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33ターゲットらしいV
数秒間、オレは坂本と目を合わせた。


坂本もじっと見つめるオレから顔を反さない。

無表情でオレを見る。



が、無表情はすぐ崩れた。


「・・・ふっ、ハハハハッ!!!ヤバイ!ダメ!ケンが泣く顔!!泣く顔してる!アハハハ!助けて!泣かれる!腹イターイ!」



バンバン床を叩きながら笑い死にそうな男を目の前に、オレは頭にハンマーを落とされたような衝撃を食らう。



誰か、こいつを黙らせて





【ターゲットらしいV】





オレは涙腺に聞いた。あなたは涙を流す気でしたか?

涙腺はオレに伝える、いいえそんな気全く。ケンさんは男ですよ。





「テメー!!いい加減にしろやー!!何でオレが泣くんだよ!オレは別に狙われてないっちゅーねん!!何でオレが泣かなきゃいけねーんだよ!コラア!」


「アハハハ!!しらねーよ!テメーが勝手に泣こうとしてたんだろーが!オラオラ!早く泣けよ!ホラホラ!泣け!泣けー!」




オレなりに、オレなりに真剣に問い掛けたのに


まともな返事を返さないどころか、泣き癖のレッテルを貼られ(泣いてないのに)


怒るオレに対してまで、爆笑しながら足蹴にしてくるという仕打ち。



なんなんだ、こいつは!!人の心が無いのか
本当に泣きたくなってくるよ!マジで泣いてやろうか坂本!



あまりに報われなさ過ぎる自分に一瞬そんな感情が宿ったが、そんな事をしてしまえばデビルの心を持つ坂本を余計喜ばすに違いないと悟りすぐに消去した。



もう、緊張感は奪われるやら、勇気は捩曲げられるやらで心の荒んだオレは横で呼吸困難になりそうな程笑いまくりながらオレに野次を飛ばす坂本を無視し一人でぐれる。



今は黒やんの途方に暮れたようにオレ達を見つめる目にも、弟の口は押さえてるけど思いっきり笑ってる目にもどっちにも反応する気になれねーよ



オレは純粋に問い掛ける者の心を折ると、どんなふうになるかを体全体でアピールするように一人部屋の隅に行き体育座りしてふて腐れた。




「はー、あー疲れた。ホラホラ!いつまでもジメってんなって!泣かないなら、坂本に背を向けない!ケン、こらこっち向け!」



何分くらいしつこく笑ってただろうか、しばらくすると笑いたいだけ笑い切った坂本がまだふて腐れ真っ只中のオレの方に寄ってくる

何をこいつはいけいけしゃあしゃあ
誰が二度と向くか!
オレはまだ怒ってるっつーんだよ



「ドント、タッチミー!!!オレの真心を無視する奴は半径1メートル以内に入ってくんな!噛むぞ!」



「はいはい!訳わかんねー事言ってないで早く火を貸す!!」




またもや、オレの威嚇を無視してさっきと反対側のポケットを探ってくる坂本に、今度はオレも力の限り抵抗する


つーか、ライターはポケットじゃねーんだよ!濡れたから脱いだブレザーの中だっつーのに!


