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109ここで待ったがサンシャイン
週末、休日初日の土曜日早朝。
黒川民也は眠気と酔いが残る身体を抱えながら、まだ暗い夜道を歩き家路に着いていた。
金曜の夜は朝まで遊び、土曜日は一日中寝る。それが民也の決まったライフワークで、本日も朝走りに行く兄と入れ違いで床に着く予定だったのだが、自宅の扉を背に三角座りをしている人影に規則正しく乱れていた習慣が打ち壊される



「は、だれ?マユミ?ヒトミ?ミノリ?」



フードで頭部を覆われてるせいで顔を確認出来ず、民也は思い当たる名前を呼び声を掛けてみるが、相手に反応は無い。
自分に恨みを持った女でなければ、もしかして本物の変質者か、と念の為、拳に力を入れてみる民也。
しかし、民也の警戒に気が付いた相手が観念したようにフードから顔を出した瞬間、握り締められていた拳はあっという間に開かれた。


「は、はあ?何やってんのお前」


「星を見てた・・」


「もう出てねーし」


「夜明けを、見てた・・」


「なんでオレんちの前で」



今自宅前に居る事自体に違和感ありまくりで珍しく混乱した民也だったが、それでも冷静に突っこんでいく。
民也と目を合わせず、遠くを眺めながら呟く相手の顔は、どこか生気が抜けたように見えた。
勉強のし過ぎで頭がおかしくなったのか、いや元からちょっと頭おかしかったっけ、と民也は90%「眠い」で占められた脳の残りの10%位で考えていたら、いつの間にか相手、諸星千鶴が急接近してきていて、何故か民也の胸倉を掴んでいた。


「黒川!!!親愛と恋愛の違いって何なんだ!!?」


なんなんだよ!!と衿元を掴んだまま叫ぶ諸星に、お前がなんなんだ、と今度こそ混乱がピークに達して遂に民也は絶句する。
Tシャツが伸びる、本物の変質者の方がまし。
朝帰り直後には余りにもキツ過ぎるクエッションを投げかけられた民也は、とうせんぼされた自宅の扉を見つめながら、にーちゃん助けてーと心の中で祈っていた。



【ここで待ったがサンシャイン】



諸星が叫んだ直後、寝ていた隣人に怒鳴られて仕方なしに民也は異常な様子の諸星を自宅へ回収した。
室内に入れば諸星も若干正気を取り戻したようで大人しく民也と向かい合って座っている。

眠気は限界に達していた、がしかし、諸星が縋るような眼差しで何かを絶え間無くうったえてくるものだから、気が散って寝れない。

「何?お前変な宗教とかにはまってんの?何でターゲットオレ?」


「僕がそんなものに嵌まるわけないだろ、想像力が貧困な奴だ!」

「はあ?てめえ、奇っ怪な事言ってビビらせとけばオレがいつまでも下手に出てやると思ってんじゃねえぞ、10秒以内に奇行の理由説明出来なかったらお前のネタブログ作って仙山にばらまくわ仙山は暇で馬鹿だから余裕でカシギまで見にくるぞ」


「まて!分かった!あああちょっと待ってくれよもう!!」



両手の指でカウントダウンを始めた民也に諸星は焦ってバシバシ床を叩く。
なんでこいつは突いたらいちいち必要以上に取り乱すのだと呆れながらも、カウントを止めて諸星の口が開くのを民也は待った。


「昨日の夜、知り合いの家で夕飯を食べた後、泊まれって言われたんだよ、次の日は休みだからって」


「あん」


「僕は帰るって言ったんだけど、どうしてもポーカーがやりたいって言うから無理矢理引き止められて」


「あん」


「で、何でポーカーがやりたいかって、その理由も、僕がお前は本当に何にも出来ないんだな、って言ったからで。あいつ剥きになって、ポーカーなら強いから勝てるって言い出して」


「・・・あん」


「でも結局やってる途中に眠いって言い出して、寝ようとするから、寝るなら僕は帰るぞ、って言ったんだ。そしたら起きるから待ってて、ってトランプ持ったまま寝てるんだよあいつ、はは、おかしいだろ?」


