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16春なんです
高柳健、天下の馬鹿高校、赤部中央高校に入学して、もう一年がたちました。


中三の中場、かあちゃんは「ケンが、髪にケープもしないで学校に行くなんて!」と心配していた時期もありましたね。


あれから時はたち、元の調子のいい、釣銭をごまかすケンに戻りつつあるから安心して下さいお母様。



「かあちゃーん、ケープが無くなった!コンビニにダッシュしてくるから、お金ちょーだい!」


「てめー!ケープ使い過ぎなんだよ。」



ケン、今日から高校二年生です。




【春なんです】




「黒やあ〜ん!キミが居ないとオレ新しいクラスで引っ込み思案炸裂しそう。」


赤高は毎年クラス替えがある。一年間ほんとに穏やかで平和なクラスだった1-3(今更ですがオレは三組)とももうお別れだった。



この一年、何かとお世話になってきた黒やんにセンチメンタルな別れ話をしてるのに、黒やんはちっともこのモードに付き合ってくれない。



「ケン、そんな笑顔で言われても、ちっとも説得力無い。お前の心が読めるよ、面白くて面白く仕方無いんだろ、オレのクラス分け結果が。」



はい、すいません。ケン、16歳。まだ人生で引っ込み思案というものを経験した事がありません。
でも、黒やんと別れるのは本当に淋しーんだよ!うふふ。わりい、やっぱ堪えられない。



「うふふ、うははは!大丈夫!お隣りのクラスにはオレとらんが居るから!ピンチのときはセコム鳴らして!」



「もーいい!!」



そうです、オレは二年のクラス替えでらんと同じクラスになった。
赤高は一学年13クラスあるから中々、プレミアムな確率なのでオレとらんはワールドカップでゴールを決めた瞬間のよーにテンションを上げて騒いだ。

ここまでは、のほほんとした、楽しい話ですよね。


では、黒やんがさっきから不機嫌顔になって戻らない理由を時間を遡ってご説明しましょう。




それは、今年の元旦、オレは坂本らん黒やんと初詣に行ったのである。
この一年、本当にうんざりするほどこの三人と一緒に居る事が当たり前になったオレは、自然とこの幼なじみの関係性を身につけた。

らんの場合は


「あ!黒やん、またマフラーほどけた〜。巻いて欲し〜い」


「お前なんでさっきからそんなにマフラーほどけんだよ。つーかなんでほどける度にオレがまいてんだよ。」



黒やんは自分にツッコミつつも、もう長年らんの世話を焼いてきた背景が見えて、ごく当たり前のよーにらんのマフラーを巻き直す。


この世話を焼かれるものと焼くもの、どっちも体がもう当然になってて、見てるオレすら疑問を抱かなくなった。



そんで坂本の場合



「黒川食べまーす!!」



黒やんがらんのマフラーをほどけないようキツク巻き直した矢先、彼の頭にしし舞が噛み付いた。

こんな場面どっかで見た事あるよーな気がするけど、今回は本物のしし舞だ。
うわー、赤くてでけー!


「うわ、お前そんなんどっから持って来たわけ?」


しし舞を被っているが声でモロバレな坂本にオレは聞いた。

坂本は布から少しだけ、目を出しニッと笑っただけでなにも言わなかったが、後ろから「困ります〜!」と走ってくる神社の神主さんがいるので大体想像出来る。


そして、しし舞に頭をスッポリ噛み付れたまま、無言の黒やんがどんな顔をしているかなんて想像はとってめ絶やすかった。



「っっかもとォ!!!」



今年の黒やんも反撃のキレは絶好調。
この、怒らて怒られて、絶対怒られると分かってるのにしつこく絡み続けるものと、怒っても怒っても無駄だと分かってるのに、キレを鈍さず怒り続ける関係。


「永遠のライバルって感じですかね?」


「あはは!ライバルだってよお二人さ〜ん!」


「違う!!」


らんにはウケたが黒やんには怒られた。




そして、新年早々エネルギッシュな初詣も体験し、おさい銭を投げて帰ろうと向かった賽銭箱の前、黒やんが唐突にこんな事を呟いた。



「二年、絶対に絶対に絶対に死んでも死んでも、坂本と同じクラスになりませんよーに。」


黒やんは持っていた小銭を全部賽銭箱にぶち混んで坂本を横目で睨んだ。


坂本は自分の方に向けられたキッとした大きな目に、多分しめ繩に付いていたみかんの皮を折り曲げて汁を飛ばす。



「残念だったな、黒やん。今お前に、言った事があべこべになる呪いかけたから、ぜってー一緒のクラスになるよ」


その笑顔は邪悪で、邪悪で、そして愉快そうでなかった。



「アホか、現実は13分の1の確率だろ。願うまでもなくオレの勝ちよ。」


13分の1の確率に強気な黒やんは余裕の表情で坂本を楽しそうに小ばかにした。


「いや、なるね。ぜーったいなるね!!オレがなるって言ってんだからなるに決まってんだろハッ!」


「ハッ!そーなの?楽しみ!楽しみ!」



楽しみといいつつも、受験生でもないのに、絵馬まで書いて祈っていた黒やんに、残酷な四月のクラス分け発表の紙は、こう付きつけた。





「9番黒川大一・・・10番坂本明男・・黒川、坂本・・・しかも、出席番号連なってる・・」



「うちのクラスか行が少なくてよかったな〜だいいっちゃん!」



顔面蒼白の黒やんと有頂天で、小学校の頃のあだ名でからかう坂本。


さすがにオレらも、まさか本当に同じクラスになるとは思ってなかったので、とても堪える事が出来なかった。



「らん、ケン・・・うるさい」



「な、なんだよっ!せっかく我慢して声に出さずにっ、ふっ、笑って、んのに、ハッ」



「だ〜よ〜、気を使っゲホッ!」



「もう本当うるさい!もうしらん!」



それから、黒やんは冒頭のようにいつまでもご機嫌斜めなのであった。



「ケン坊!新入生にカッパT売り行くぞ!」


「まだ入学式終わってないっつーの!つか始まってもないし、新入生ぼちぼち登校してるぐらいだから!」

本当この坂本って男はどーなってんだと思った二年生の始まりである

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あきゅろす。
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