13オレんとここないか
オレは自分の謎の現象にショックを受けて、その後放心状態で無言で坂本の横に座った。
坂本はおばちゃんに書いてもらったカッパコーヒーを飲みながらたまーにチラッとオレの方を横目で見てくる。
そして、二本目のカッパコーヒーを半分まで飲んだ後、ふーと息を吐いてこう言った。
「オレんちに来る?」
オレは何も考えずぼんやり頷いた。
これが坂本なりに気を使って遊びに誘ってくれたのだという事はずっと後になって気付く。
【オレんとここないか】
オレと坂本はその後、赤部ストアーでの憩いもぼちぼちに、他の生徒より先に学校を出た。
坂本は特に何を喋る訳でもなくサクサク歩いたので、オレも後ろをテキパキついて歩いた。
この無言は別に気まずい訳じゃなかった。むしろ落ち着く。天気がよくてなんかペットと散歩してるような気分だからかもしれない。
「あ、マックだ。」
ずっとサクサク歩いていた坂本が急にマックの前で立ち止まった。
オレも一緒に急ブレーキをする。
「買っていこう、ケンケン。」
「そーだね。」
坂本はオレの返事を聞く前に既にマックの中に入っていた。
坂本はメニューを二秒程見ると、0円スマイルの店員のお姉さんに、キッパリと言う。
「ハッピーセット下さい。」
「かしこまりました、セットに付いているスヌーピーフュギアはどれになさいますか?」
坂本は、無言でオマケの写真が乗ってる、プラスチックの板を見つめた。
坂本、ハッピーセットが欲しかったのか。
「スヌーピーとチャーリー選べないから二個下さい。」
坂本は、今までそれで通用してきてましたというように、当たり前にそんな事を言ってのける。
当然、お姉さんは困惑していたけど、坂本があまりにもいけいけしゃあしゃあとしていたので、どう対応していいのか分からない様子だった。
「少々お待ち下さい!」
追い詰められたお姉さんは、奥に店長を呼びに消えてしまった。
坂本そんなにオマケのフュギアが欲しかったのか。
「すみません、フュギアは一セットに一つしか付けられない事になっておりまして・・」
お姉さんが消えた後、現れたメガネの店長が、嫌な客に丁重に説明すると、嫌な客、坂本は意外にもうんうんと頷きながら話しを聞いていた。
「そーですか。じゃあ、キャンセルして下さい」
「え!」
店長もびっくりしていたが、声を出してしまったのはオレである。
「仕方ないから、ローソンに行こうケンケン。」
そう言って、またしてもオレの返事を聞く前に店の外に出て行ってしまった坂本。
店長に軽く会釈して、オレも続いてマックを後にしたのだった。
やっぱり変な男だな〜。二個貰えないならどっちも要らないんかい。
でも、坂本は特に不機嫌そうでもなく相変わらず元気にオレの前をサクサク歩き続けている。
その後、途中いくつものコンビニに寄り、40分程掛けて、坂本はようやく一件の家の前で立ち止まった。
「あ〜着いた着いた」
その家はフツーにキレイで新しそうであった。
イメージと合うのかはよく分からない。
つーかどんな家が坂本のイメージにピッタリかも分からない。
「ケンケン入っていーよ。」
オレがそんな事を思いながら、坂本の家を見上げていると、坂本は既に玄関の中に入ってオレを呼んでいた。
「おじゃましまーす」
許可を得たオレは不思議な感覚浸りながら、坂本家に足を踏み入れたのだった。
「あ〜誰もいねー。ケンケン残念だったな誰もいねーよ。」
「あ、そーなんだ。でも、誰か居たらなんかいい事あったの〜?」
坂本は家の中に入るなり、すぐ制服のシャツを脱ぎ捨てて、上半身裸になりシマウマ柄のソファーに寝そべってテレビを付けた。
「そーそ。兄ちゃんとかいたら、からかって遊べるから面白かったのによ〜」
「兄ちゃん居んの?」
「うん。坂本アキフミが一人居る。」
坂本はファーの黒いクッションを頭に持ってきながら、例の微妙に邪悪なニヤリとした笑い方で、そう教える。
「ねえ、ケンケンって本名なんてゆーの?」
そういえば、らんは坂本にオレを紹介するとき、ケンケンとしか言ってなかったわけで、改めて聞かれてオレが坂本の事を謎だと思う以上に、坂本だってオレの事謎に思ってるのかもしれないと気付いた
「高柳健で〜す。ってゆうかケンケンって、本当はあんまりみんな呼んでないわ。」
中学の頃も、手島くらいしか呼んでなかったし
今も手島とらんくらいしか呼ばないし
最近呼び慣れていたからオレはケンだったという事を今思い出した。
「あだ名のほ〜がなげー。そーか、ケンケンはケンか。高柳ケン・・」
そう、フニャフニャ言いながら、坂本は黙る。
見てみると、もう一つの白いレザーのクッションを顔に乗せて、坂本は眠っていた。
「寝んのかい!」
オレのツッコミは坂本に届かなず空気清浄機のきいたキレイなリビングで気持ちよさそーな坂本
そんな坂本を見てると、ついウトウトして初めて来た家にも関わらず、いつの間にかオレも眠りこけてしまっていたのだった。
どのくらい時間が経ったのか、誰かに揺すぶり起こされたときにオレは既にここが坂本家だという事も忘れてしまっていた。
「おーい、少年。」
「起きる、起きるって。うーん」
オレはかなりマイホーム気分で起こしてきた人物をあしらって、目を擦りながら体勢を起こした。
ボーっとした頭のまま、視界に映ったのはサングラスがオシャレな大人の男の人
オレは一気に目が覚めた。
「おはよ、君は誰君?」
「お邪魔してます・・」
ここは坂本家だと思い出した瞬間、冷たい〜い汗がオレの背中をつたう。
ちなみに、坂本は、さっきの状態からイチミリも変わっておらず、一切起きる気配はなかったのだった。
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