「・・おいてめえいい加減にしろや」


「え?」


「おかしいだろ?じゃねえよ!!おかしいのはこの話だろ!結局何なんだよいつ終わんだよ!」



自宅前で待ち伏せされていた理由を尋ねたにも関わらず、どんどん理解不能に飛躍していく諸星の語りに民也はとうとうブチ切れる。そもそも、頻繁に出てくるあいつって誰なんだ、自分とのお喋りは自分の中だけでしろ、と叱咤する気力も残っていない民也はタバコに火を点けて苛立ちを抑えた。
眠気覚ましの一服も所詮気休めで、無意識に頭が垂れそうになる。

なんでオレがこんな目に、第一、こいつは朝っぱちから家に入れる程親しい間柄でもないはずである、と民也は今頃思う。
むしろ諸星の方が自分を嫌遠していた。そんな態度が面白く、度々絡んではいたものの、違う、こういう関係とは違う。



「もーいー・・どーでもいー・・オレ寝るからお前は気が済んだら勝手に帰れ」

「あ、待て、一つだけ」


「あ・・?」


「つまり、僕が言いたかったのは、お前は、坂井と、随分仲がいいよな」


「は?なんでヒコが出てくんの?また嫉妬?」


「違う違う!坂井自体がどうこうとかじゃなくて、つまり、言いたいのは!」


「んだよもうハッキリ言えや!」


「黒川は、坂井が隣で寝てても、普通に横で寝れるか?」



意を決したように振り絞ったような声にも関わらず、民也はまだ諸星が言ってる言葉の意味が分からなかった。
ヒコが隣で寝てたら何だっていうのだ。むしろ寝てようが起きてようがそんな事意識した事もない、と民也は瞬時に返す言葉が見つからなかった。しばし流れた沈黙の後、眉間に皺を寄せて怪訝な眼差しで諸星を睨む。


「暇だったら腹蹴って起こすけど、マジ何?本気意味わかんねー」


「ふ・・やっぱりお前みたいな野蛮人間には分からないよな・・僕が繊細過ぎた 」


「てめえ本当いちいち何なのかね・・言っとくけど、てめえは常識人じゃなくて、常識人に憧れる立派な非常識だかんな」


「はあ・・誰か僕の複雑な感情を分かってくれる人はいないのか」


「人んちの空間で自分の世界作ってんじゃねーよ!空気が澱む!!」


ヒコが、仲の良い友人が隣に寝てる場合、自分も普通に横で寝れるか。諸星が自分に問うたのは何の捻りも加えずに受けとめればおそらくこういう意味だ。
何故そんな事をわざわざ知りたがるのか、全く理解出来ないが、この質問を投げ掛けて来た瞬間だけ諸星の顔はようやく少しだけまともだったと民也は思う。
邪魔なプライドを少しだけ手放した、普通に苦悩する人間の顔が、一瞬だけかいま見えた。

その後は相変わらずな諸星にうんざりしつつも、一先ず本題が出てきたように感じた民也は目を擦り言葉を続ける。

「つうかさあ、さっき言ってたあれは何なの?しんあいがどーの、れんあいがどーのって、オレそっちのが聞きてーわ」


「ああ、うーん、あれはもういい・・」


「はあ?!」


「やっぱりお前とは価値観が違い過ぎる、今の話を少しも理解出来ないなら言っても多分無駄だ・・」


「あああ!今の話理解出来る奴がいるなら連れてこい今すぐここに!!もう分かった!昨日の夜からオレんちに来たまでの経緯をありのまま言え!先入観とかなしで全部吐け!ここまできたら苛つき過ぎてテメーが夢に出てきそうなんだよ!!」



10センチ以上タッパの違う民也に本気で詰め寄られ、諸星は一瞬息が止まる。
事実、民也は自他共に認める見かけ倒しの男だが、逆に言えば見た目だけの迫力は本当に凄い。
強者のオーラに圧倒され、ついに諸星の虚勢は剥がれ落ちる。
有無を言わさぬ民也の視線に諸星は追い込まれたように視線を落とした。
視界にはサラリと揺れる自分の前髪、その奥にはもう何も言わず無言で諸星の口が開くのを眺め続ける民也。
無意識の溜め息を一度だけ、それがスイッチだと諸星は自分でも分かった。
焦れったい態度で濁しつつも、本当は自分もずっと、本音をぶちまけたい気持ちがあった。