もはや、黒川家だという事も忘れてドタバタと掴み合うオレ達



そんなオレ達の様子に、何か間違ってると気付いて中断する声を掛けてきてくれたのは、やっぱりこの場には一人しかいなかった。



「おい、いくつだお前ら。っていうかケン、仙山はもういーの?どうやったらここまで脱線出来んだよ」




いつの間にか坂本との取っ組み合い(ケン以外から見ればじゃれ)に夢中になっていたオレは黒やんの呆れた声で我に返った。


そうだった、泣くだと泣かないの話じゃなかったんだよ、そもそも。


いつの間にか、怒りに気をとられて本題を忘れてた。

仙山だよ、仙山。



というか、おかしいのはどう考えても坂本だ。この件について、未だ一度もこいつはコメントをしていない。

自分の事だというのに、自分のせいでそんな事になってるなんて申し訳ないとかいう気持ちはさらさら無いのは分かってるが


あまりにも無反応過ぎる、今までの話の間、こいつの頭の中は一体どうなってたというのだ。




「そう、そうだ、仙山だ・・・坂本!ストップ!!仙山だよ!なんでさっきからお前スルーしてんだよ、どーすんの?お前がなんか関係してるみたいよ、どう思ってんだよ」




オレは坂本と組み合った体制のまま止まり、オレのシャツを掴む坂本に問い掛けた。


いきなり、動きを止めて威嚇をやめたオレに坂本も引っ張る力を弱めて顔を見る。


さっきよりも更に近距離で向かい合った状態の今、坂本はようやくオレの言葉に対して何か考えるように上を向く


そして、しばらく黙って考えた後にまたオレの顔を見て、いつもと同じ口調で返事を返した。




「どうって、別にどーも思わない。特に無し」


「は?」



坂本の答えを待っていたオレは予想外の返事に、思わず間抜けな声を出してしまった。


特に無し、って、あの話を聞いて特に無しっておかしいだろ。


オレは坂本なら、自分の事で好き勝手されてる状態とか自分を舐めてるような仙山に怒るのかと思っていたのに



「お前ムカつかねーの?それか自分の身が心配だとかは?」



「別に。つーかそいつらが何してーのかよく分かんねえし。オレ坂本に幻想抱いてる奴は相手にしない事にしてるから」



本当に微塵の関心も示さない様子で、坂本はそう言い切る。

坂本に幻想を抱いてる?それはどういう意味なのか。

なんだか気の抜けたオレは少し沸点から下がった頭でそれを考えていた




「あー、この温度差が面倒なんだよ、向こうはオレんとこまでどーでもいい坂本の情報集めに来てんのに」


ポカンとしたオレと飄々とした坂本。
そんなオレ達のやりとりを聞いていた黒やんはハアと溜め息をついて呟く


黒やんは大方坂本の反応を予想してたのか、これから起こるかもしれない面倒事に自分が巻き添えなるのだろうかと遠い目をしていた



「ま、これも赤高がオレのもんになったっていう証拠じゃん。勝手に空回わせとけよ、黒やんデマ流しとけおもしれーからアハハ!」

「っとに、向こうはなんか知らねえけどオレにはバレねーようにやたら遠回しに聞いてくっからうかつな事出来ねーつーの!本当マジで痛い目合うかもよお前」


キレつつも、若干は心配混じりな黒やんの助言にも全く耳を貸さない坂本。

こいつだって分かってるはずだろ、仙山だっておかしい連中の集まりなんだから、何してくるかわかんねーって事くらい

この余裕は一体何だというのだ。



「坂本、お前が相手にしなくてもマジで仙山がお前んとこ来たらどーすんの?勝てる?」



オレはこの時、まだ微かな期待を持っていたのかも知れない。

もしかすると、坂本ほどおかしい男なら、マンガみたいにいざとなったら仙山に対抗出来る技を持っているんじゃないかと


ほとんど、現実逃避だけど


「黒やん、今何人くらい仙山、オレで盛り上ってんの?」



「知らねーよ、でも上の奴は全員みたいだから20、30は余裕だろ」



「あ、じゃ無理だわ」




当たり前に即答する坂本に、オレは氷結したまま、微かな期待が風に吹き飛ばされていくのを感じた。



「オレ、アジトみたいに血まみれになっても喜べないし。ケン!いざとなったら中国にでも逃げっか!人おーいから探すの大変でしょ、アハハハ!」



「なんでオレまで逃げなきゃなんねーんだよっ!!つーかそれならお前もっと焦ろよ!意味わかんねー!!」


「あ、つーかアジト、お前今日の事仙山に口止めとかされなかったわけ?フツーに言ってるけど」



坂本がなかがわの名前を出した事で、黒やんは仙山に言われた事を当たり前に報告して来たなかがわに気付き、終始寝そべりながら話を聞いていた奴に尋ねる。

確かに、向こうからすればわざわざなかがわを捕まえて聞き出してる事をその日のうちに坂本本人にバラされてるなんてちよっと間抜けだよな



「あ、うん。絶対に坂本くんと黒やんには言うなって言われた。だから、言ったらどーなんのかなーと思って」


黒やんの問いに寝そべったまま半笑いで返すなかがわ。

なんで、こいつはいつでも迷わずタブーを選ぶんだよ

「え、お前大丈夫なの?」


「言ったら仙山全員でお前ぶっ殺しに来るって言われちゃった。アハハ、オレぶっ殺されちゃうねー」




オレの不安な問い掛けにも、ヘラヘラとしながら淡々と返すなかがわに


オレはこいつも坂本も余裕があるとか秘策があるとかじゃなくて、ただ本っ当に何も考えてないんだという事をようやく悟り、絶望の明日に一歩近付いたような気がした


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