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21オレってなんなのさ
高校二年に進級して始まった新しい生活。


まだ初日だというのに、その日オレは疲れ果てて帰宅した。身も心も。


玄関に入り靴を脱いでから、しばらくその場でぐったりしていると通りかかった妹がそんなオレに声をかけてきたのだった。



「遅かったじゃん。どっか行ってたの?」


「うーん、別に・・コンビニとか」


「ふ〜ん」



特に興味もなさそうに通り過ぎようとする妹
オレは思わず腕をつかんで涙目で叫んだ


「何!?その反応?オレってつまんない?」


「はあっ?何?気持ち悪いんだけど?!」


オレだってそー思ってるわ



【オレってなんなのさ】




オレは妹に力強く腕を払われて、またその場でぐったりし始めた。

今日という強烈な一日はオレの中に様々な問題をただ与え通り過ぎていってしまったけど、最終的に今オレの頭の中を占めてるのはコレだった。



オレって坂本の中でどんな位置にいる人間なんだ。




今日、オレは結局、那賀川亜治斗を殴らずに済んだ。

なぜかというと、彼と二年振り再会した坂本明男がオレがこの状況を説明する前に、勝手にぶん殴ってくれたからだ。



あの後、場の空気は奇妙な方向に変わった。



「うわー本物・・」



坂本は那賀川を一発殴った後、そう、訳の解らない言葉を呟いた。

オレに至っては完全静止状態であまりにも理解難しいこの状況に目眩がして、無我夢中で現実逃避に励んでいた。



「オレ今家なくてさ〜、金はあるんだけど、ほら身分証明無いじゃん」


「っておい!アンタ!痛くねえのかよ!」



坂本に殴られ唇から大量に血が流れてるにも関わらず坂本へのリアクションすらせずに近況報告をしだした那賀川に、オレは思わず突っ込んでしまった。



「え?すげー痛いね、ほら血ダラダラだし」


それに対し唇を手で拭いながら手の平を血まみれにし、笑顔で答える那賀川


痛いなら痛いらしい反応をしろ。そう思ったけどこういう普通の意見はこの場じゃ無意味な気がして、そっと心の中にしまった。



「てか、坂本。なんで殴るんだよ」



二年振りに再会した後輩に対して、こっちもおかしい。おかしい二人に挟まれたオレはせかせか二人を地道に突っ込んでいくしかなかった。



「怪しいから本物かどうか確認しようと思って。本物なら殴っても怒らない。変態だから。本物だったわ、あはは。」


疑いが晴れ清々しい顔で坂本はそう言った。

殴っても怒らないどころか、さっきまでサギに引っ掛かり殴る事を強要されてたオレはその事実を信用せざるをえなかった。


「でも怪しいって、怪しいけど、姿が一緒なら怪しむなよ。二年振りの再会を」


「だってこいつ嘘の固まりのよーな存在よ。な、身無し子ハッチ。」




そんな冷たいセリフとちぐはぐな、とても嬉しそうな表情で坂本は那賀川を見た。

同じように那賀川も、坂本を強く見つめて、さっきまでの淡々とした様子とは違う、悪ガキのごとくいたずらに笑い返した。



「身無し子どころか、今だに国籍も本名も血液型すら分かんないですから」



舌を出して、当たり前のように軽い口調で目の前の男はそう言い、笑い転げた。
ジョークなのかな。なんなのかな。

もう、どうリアクションすればいいか分かんねーよ。
つーか意味がわかんねーよ。何一つ。



「どーゆう事」


「そーゆう事。」


そうゆう事、坂本が呟いたその言葉の中に平和なこっちの世界には決して触れることの無い、ショッキングな事が沢山詰まっている、とオレは何と無く感じた。


そして、この二人の間にも、オレの知らない、特別なものが繋がっているのだろうと直感で分かる。



今目の前に居るこの男、坂本明男がこんなふうに出来上がってるわけだ、こいつの歴史にどんな人間が関わっていたっておかしいはずがない。



面白いもんが好きなんだ、こんなふうに、いろんなもんに心奪われて生きてきたんだろ。



オレなんて何もねーよ。
お前の周りからすればオレなんて空気のようなもんじゃないのか。



今まで、過ごしてきたけど、坂本はオレをどんなもんとして見てるんだ。


黒やんと仲良くなってなければ、坂本と繋がる事もなかったオレ。


自分で分かるんだよ、オレは坂本を楽しませるようなもんを何も持ってないんだよ。



つまんなくない、オレ。




気がつけば、帰宅して靴を脱いでから一時間も玄関に座っていたオレ。


何やってんだか、一時間も何もしないでボーツと考え込むなんて、つまんないし、暗いだろ。


やっとそう自覚し、ノロノロと玄関から立ち上がろうとしたオレの横を、さっきと同じようにまた妹が通り掛かった。


何家ん中うろうろしてんだ、こいつ
(↑こいつが一時間も玄関に居るからそう感じるだけで彼女はただ移動してるだけ)


「え、アンタまだそこに居たのかよ。つーか、赤高の今年一年の坂井俊彦くんって知ってる!?知ってるなら紹介して!超カッコイイの」



「え、お前もヒコボー好きなの?やっぱヒコボーっておもしろい?オレつまんない!?」



「さっきから何だテメー!!つーかおもしれーじゃなくて、カッコイイっつてんだろーが!!」




さすがに妹も、同じ事の繰り返しにキレて、オレに蹴りを入れて去って行き、またオレは延長30分その場にうなだれた。

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