「はあ、黒川、お前は前から何の根拠も無いのに偉そうで、でかい態度で、そんなお前に馬鹿にされたような口を叩かれるのが僕は死ぬほど嫌いだっただろ」


「・・・お前ってさ、ひょっとしてオレに打ちのめされたくて来たわけ?いくらなんちゃって仙山のオレでもお前くらいなら張り付けに出来んぞ」


「や、まあ、聞いてくれ、前は嫌だった、それは絶対的に僕の方が正しいって自信があったからだ。けど、今回は、うん、この事を話せば僕はお前に馬鹿にされても仕方ないと思う」


「は?」


「この高飛車な僕が、ここまで言ってる程の話だ、だからお前もある程度の覚悟を持って聞け」


自分で自分の事高飛車って言ったよおい、と思わずそっちに気をとられつつも、急激に表情が変わった諸星に、民也も思わず雰囲気を合わせてしまう。
無言ながらも民也の肯定を感じ取った諸星は、昨夜から今朝までを思い返しゆっくりゆっくり、民也にありのままを話し始めた。


諸星が黒川家にやって来て二時間、始めまだ薄暗かった外はとっくに真昼と違わない程の日差しに照らされ、本日が快晴だという事を二人に伝える。

ベランダ側の外からは人の気配を感じさせる音が室内に漏れ、人々が活動させる時間になったのだと思わせられる。

これ以上無い程の爽やかな休日の朝、しかしそれと反して民也と諸星は息苦しい空間に胸やけを起こしそうになっていた。

諸星の話は長かった。昨夜から今朝まで数時間の話とは思えない程の長さだった。しかし内容が内容だけに細かい説明を挟まねばならない事も分かり民也は諸星を責めなかった。



「・・・結局、こういう事でいいのか。友達だと思ってる奴の部屋で雑魚寝してたら思いも寄らずにそいつの寝顔にムラムラしてしまって、寝れなくて、深夜に逃げ帰って、でもショックで家にも帰れなくて、たまたま帰り道にあったオレの家の前で待ち伏せしてた、と。」


「や!ムラムラとかじゃなくて、そういう俗な気持ちじゃなくてもっとこう!」

「うるせえてめえが往生際が悪くそういう事認めねえからここまで話が長くなんだよ!!もういいだろ、問題はそこじゃねーだろ!!」


「ああそうだよ!問題はそこじゃない!!問題は、問題は、そいつが男だっていう話だよ!あああああ!!もう!」



いくら感情が高ぶってるとはいえ、初めて来た大して仲良くもない元同級生の家でよくここまでエキサイト出来るな、と民也は一周回って感心する。

思いも寄らず知ってしまった優等生のスキャンダル。うまいネタだが遊びに使うにはいささかヘビー過ぎる。
いくら民也でも流石に諸星が哀れだった。けれどもそれは諸星の言ってる事が全て事実だった場合の話。

取り乱す諸星に対し民也が多少冷静を保っているのは、ひっかかる事があったからだった。



「ま、ちょっと落ち着けよ、たった一回魔がさして男の寝顔にムラついたとしても、オレはお前がそっち系に目覚めるとは思えねえ。だってお前、オレが言うのもなんだけど相当な女好きじゃん」


「本当に、お前にだけは言われたくないな」


「馬鹿オレは自分で認めてるだけマシだろ。オレですら男と女であそこまで態度変えねえわ、ある意味潔よ過ぎる」


「まあそうだ、僕も自分が同性愛者だと思ってるわけじゃない。それに心配なのは自分が同性愛者かどうかの事だけじゃないんだ」


「は?」


「初めてなんだよ、大事な男なんて」


大事な男、という妙に生々しいニュアンスに若干引いた民也だが、諸星にとってはそういう意味ではなかった。
リアクションに困っている民也に、諸星はようやく気付き言葉を増やす。



