15オレんとここないかV
起きてから、すっかりアルバムを見るのに夢中になった坂本。
せっかく運よく明文さんが帰ってきたのに今はほぼシカトである。
しばらく一緒に見ていたら、中学の頃の卒業アルバムも見る!?といかにも見せたそうに言ってきたので、オレは坂本の部屋についていったのだ。
そこで、オレが目撃したもの、ケン、全てが繋がった瞬間だった。
「こーれーはっ!!!」
【オレんとここないかV】
ここで・・ここで、これを見つけるとは・・
想像もしていなかった。
疑いもしていなかった。
しかし納得だ。
それを見て、驚きの絶叫を上げたオレは、次の瞬間にさまざまな過去の記憶が頭の中に蘇ってうつる
「坂本はクレイジーな事とカッパにしか興味ないし・・」
これは黒やんと初めてベンチで出会ったときのセリフ
「なんでカッパがついてんだろうな〜」
これは、赤部ストアーで、出会った人と体操着予備について話したときだ。
「ついたとたんに、あきお君がこれ着ろってうるさいから〜」
赤高ナイトで体操着予備を着用していたらんのセリフ、ちくしょう、この時点でさとるべきだった。
「おばちゃん、カッパコーヒー二本」
きわめつけは先程の本人のセリフ、あ〜、このときは、二本も・・っていう感情の方が上回ってしまって
しかし、オレの推理はほぼ固まっている
恐る恐る、引き出しから卒業アルバムを探す坂本にオレは尋ねてみた。
「坂本ってクラス何組だっけ?」
「は〜?坂本のクラスぐらい常識だろ。七組だっつーの。」
ドンピシャ。オレの推理が正しければ(ケン、既にコナン気取り)オレが以前見た、恐怖のカッパクラス、七組と謎のカッパ侵略赤部ストアーの犯人は、この部屋を見る限り
「坂本!そのカーテンのカッパの洗濯挟み、窓際のカッパのぬいぐるみ(全12色)、CDケースも、ゴミ箱も、ハンガーも、総勢50はこの部屋にカッパがあるとみた!七組のカッパも坂本だろ!」
ここまでのカッパ好きが、赤高にうようよ居るわけが無い!
だってカッパだよ、流行りとか、そうゆうステージに居るような存在じや無い。
そんで、あんな事やっても納得がいくのは坂本くらいだ。
何で今まで気付かかったんだろう。
オレは坂本に向かってキッパリ言った瞬間、やっと気がつく。
だからって、それがどーしたという事と
また、坂本が無言でオレをガン見してるという事に。
しまった!坂本に無言でガン見されるのは苦手だ。
オレはドキドキしながら、テンションが上がって名探偵ぶっていた事に後悔した。
確かに、赤高で問題になってたわけじゃないし、オレからすればビックリするくらい、他の人達は気にしてない。
まさに、なんであれカッパがついてんだろうな〜。
程度だ。普通ちょっとは気になるべ!
やっぱり赤高は馬鹿だ。
でも、だからって聞いちゃダメだったのかな〜とオレは不安になった。
あれだけアルバム、アルバム、と言っていた坂本が探す手を止めている。
どーしようケン。
思わずギュッと目を閉じてしまった瞬間、意外な坂本の声がオレの耳に届いたのだ。
「え、ケンもカッパ派に入りたいの?」
驚く事に坂本の声は、ご機嫌そのものだった。
オレはまた耳慣れない単語を聞いて目を開けると、さっきまで部屋の角と角だったはずの坂本との距離が10センチに縮められている。
近い!
「しかも、相当なカパ野郎みたいじゃん、マ〜ジで〜。それなら特別にカッパ派Tシャツやるよ。」
オレは坂本の言ってる事の意味が分からず困惑した。
そんなオレの様子もどこ吹く風でクローゼットからガサガサ何かを取り出しはじめる坂本。
「これは黒、これは白、これは紺、これは期間限定のゼブラ。」
大きな紙袋をひっくり返して、新品のTシャツを次々と紹介していく。
ビニールから取り出して広げられるそれを見て、オレは疑わしい点に気付いた
「つーか、体操着予備じゃん。」
期間限定のゼブラは知らないけど、他のは赤部ストアーで高々と売られているじゃないか。
「なんだてめ〜、フツーは二千円で買わなきゃいけないのにあげるんだぞ。つべこべ言うんじゃないよ!」
なんだか会話が噛み合ってないような気がするけど、坂本の機嫌をそこねたら、起こる代償は計算しきれないので、オレは大人しく黒を貰う。
「ねえ、カッパ派って何?カッパ派って何すればいいの?」
オレはせめて、自分が所属してしまった謎の派については知っておきたくて、満足そうな顔の坂本に尋ねてみた。
「え、ケン、カッパ派知らないのかよ?さてはお前ただのカッパ好きか?」
そう言って坂本も、呆れ顔になってしまった。
微妙に、否定出来ない。確かにオレはあの日カッパを見て以来、何かとカッパが気になるようになってしまったのは本当。
同時に坂本という人間が気になってしまうのも。
オレの中でもやもやしていた二つがさっき同時に繋がって、その勢いであーゆう風に言ってしまったら、謎の派閥、カッパ派に入りたいと勘違いされてしまったのだ。
あー、結局オレが坂本に言いたかった事って。
「なんてゆーか、好きかは今んとこどっちとも言えないけど、オレ、カッパとか坂本が白井にしたよーな無茶苦茶な事見てると、精神持っていかれて嫌な事忘れるんだよね」
ストレートに言い過ぎたオレを坂本はまたじっと見る。本当にオレは遠回しな言い方ができない。口は災いの元。
数秒の沈黙に堪えた後、気まず気なオレに、坂本はニシャッと笑ってこう言った。
「やっぱ、お前カッパ派に入った方がいーよ。」
その笑顔は、いつもより、邪悪さが少し軽くなってるように見える。
「うん、このTシャツも欲しいかも。」
オレは、なんだか明日から夏休みだという事が惜しい気持ちになった。
明日も学校だったら、また面白い事があったかも知れない。
学校行くのが楽しみって、しばらく忘れてたよーな感覚。
「てゆーか、そのカッパ派って結局何すればいいの?」
入ったはいいが、やっぱり分からない。一体何なんだカッパ派って。
「簡単、簡単、坂本の為に一生懸命やればいいだけ。」
なんかお国の為に戦争に行ってきますみたいで怪しいな〜と思ったけど、オレは自分がカッパ派に入った事がなんとなく楽しかった。
その後、カッパ派というのは結構巨大なサークルである事を知り、赤高にすでに30人くらいカッパTを持っている人が居る事を知ったオレは本当に投げやりで高校生になったんだなー自分。
と言う事を思い知ったのであった。
ちなみに、坂本のオレの呼び方がケンケンからケンに変わっていたのに気付いたのはそれから二三日した夏休みの暇な午後を過ごしていた時やっとで、なんとなく照れた。
【高校一年偏終了】
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