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4小松蘭太朗
一年の、初夏を迎えるころにはもうすっかり黒やんと、義兄弟のように仲良しになっていたオレ、健。


黒やんは、噂とは違い、優しくて、夢ミガチでしっかり者の良きフレンズだったのだ。


しかし、一つ、ちょーっとキレやすいっていうのだけは本当だったのである。




【小松蘭太朗】



とある蒸し暑い朝の教室での出来事だった。オレはチャカチャカと、黒やんから借りたMDをウォークマンで聞いていた。


「黒やんこのMDイッカス〜」


「だ〜ろ〜やっぱアバは最高だな」


額に汗を滲ませ、いつものようにうららかな時を過ごしていたオレらだったが、アバを改めて絶賛する黒やんに一本の電話がなり響いたのだ。

話しはここからである

「あ、電話だ。」


黒やんのシンプルなブルーのケータイが名前を表示したときに、彼は、微かな声で、げっと言った事をオレは知っている。



「もしもし、嫌に決まってるだろ!!!」


黒やんは電話にでて約3秒後、耳にヘッドフォンが挟まってるオレでさえ、キーンとなるような大きな声で、通話の相手を怒鳴りつけた。


「この馬鹿!この馬鹿!もう勝手にしろ!」


怒り噴出で、チンッと電話を切った黒やんは、いつもの不機嫌そうなマメシバ顔になっていた。

電話の盗み聞きは悪いけど、通話中の黒やんのセリフを全部聞いていたオレは(アバどころじゃねーよ)事の真相を黒やんに尋ねてみた。


「黒やん、一体どうしたんだよ、うららかな教室が一瞬静寂に包まれたぞ。」


オレの言葉を聞いて、唖然としたみんなを見回した黒やんは、申し訳恥ずかしそうに頭をワシャワシャしていた。


「今、らんからだったんだけど、朝寝坊しちゃったから車で迎えに来てなんて事を言いやがったんだよ」


「え、黒やん車持ってるの。」


「持ってるわけないだろ!あいつの言う車ってのはタクシーの事だ。」



オレらの中学時代、坂本ファミリーの小松蘭太朗君は超現代っ子という話が有名だった。
部屋のエアコンは消した事がなく、ケータイはポケットに入れたまま小指だけで打ち、どんなに学校に遅れようと毎朝、マックかスタバでアイスコーヒーをチューチューしないと気が済まないらしい。


「ケン、らんがどんなに駄々をこねようと甘さを見せて迎えに行ったらダメなんだよ。厳しくしないと直ぐに我が儘を言う。ケンも行っちゃだめだからな。」

行かね〜。つーか喋った事ねーし顔知らねー


黒やんがすっとんきょうな事を言い出したので、オレはまたアバ最高だな〜とアバに集中し始めた。



それから数時間が経過した午後1時、ちょうどお昼休みの時に彼はやってきた。

フワフワのピンクブラウンの頭はまさにスゥイートで今ドキ(でも実は天然パーマ)

英字新聞柄の紙袋からセサミべーグルをガサガサ取りだし、歩きながら食べる姿はお行儀は悪いけど、ニューヨーカーのようだった。

もちろん、その人は、平成の看板ボウイ小松蘭太朗君だった。



「黒やあ〜ん、黒やんが来てくれないから学校行く気失せてさあ〜漫画喫茶でポリスマンに補導されちったじゃんよ〜酷いじゃねえかよ〜」


ふらふらにこっちに近付いて、本当に酷いなんて思ってるのかって感じのニマニマした目で黒やんを詰ってきた


「お前朝っぱらから漫画喫茶なんか行ってんじゃないよ!怠け者以前に駄目人間じゃねえかよっ!」


逆に黒やんは、お昼ご飯(かしわめし)を食べるのもやめて、とっても真剣にニマニマした小松君をビシビシ怒っていた。


「オレが先に怒ってるのに、なんで黒やんが怒るんだよ〜」


「お前自分が怒っていいと思ってんのかよ!馬鹿が!」


この人、なんて空気を読む事に興味が無いんだ。多分オレが今まで出会った中で最強のマイペース人間だよ。
オレと周りの人達はなんだかおかしい二人の会話の様子を思わず目に焼き付けたのだった。



「そういえば、お前坂本は?昨日一緒にドンキホーテ行ってびっくりドンキーに行ったんでしょ」


「あーあきお君は徹夜でムカツク奴の家の周りをドミノで囲むって言ってって別れたんだよ。」


「一体どーしてあいつはそんなに頭がおかしいんだよ。」



らんとの第一印象はこうだったな〜と変わってね〜な〜と今だに思う出会いだ。


それよりもそのときのオレは二人の会話を聞いていて、こう思ったのだ。

きっと誰よりも誰よりも目立って仕方ない、その例の男をオレは未だ一度も見掛けた事が無い。

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