「今まで、男友達と深く付き合えた事が、僕にはない」


「だから?」


「だから、恋愛感情の意味で惹かれているなら大事に思えるのは当たり前の事だ、でも僕はそういうメリット抜きで大事だと思える関係を同性の友人と築けたと思ったんだ。」

「・・いや、オレもヒコと仲はいいけど、そこまで重く考えてねえよ」

「おかしいのか」


「は?」


「親愛の情だけで、相手を大事に思う事は、そんなにおかしい事なのか」


真面目な顔で問い掛けてくる諸星を見て、確かに言う通り、自分とは価値観が違い過ぎる、と民也は思うと同時、諸星の生き方に同情した。


心底堅苦しい頭を持ってる割には、機械的になれないで暑苦しい願望を抱いている。
きっとこの先も苦労するな、と分けられるものなら自分や自分の周りにいる者達のフランクさを分けてやりたいとすら民也は思う。



「何故か、よくわからないけどそいつが、その友人との時間が大事なんだ。けどそれが結局、惚れた弱みのせいだったなんて事になったら」

つらつらと語る諸星は苦悩する人間の顔、民也にとっては物珍しく、思わず無言で凝視する。



「そうなったら、台なしだ」



愛なんて、元々識別が難しいものである。迷うのが嫌ならばそんな感情は無視すればいいと民也は思うが、それが諸星に出来ない事もなんとなく分かって、何も言わずにいた。

おかしな話である、普通は特別に感じたらそれは恋愛だと思うはずなのに、惚れっぽく同性との友達付き合いが苦手な諸星にしてみれば、逆だ。

恋愛感情でなければようやく、完全無欠の特別。
めんどくさいが、諸星にとってはそうでないといけないらしい、民也は思わず苦笑いが零れた。



「なあなあ、あんま深く考えんな、ただ単に溜まってたから血迷っただけなんじゃねえの?童貞なんだし」

「なあ!!!?」


「あ、もしかしてもう童貞じゃねーの?なんだよつまんねえなおい」


「なな!何勝手な事言ってる!!勝手だ!勝手過ぎる!」


「あ!やっぱりまだ童貞?」

「うるさい違う!!」


「え?捨てたの?どっちなんだよてめえ」


「うるさい僕は童貞じゃない!純粋だ!」


「アハハハハー!童貞じゃなくて純粋って何なんだよ!」



いつの間にか貞操の話に様変わりしてしまっていたその時、玄関の方向で、帰宅を告げるドアの開く音がする。
くだらない話題で盛り上がっていた二人にはその音が届かず、横を素通りされるまでその存在には気付かなかった。




「アハハハハ・・あ?兄ちゃん、今までどこ行ってたん?」


帰宅時には既におらず、それから数時間ぶりにようやく戻って来た民也の兄、黒やんは声を掛けられ、洗顔を中断して顔を上げる。

突然無言で帰って来た黒やんの登場には諸星も驚き、大人しく黙って、姿勢を直した。



「走り行って、ついでにちょっと泳いで、ついでに郵便出してきて、ついでに家の更新してきて、ついでに・・」


「にーちゃん起きんの早過ぎだろ」


「オレは二度寝出来ねえんだよ、あ、つーかその人諸星くんじゃん、誰が来てんのかと思ったわ」


「何でにーちゃんがこいつの事知ってんだよ、もう全員いい加減にしろや」


目を擦りながらつらつらと呟く黒やんが、ようやく民也の隣に居る諸星の存在に気付き、声を掛ける。
樫木の件で接触し、顔見知りになった黒やんと諸星。
民也の兄と言えど、年上の黒やんには流石に諸星もかしこまり、礼儀正しく会釈を返した。



「お邪魔してます、早くからすみません・・」


「ああそっか、鳩中だっつってたか、最近アジトと会ってる?」


「え、ああ、はい・・まあ」

「ふーん、オレは全然見ねえんだよ、学年違うから会わないし、元気?」


「まあ、元気そうです」


「まあだよな、アジトだし、別にあんくらいあっても気にしねえか、そうかそうか」


「や、でも、本当に無事で良かったと思います。色々とお世話になりました。」


二人の間で交わされるのは、二人に唯一共通する夏休みに起こった出来事の話。何も知らない民也にはサッパリ意味不明で、益々怪訝な眼差しで二人を見つめる。
滴る雫を軽くタオルで拭き取った黒やんは、会話を続けながら、上の服だけを取り替え、パーカーを羽織った。
帰宅してからまだ一度も座っていない黒やんである。


