る事をなく諦め切った言い方で、黒やんはそう吐き捨てた。
なんか、家計が苦しい以上に苦労が多そうな状況じゃないだろうか、それ。
「えー黒やんも黒やんのお母さんも大変だね、それ・・」
「あー母ちゃんは愛想尽かして出てった。でも親父がいない時はたまに帰って来るし今もスゲー近くに住んでるから、よく分かんねーんだよ。うちの家庭。」
黒やん、あなたこそどの立場でも苦労してる人って、オレ今まで見た事ねーよ
オレは切実に、もう苦労に慣れ切って、対応すらスマートになってしまった黒やんが幸せになれますよーにと願う。
「ほら、坂本、お前も帰れよ。フミ君最近心配してっぞ。」
「分かった、じゃあケンの家に行く。」
「え!オレんち!?」
黒やんに帰るよう言われ、割と素直に返事をした坂本だったが、なぜか自分ちではなく当たり前にオレんちに帰ると言い出す。
全くこの男、オレが目の前にいるのにオレの了解もとらず
でもまあ、なかがわも今日寝る所無いし、どうせオレんちに泊まらすなら一人も二人も変わんねーか。
「まあ、いーや、黒やんは大丈夫?とばっちりくらわねー?」
「まあ、大丈夫だろ、二人だけにしといた方がこえーし。じゃあケン悪い、明日な。」
急なドタバタで、急ぎ足に黒川家を後にしたオレ達三人は、もうすっかり夜が更けた道をダラダラと歩いて高柳家に向かったのだった
「ケン、韓国の生産第一位は?」
「え・・メガネ?」
「ケンくん、それはヨン様だって」
もう、本当なんなんだこの会話は
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