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9絶望の果てにあの人
コンパ、新しい出会い、彼女、それはオレがあれ以来注意深く避けてきたもの。

集団責め、噂、上下関係、それはオレがあれ以来敏感になってしまったもの。


あの頃の青ケツチャラ男の高柳健は、今よりまだ、ちょ〜っと弱かったから。




【絶望の果てに、あの人】




それから、手島に電話を掛けてみたけど留守電になっていた。寝込んでいるのかもしれない。


オレはこれ以上無い程テンションがガタ落ちしていた。


「あ〜あ、オレ9時前に帰ろうかな」


周りは、出会いの少ない男子高の男子達、他の奴らは盛り上がってる中、ほの暗い顔で呟いたオレは明らかに空気を乱してしまったようだ。


「え〜、別にお見合いパーティーじゃねえんだぞ!来るのもチャラい女達だよ。ワンナイトラブもいーんじゃね〜」


いかつめの男がオレの肩をバシバシ叩いてつまんない奴という感じの目でオレを見てくる。
更に居づらくなってきたオレ、黒やん早く来てくれないかな〜。


「高柳ってさあ〜もう結構彼女居ないんだろ?」


話すにも疲れ、黙って水を飲む事で口を塞いでいたオレに、同じくしばらく黙っていた白井が、何か嫌な予感がする笑みでそう問い掛けてきた。


「そーだな。」


「それってやっぱマイちゃんの事があったから〜?」

マイちゃん、一時期オレの前では禁止ワードになった名前。


白井の目は明らかに面白がっている、オレは頭にカーッと血が登っていくのが分かった。

でも手は震えている。情けなー。


「仙山高の奴に聞いたけど、マイちゃんまだお前の事大好きらしいよ〜」



その言葉が我慢の限界であった。オレは零れるのもお構い無しに水が入った瓶をこれ以上無くらい激しくテーブルに置いて白井を睨んだ


「あのな!」


「え、何?何の話?」


オレが正に白井に食ってかかろうとする寸前、オレを正気に戻したのは訳が分からなそうに変な空気にヒビッている信一。


ああ、そうか。信一は噂を知らないんだ。

そう理解したら、なんだか心がくしゃくしゃに丸められたように苦しくなった。
オレの言い分を白井に怒鳴るにも、嫌な話をいっぱいしなくちゃ伝わらない。
そんなの勘弁して。

元城中生でも噂を知っているのは半々くらいだ。
数十分前、なにも知らずに昔の馬鹿話をしてくれた信一の事を思い出すと、恥ずかしながら泣きそうになった。


オレは最後の意地で、白井達が座ってたソファーを蹴りそこから立ち去った。


泣きは我慢したけど、この時のオレは明らかに顔が引き攣ってるのが分かって、嫌な顔してたんだろ〜な〜と思う。



その後オレは興奮状態でフロアーをドカドカ歩いた。
帰ろうとも思ったけど、このままの心情で、一人暗い道を歩けばオレオは頭がおかしくなるんじゃないかと思い、恐ろしくて思いとどまったのだ。


出来るだけ人の少ない所に居たい。

このままじゃ楽しそうに騒いでる知らない人にも苛々してしまうかも知れない。


途方に暮れて真上を見上げたオレは一カ所だけ妙に明るくて静かそうな、少し高いスペースに作られたカウンターが目に入る。


そこへ進むための階段が何故か輝きを放ってるように見えた。


ささくれたオレは思わずその階段をよろよろ登っていたのだ。



「あ」


そこは、とてもキレイでハワイアン風に飾られた場所。
何故か奇妙な事に他と比べて全然人が居ない。


そこに唯一居た人物を見て、オレは不思議と嫌な心の中のドロドロが水に流されていくような感触がした。

その人物はラムプリィ〜ズと言って自分のコーラのペットボトルにドバドバラムを入れてもらっている。


一人なのになんて楽しそうなんだ。


「おーい!らんくん!」


らんは口に突っ込んだペットボトルをかなり垂直に傾けた状態でオレに気付き、声が出せないからウインクして片手をブンブン振ってきた


「ヘーイ、ケンケン!黒やんが遅いせいで、もうダーツ一時間待ちになっちゃったよ〜」


「さすがダーツバー、ダーツ大人気だな〜。」


オレはさっきまでの荒んだ心が一気にのほほんと緩むのを感じた。


黒やんといい、この人達は幼なじみなだけあって空気が似ている。陽なんだ。


人の明るさってゆーのは喋りが上手いとか声が大きいとかテンションが高いとかじゃなくて本当はこういう所なんだろうと思った。


「なんか若干目が赤いけどハードコンタクトでも落とした〜?」

らんはオレをカウンターの隣の席に座らせてこう聞いてくる。

「コンタクトはバッチリなんだけど、さっき会った同中の奴に昔のつまんない事蒸し返されてさ〜思わず目が充血するほど見開いちゃたよ〜」


オレは言葉を濁しながら、若干震える手を隠し明るめに答えた。

既にいい感じならんは気付かずになぜか肩を組んできて、酷い目にあったな〜と揺れながら言った。


「つーかここ、めっちゃいい場所だね、なんで超人少ないの?」


「あきお君が5時くらいから一人占めしててさ〜、くる人くる人シャーって言いながら追っ払ってんの。最初はそれでもここで飲む強者もいたんだけど、あきお君がその人階段から転がり落としてからだあ〜れもいなくなっちゃったよ〜」

らんは笑っていたが、オレはなんて事してんだと思っていた。


しかも5時なんて始まる90分も前から。

そして、オレは気付く、じゃあ例のその人は。


「え、で、今坂本君は?」

「ほら、そこに」


らんはそう言ってカウンターの1番先の方を指さす。
体は角度で見え無いけど、カウンターテーブルに乗せられた頭が一つ


「トウモロコシの髭!?」

「アハハハ!ナァ〜イス!」

らんはオレがジョークを言ったと思い、バシバシ叩きながら爆笑していたけどオレは一瞬本気で間違えたのだ。


それはあの坂本明男が目の前にいるという事に動揺したからかもしれない。


本当の正体はあまりにも眩しいブロンド頭。


そのときだった、置物みたいだった頭がいきなり起き上がったのは

驚いたオレは無意識にヒッと言ってしまった。


「ら〜ん、お前ちゃ〜んと着てるじゃねーの」


いかにも寝起きの目が最初に捕らえたのはらんにもうすっかり馴染んだ噂のカッパT。


「カ〜パ野郎〜」

「イヤッハ〜」

坂本とらんはふにゃふにゃ寝ぼけと酔っ払いでハグし始めた。

初めて見た、坂本の顔、物凄く薄い色のビー玉みたいな目がまるでこの世の生き物じゃないように見える。

オレはこのとき多分かなり間抜けな顔で坂本を見ていたと思う。



「こちらケンケン、今同中の人につまんない話で無理矢理笑わせられようとして超最悪なんだって〜」


微妙にアレンジした話で坂本にオレを紹介する、らん。

その時初めてオレを見た坂本明男はスローにニシャーっと笑い、こう言った


「ケンケン」


「ウ、ウイ」


「それってちょ〜つまんねーね〜」


光った、牙のような坂本の犬歯が。

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あきゅろす。
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