「じゃ、オレ今からサーフィンしてくる」


「はあ?お前さっき海行って来たんだろ!」


「ボード持ってかなかったから、浸かっただけだったんだって」


「午前中だけで二回も海行ってんじゃねえよ兄ちゃん最近落ち着きねーなー・・何かあったの?」


「何かって、だ、や・・・・うるせーわ、いい波が来てんのいってきます」



帰宅して10分で再び出て行った兄を疑わしげに思いつつも見送り、民也はまた諸星に向き直る。
予想外に繋がりのあった兄と諸星。そして二人の会話に出て来た、聞き覚えのある名前。
記憶が正しければ、自分も見た事がある。
もし推理が正しければ、諸星の抱え込んだ悩みは意外に単純な形で決着がつくかもしれないと、民也は答え合わせを始めてみた。



「なあ、今言ってたアジトって那賀川アジトの事?」

「え、お前、知ってるのか?」


「まあなちょっとな、つーかさ、一個確認すんぞ」


「何?」


「今まで、話したその友人って奴、まさか那賀川の事じゃねえよな」


「・・・・」


「うはは!マジか!ビンゴかよ、アハハ!はー、はいはい、なんだ、それならお前もう何も悩む必要ねーよ」


突然言い当てたかと思えば笑い出す民也に、諸星は訳が分からず眉間に皺を寄せる。
自分の言いたい事がまるで分かっていない様子の諸星の肩を民也はポンポンと叩き、未だ含み笑いが治まらない表情で言った。


「男だっつーからビビったけど、なかがわ、あいつなら仕方ねえよ、気にすんな、忘れて友情を育め」


「な、いきなりなんだ!お前は何がいいたい?!」


「わかんねえ?あいつは確かに男ね、別に女には見えねえ、でもあいつの顔面は上手いこと男の欲望を擽るように出来てんだよ、童貞にはまだ分かんねえかもしれねーけど」


「は、はは?何言ってんだお前は・・」


「あ、悪い!童貞じゃなくて純粋だったな!アハハーもう笑わせないでー!」


「それじゃないだろ!ふざけるな!!」


「え、ふざけてねえよ。部屋暗かったんだろ、寝てたんだろ、ありえるありえる。恋愛とか親愛とかじゃなくて、ただ単にあいつの顔にお前の雄が反応しただけ。パンチラ見たのと一緒だって」


「これ以上・・・」


「あ?」


「これ以上お前とは話したくない・・・帰る!!!!!!」


「はあ?何キレてんの、おい!」


笑い飛ばす民也に対し、諸星は般若の形相と化す。
いきなりに弾丸でやって来たかと思えば、またもや青筋を立てながら急に家を飛び出す諸星。
去り際にダイニングテーブルを蹴り上げていく姿を、民也はぽかんとしたまま見送るだけだった。

愛情じゃないって立証してやったのに何が不満だったんだろう、と思いながら、人の居なくなった部屋でようやく民也は横になる。


「はー・・疲れた、マジでなんだあの童貞野郎・・童貞のくせにカマトト・・童貞のくせにカマトトでヒステリック・・最悪じゃんハハハー・・・」


壮絶な休日の朝を終えた民也は、この数時間を思い返しながらうとうと落ちていく瞼に今度は逆らわなかった。

結局、諸星は今後どうなることやら。どうなるにしても、自分の本心を真っ正面から受け止めなければこれからも余計な事に翻弄され続けるんだろうなと民也はほくそ笑む。

早朝の訪問は迷惑だったが、最近の中じゃ一番面白いネタだったかもしれないと、結果オーライで民也の機嫌はそう悪くなかった。


「・・・・・あ、いい事思いついたー」


そして諸星が、いくら取り乱していたとはいえ、民也に相談を持ち掛けるのは間違っていた、という事を本当の意味で思い知るのは、まだ先の話。

本日はまだ、序の口の朝の事であった。

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