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31ターゲットらしい
黒やんの家に転がり込んでしばらく、なかがわとオレは弟にタオルをもらいガシガシと拭いていた。


特にオレ、雨に混ざったホコリやらの有害物質をこさぐように力強く。



オレが顔を拭いた後、湿った前髪をかきあげた瞬間、あぐらをかいてテレビを見ていた黒川弟がテレビから顔を反らしじっとオレの方を見てくる



なにかしら、顔にタオルの繊維でもついてんのか

黒川弟のルックスからして負けそうなオレは、大人しく停止したまま顔を見せてやった。



「れな・・?」



呟かれたのは、オレがよく知る妹の名前。




【ターゲットらしい】




妹のレナはよく前髪を上げていて、オレも前髪を上げれば似た兄妹だとたまに言われる。


れなっつーのは、やっぱレナの事だろーな。


黒川弟はレナと知り合いなのだろうか。



「れなって、高柳れなの事?仙山一年の。オレれなの兄だけど」



「マジで?やっぱどことなく似てると思った。オレも仙山一年なんだわ、れなのダチ。」



オレがレナの兄だと知った弟は、へーと感心したように頷きながらオレの顔をまじまじと見始めた。


意外な所で繋がってんな。狭い世間よ。



「すげー、れなが居るみてーウケる。れなおもしれーよな、女のくせに芸人並にツッコミ激しーし。仙山の中で三番目にヤリたい女なんだよねーオレ的に。」



「はい!!?」



友達の兄を発見して喜んでいた弟を、ナリはあれだけどなんだかんだ言ってやっぱ年下だな〜と微笑ましく眺めていたオレだったが、最後の言葉でまったく別方向のリアクションに様変わりしてしまった。



「まあ、レナに気が向いたら今度ヤろうって言っといてや」



「言えるか!!」



このあんちゃん、確かに暴力的であほな妹だけどよく実の兄にそんな事言えんなー。

しかも三番目かよ、そんな事レナに言った日にはオレに明日は無いっつーの


オレは黒川弟の言った事を聞かなかった事にして、レナには死んでも伝えないと誓う。



そんなやりとりをして時間を潰していると、ガチャガチャと玄関のドアノブを回す音が聞こえてきて、オレはそちらに目をやった。




「おい、なんだーこの靴?誰か来てんのか・・って、ケン、アジト?何この組み合わせ?」



それは予想通り、バイトを終えて帰宅したオレの頼みの綱の黒川兄、黒やんである。


黒やんは何故か自分ちでくつろいでいるオレらに不思議そうな眼差しを向けて珍しい組み合わせの理由について尋ねてきた。



「あは、黒やーんお邪魔してま〜す・・」


「あ、坂本君も来てっよ。なぜか全身石灰まみれで。」



石灰とは、もちろん運動場にラインなどを引く時に使うあの白い粉である。


オレ達より数十分前に来たらしい坂本はそんな姿で他人の家に我がもの顔で上がり込み、現在勝手に風呂を使っている。



「はー、風呂つっこんどけ、そんな奴。」


「もう、行ってるよ。つーか来てストレートに風呂行ったからオレもあんま喋ってねーわ。」



「あっそ!!!」

↑(自分で風呂に入れろと言ったが、言う前に勝手に入ってると分かったらなんかムカつく黒やん)



帰って来たばかりなのに相変わらず気苦労の堪えない黒やんに、オレは心の中でごめんなさいと連発した。

頬に張り付く髪を適当に結んで着替え始める黒やん。

やっぱり雨はまだふってる様子。黒やんも少し濡れたらしい。


多少体に残った水分をタオルで拭き終えて、着替えの済んだ黒やんの横で突然風呂場の扉が開き、背を向けていた黒やんに何かが張り付いた。



「黒やん、タオル」


そう、ずぶ濡れの頭のまま、下のスウェットだけ履いて上半身裸の坂本。

ちなみに上半身の水気の拭き取りも微妙。




自分の後ろに居る物が坂本だと確認した瞬間、少し殺意の篭った目になった黒やんは坂本のみぞおちに肘を入れて、無言でタオルを放り投げた。


坂本も自分のみぞおちを摩りながらも、無言でタオルを受けとりガシガシと頭を拭く。


ああ、多分これがいつものやりとりなんだろうな、とオレはひそかに思った。



「ケン、今日道でウサギが500円で売ってたよ、買ってやろーか」


「え、ウサギィ?う〜・・ん?ウサギねえ」



坂本が前に約束した500円以内で何か買ってやるという話。


頭を拭きながらオレの横に座ってきた坂本は思い出したように言ってきた。


そういえば、まだ決めてなかったオレ。


確かに500円のウサギは格安かもしれないけど、安さに騙されてウサギなんか買ってもどーすればいいんだ。


家にいきなりオレがウサギなんか連れて帰ったら学校に友達がいないと思われるかもしれないじゃん。




全員が集合して、オレと坂本は馬鹿みたいな話。

服を濡らされた黒やんは再び違うのに着替え始め


黒川弟はあくびをしながらテレビを見ている


なかがわは特になにも喋らず、仰向け。


黒やんちに来てから、一番口数の少なかったなかがわはぼーっとしているのか何か考えてるのか分からない表情だったが


突然、あ、と思いついたように呟き体勢を起こした。


「黒やん、なんか今日仙山って高校の人達に、坂本くんからTシャツ買ったやつ全部洗えって言われた。」

いつものように、淡々とした口調で黒やんに話すなかがわ。


オレはそれを聞いてもあまりピンと来るものはなかったが、黒やんはすぐに反応し苦そうな顔でなかがわに返した。


「マジ?で、言っちゃった?お前。」



「うん。言わないとオレがこの辺のジャンキーに葉っぱ売りさばいてるって事ポリスにばらすって言われたから。一年で買った奴の金集めたのオレだから大体覚えてたし。」



ぶっ飛んでんのに記憶力はいーのな、なかがわ。


危な気な話にそんな事を思いながらオレは耳を傾ける。


赤紙を突き付けられたような顔でヤケ気味に笑うの黒やんが心配でならない。


そんな黒やんは纏めた頭を少しくしゃくしゃとかき、ため息をつきながら坂本の方を向いた。




「坂本、お前狙われてんぞ。」




オレはその言葉に、ぽかんとしつつも少し変わった黒やんの空気を感じる。



狙われてる?坂本が?


何に?

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