10デヴィルのエガオ
つまんない、そう言った坂本は嘘付きだ。
夢の中から覚醒したばかりなのにギラギラと楽しそうに目を輝かせている
オレはギリギリまで引き寄せられでこにでこをくっつけられた。
オレ達の間に落ちる陰はまるで秘密基地の中にでもいるような空間を作る
超至近距離でバチバチに目を合わせ坂本は呟いた
「で、それどの人」
オレは生まれて初めてマジモノの邪悪な笑みを知る。
【デヴィルのエガオ】
オレは固まってしまった。
恐い。自分が責められてるわけじゃないのに、食い殺されそう。
坂本は、黙りこくったオレにねえねえ言って肘で横っ腹を突いてくる。
らんはサイトウ!サイトウ!と適当な名前を言って一人で爆笑していた。
ここは笑う場面なのか、オレには分からない。
けど、この人達の名前が知れ渡っているわけはなんとなく分かった!
受け止めてもらえるか分からないけど、勇気を振り絞ってオレは坂本に聞いてみる。
「何で誰か知りたいの?」
とりあえず今オレの心の中の全て。
余計な事を喋ってる間にオレも階段から転がり落とされそうな気がしたから要点だけまとめた。
それを聞いた坂本は、当然だというかのようにハッと嫌〜な笑い方をして、究極の一言で全てを片付ける。
「坂本のルールを守るためじゃないですか」
出ました、また突っ込みたくないの出ました。
なんですか、坂本のルールって、と絶対聞きたくない。
「あはは、それ、坂本ルールのどれにあたんだっけ〜」
今だ、オレの恐怖感に気付いてくれないらんはペットボトルをシェイクしながら当たり前のよーに坂本ルールという単語を出してきた
「あ〜?だからお前坂本ルールメモッとけっていつも言うだろ」
「だって坂本ルール多過ぎ〜」
「ちゃんと覚えとけよ、坂本ルール、つまんない奴はお仕置きバージョン」
らんはぜってー今作った!と大ウケ
なんか恐いんだけど、にやりと笑う横顔に多分そのときヤケになってたせいもあり、認めたくないがオレも少しワクワクしてしまった。
正直、坂本明男が何をするのか見たくなってしまった。
ケン、初めて悪魔にそそのかされた日である。
「クラスはわかんね・・元、城中生、白井・・」
気付いたら、無意識に口から出ていた名前。
もちろん、それを坂本が聞き逃すはずは無かった。
午後9時前、一階のもう一つのカウンターで同じクラスの友達と居た白井は、ガール達が入ってくる時間が間近で最高潮の盛り上がりを見せていたその時、何者かに肩を叩かれた。
「白井ちゃん」
オレとらんは観葉植物の陰に隠れその様子を見ていた。
白井は明らかに「げ!坂本明男!なんで!」という文字が顔に書かれており、火を点けようとしていたタバコを思わず落としそうになっている。
つられて、オレもハラハラする。
「なんだよ・・」
数センチ身を引き恐る恐る尋ねる白井に対して、坂本は負けずじりじりと近寄り白井に呟く。
あの人話すときなんでいつもあんなに近いんだろう。
「取りあえずチェックです、なんか面白い事言って」
「は?何だよそれ」
「早く」
「何言ってんだよ、知る「ハイ、シュー!!」
その時、紛れもなく視界には黄緑。
オレは呼吸が止まるかと思った。
な、な何やってんだあの人!!!
「うわ、なんだコレ!何やってんだよ!」
白井は頭から垂れてきた黄緑で一体自分に何が起こったのか理解する。
「早く〜おもしろい事〜」
坂本は溢れんばかりの邪悪な笑顔で、更に白井ににじり寄った。
その手にはスプレー缶。カラーは黄緑。
「てめー!ぶっころ「シューっと」
何か言う度に、段々全身黄緑になっていく白井。
回りの人もア然としてこの自体にかなり引いている。
楽しんでいるのは坂本一人のみ。
「ねえ、さすがにあれはヤバくね!?らん君どーしよ!」
「うふふ、カッパみて〜」
もう一人、らんも楽しんでいた。
「やめろ!わかった聞け、アメリカンジョークだ、先日オレの息子が酷い風邪にかかったんだ、ワイフは医者に見せろと何度も「話が長い、シュー」
ありえねー、ありえねー、ありえねー、ヤバイあの人はマジでヤバイ!!
全然悪くないのに折れてる白井に対しても容赦無い。
何なんだあの人、それとも本当に白井に恨みでもあんのか。
どんどん元の姿を失っていく白井に、オレは さすがに止めなければ!と思った。
意を決して坂本に近付いたオレ
ざわめくヒトゴミをかき分け、心臓バクバクで、放心な白井と軽くなったスプレー缶を振る坂本の前に立つ。
「坂本・・」
オレが小さく呟くと、次の言葉を待たずに坂本はオレに気付き
まるで子供のような屈託無い笑顔でこう言った
「ケンケン、この人面白くなったろ」
まっ黄緑になった白井を指す坂本。
思わず白井に目をやれば、黄緑色であっけにとられた顔でオレ達を見ている姿は確かにポップだった。
よく見れば、ただ単にスプレーをかけただけじゃなくて所々、ハートや、星のような形が描かれている。
「あははは」
坂本は、まるで砂場で泥遊びをしていた子供のよーに笑う。
オレは、あまりにもその力の抜ける光景に思わず、あは、とつられて少しだけ笑ってしまったのだった。
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