32ターゲットらしいU
黒やんが言ったと同時、オレは表情を確認するかのように、坂本の顔を見た。
相変わらず、表情の読めない男、坂本。
自分に対しての不吉な言葉にも、顔の筋肉を動かす事は無く、色素の薄い瞳も、いつも通り光を反射させてるだけ。
そんな坂本と対極に、なぜかオレは落ち着かない心持ち。
まるで、架空の人物の話を聞くように人づてに坂本の噂を聞いていた中学の頃なら
坂本明男に何が起こったと聞いても違う世界の話みたいに噂として楽しんでいただろう
あの頃なら
【ターゲットらしいU】
オレは坂本が黙っている間ずっと坂本の事を無意識に凝視していたようで
坂本に怪訝な視線を返されたときにやっと自分の行動に気が付いたのだった。
よく見れば、なかがわと黒川弟は二人共、異常なほど坂本をガン見するオレの方を向いており、坂本に視線を集中させているのはオレだけ。
なんだかオレだけ間違い探しの間違えてる部分みたいで恥ずかしいんだけど!
オレは慌てて視線を坂本から外し座り方を変えるなど適当に動いてごまかす。
オレのせいで一瞬変な風に変わってしまった空気だったが、話を変える程引きずるものでも無く、オレが目を反らせばみんなの視線も外され、坂本も呑気に欠伸をしていた。
「ケン、火。」
坂本は黒やんへの返事もおざなりのまま、タバコを口にくわえオレのポッケットをまさぐりライターを探し始める。
ああもうライターはズボンのポケットじゃなくてブレザーのポケットだからそこには無いのに、本当この男はいつも勝手に
つーか、最近坂本オレのばっか使いやがってライターくらい100円だろ、今小金持ちのくせに買えよ、そんくらい・・・
って違う!!
「ねえ!今の話終わったのかよ!つーかみんな、なんか分かってんの?わかんないのオレだけ?!坂本何に狙われてんだよ!オレだけー!?オレだけわかってないの!?」
オレはライターを盗もうとする坂本も振り切り、身振り手ぶりで自分の動揺をみんなにアピールした。
そんなオレを黒やんだけは分かってくれてたみたいで苦笑いを返してくれる。
なかがわはパチパチと瞬きをしながポカンと見つめ、黒川弟はなぜか笑いを堪えながら下を向いている。
坂本に至っては、そんな事より振り払った事が問題だったらしくオレを押さえながら更にしつこくポケットに手を突っ込んできた。
様々な反応はどれもイマイチ不満で益々ムカムカしてくる。
なんだ、みんなして、せめてなんか言えよ!一人でも!
一行に纏まらない場の雰囲気に、オレの焦りは募っていく。
なんだかよく分からないけど、不安で堪らないんだよ
「だからな、ケン、坂本は仙山に狙われてんだよ。前言ったじゃん。仙山の友達がやたら坂本について聞いてくるって」
そんなオレの様子に気付き、いち早く返事を返してくれたのはやっぱり黒やんだった。
「仙山に・・」
オレは黒やんの言葉で、前に黒やんとベンチで話した事を思い出す。
あの時は、適当にしか聞いてなくて今日の今日まで思い出しもしなかった。
だって坂本は中学の頃から敵だらけで名前や噂だけでここらの血の気が多い奴らを騒がせてきた存在。
それでも今だかつて坂本が誰かにやられたという話を聞いた事は無く、オレも漠然と坂本は誰にも負けないもんだと思っていた。
だけど、仙山ってどうなんだ。個人単位の話じゃない。
黒やんの話を聞いた始めは仙山の誰かと坂本が揉めてるのかと思いきや、仙山高校の奴ら全体で坂本を狙ってるってのか
オレだって知ってる、仙山の集団意識の過剰さ。
オレの不安はどんどんスピードを上げて胸は嫌な感覚に支配されていった
「怪しいとは思ってたんだよ、でもいくら仙山でも坂本一匹にそんな面倒な事はしねーだろと思ってたんだけどな、ちょっと今回は事情が違うみたいで」
「何?事情って?」
「最初は、仙山も下の奴から締めて、坂本を潰す気だったみたいだけど、なんか今年の赤高一年はやたら調子乗ってる奴多いみたいで坂本を盾に最初はそこから揉め始めたっぽい」
坂本を盾に仙山と赤高が揉めてる?
オレは坂本と一緒に居ても一度だってそんな話を聞いた事が無かったので、黒やんの話がよく理解出来ない。
相槌も打てず、困惑したオレの表情を見た黒やんはそのまま続きを話し始めた
「オレも最初は馬鹿みてーな内輪揉めだと思ってたんだけど、仙山と関係ないアジトにも手え出してんじゃん、そんでカッパT買った奴全部洗え、だろ。なんか根こそぎやるみてーよ仙山は」
「マジで・・?」
なんだ、その話、坂本関係あんのか?無いのか?
オレは横目で坂本を見る、自分の話をされてるとは思えない白けた表情。
坂本はこの話を聞いてどう思っているのか、オレは坂本の感想が気になる
怒らないのか、焦らないのか、いくら坂本でも
オレは何も言わないでぽけっとしている坂本に段々苛立ちに似た感情が沸き始めた。
「ねえ、坂本!どうするよ!」
オレ、心配だよ
言いかけた続きは心の奥で鐘の音みたいに響く。
言ってしまおうとした自分を見送った後、なぜか心臓信じられないほど早く、焦りる心と似たような感情がそこに加わり、 どうしてか痛くて仕方ない。
なんだよ、坂本がなんなのかも、自分がなんなのかも、もうよくわかんないよ。
ただ、もう今のオレにとって坂本は中央中の坂本明男じゃない
ろくでもない事ばっかやって、自分勝手でわがままだけど
子供みたいな笑い方をする、さかもとなのだ。
そんな言い訳のような事を自分に言い聞かせながら
オレは坂本が口を開くまで、今度は意地になって目を反らさずに坂本を見続けた。
[前へ][次へ]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!