5坂本明男という男V
らんと出会って数週間。らんは馬鹿だけどいい子だった。
らんは完璧に炭酸の抜けたコーラも全部飲むけどいい子だった。
我が道を行ってるけど、思ってたより悪い事はしていなかった。
噂なんていー加減。
まだ、そう考えていた時期だった。
【坂本明男という男V】
またしても放課後校内のその辺をうろついていたオレは、一年七組の前で異様な空気を察する。
なぜか、一年七組の後ろの壁には小学校の掲示物コーナーのように、何かが無数に貼ってあったのだ。
「うわ!何?気持ち悪!何?」
たまらず、オレは七組に侵入し、その無数の何かに近付いてしまった。
遠くから見れば無数の丸。
それが、少し近づけば、正体は明らかになった。
「な〜ぜ?!」
その集合体の正体は、牛乳瓶のフタ、そして更に近付いてみれば
「カッパ・・」
その牛乳瓶のフタには気色悪いことに、一個一個手書きのカッパのイラストが描かれている
「微、微妙に上手いし・・」
オレはしばらく釘付けになっていたが、段々といろんな事に気付き始めた。
「教壇にカッパのぬいぐるみ・・!」
「カーテンにカッパの洗濯挟み・・!」
オレはちょっと怖くなってきた。赤校は普通の馬鹿校だと思ってたのに、本当に危ない奴がいるのかもしれない。
「もうさっさと帰ろう」
オレは道草くったことを後悔して逃げるような足どりで家路についたのだった。
次の日は入道雲真っ盛りの夏らしい晴天で、昨日の恐ろしさもすっかり忘れ、オレはご機嫌に黒やんを赤部ストアーに誘ってみた。
「黒やん、赤部ストアーには蓮根のはさみ揚げもあるらしいから、買いに行こうよー」
黒やんは初めはにこやかにトークをしていたのに、赤部ストアーという単語が出てきたとたん、お得意の眉間皺を作って拒否をアピールしてきた。
「え〜、オレあんまり、赤部ストアーに近付きたくないんだよね・・」
「なんでだよ〜蓮根の挟み揚げサックサクらしいよ」
どう説得しても、イエスと言わない黒やんの頑なな理由が逆に物凄く気になる。
遠回し作戦も面倒臭いし思いつかないんで、オレはもやもやを晴らす為にストレートに聞いてみる事にした。
「どーしたんだよ、黒やん、なんでそんなに赤部ストアーに行きたくないんだよ!」
オレの熱い問い掛け。
こういうシュチュエーションに弱い黒やんは仕方なさそうに話しはじめた。
説明が難しい。そう前置きをして
「坂本が、坂本明男が赤部ストアーをカッパで乗っ取ろうとしてるから行くと絶対異常に絡まれるからめんどくさいんだ。」
確かに説明が難しそう。
このときのオレは、まだカッパというキーワードが昨日見たもんと、オレのこれからに大きく関わっていると全く気付きもしなかった。
「オレ蓮根の挟み揚げ買ってきてあげるわ。」
黒やんから銭を受け取り、オレは黒やんの説明を詳しく聞いて理解するより、一人でお使いに行く事を選んだのだった。
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