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20あいつは可愛い年下の男X
気がつけば、火を付けてもらったタバコは吸えず、ほとんど灰になって地面に落ちていた。


目の前の人物は端から見ればうっすら微笑んでいるように見えるかも知れないが、さっきのキテレツな言葉を聞いたオレからすれば危険な物に見えてならない。


「ガツーンと力抜かないで一発お願いしますね。たまーに日常にこういう刺激欲しくなるよねー」



こいつ、坂本とはまた違った意味で、恐すぎる





【あいつは可愛い年下の男W】




オレは今絶対絶滅のピンチに陥ってる、気がする。

なぜなら、これから見ず知らずの人間を本気で殴らなければいけないかも知れないから。


え?逆じゃないかって?

いや、間違いなく、最初ので正しい。
オレも知らなかったが、人にいきなり殴られるのも怖いけど、人にいきなり殴れと言われるのも同じくらい怖い。

精神的ダメージだ。



「あの、確認しときたいんだけど、これってSMプレイ的な何か?」



もし、そーなら本物のSな人にお願いしたほうが、お互い気がねなくできるんじゃ、と思い、オレはキラキラした瞳でオレの拳を待つ彼に恐る恐る尋ねた。




「いや、ただオレはなんか急に誰かに殴られてーって思っただけだけど。天気もいいし。」



あーやっぱり、詳しい部分に突っ込むじゃなかった。
余計に意味が分からねえ。つーかもはや世にも奇妙な世界に迷い込んでしまった気分。

今の会話の時間で、ここから逃げる作戦でも考えればよかった。本当、今日のオレは全く頭が回らないよ。


オレが躊躇している一秒一秒がとてつもなく長く感じる。
せめて、誰かやってきてくれれば、誰か居たらまだ心強いのに!


オレは心の中、半泣きで祈った。お願いです。誰でもいいです。出来れば普通の感覚を持ってる人がいいです。


こんなに神頼みをしたのは生まれて初めてだったからか、オレの願いは半分だけ通じ、オレのケータイがポケットの中でガタガタと振るえ始めた。


オレは、一度きりのチャンス!と思い誰からかも確認せずに急いで通話ボタンを押し電話の向こうの人物に助けを求めた。



「もしもし!」



「あ、ケンお前何やってんの?」



オレは電話の人物が誰か分かったとたん、ドキッとして一瞬黙ってしまった。


さっきのさっきだから、一応落ち込んでたんだよ、オレ

でも今はそんな事言ってる場合じゃない

「おい!ケン!シカトすんな!」



「あ!わり!ちょっとすごいもん発見したから今すぐ焼却炉んとこ来て」


坂本がタダじゃ素直に来ない事を分かっているオレは、ちょっと興奮した演技をして坂本に来てもらおうと必死になった。



「はい?何、すごいって。」


「いや、なんていうのかな、ちょっと口じゃ説明出来ないわ。オレバカだから!」


オレは我ながらナイス紛らわし!と自分を褒め、電話の相手が坂本で無茶苦茶ラッキーだったかもしれないと思った。


なぜなら、奴は移動が早い



「おい、何やってんだ?」


「さすがに早過ぎだろ・・」



まだ電話を切っても居ないうちに坂本はやってきた。

まあ、話してる感じで、もうこっちに走って来てる雰囲気は分かってたけど。


喋りながら走っていたくせに息一つ乱れてない坂本を見て、やっぱりこいつもこいつで恐ろしい人間だと、オレは再確認した。


でも、なんか坂本の表情はちょっとおかしかった。

すごいもんを目をギラつかせて探すわけでもなく、オレのハッタリに気付いて不機嫌そうに目を細めるわけでもなく、ただ、オレ達二人を不思議そうな目で眺めている


一年の時の夏休み前日、赤舌ストアーで会ったとき一度だけ見た事のある、坂本のちょっとびっくりしている顔。



「何やってんのお前ら?」


坂本の驚きの色が混じった言葉、最後の部分にオレはピクと反応した。


え、お前らって事は。



「アジト、え、お前なんでここにいんだよ?」



目を真ん丸にして、オレの目の前に居る男を見つめる坂本。

たまに、どういう事?見たいな目でオレの方向く


いや、こっちが聞きたいわ。お前らこそ一体何なんだ。



「坂本くん!久しぶり。」


ヘラと手を上げて笑うこの男が、坂本の後輩である事と、坂本自身もこの男に会うのは中二の時突然姿を消して以来だと


ちょっと、びっくりじゃ済まないような事を知ったのはこの後すぐだった。

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