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93クライマックス編アラシの幕開け地点
樫木高校三年、宗方純一。
有名進学校の樫木の中でも極めて優秀な生徒であるとして他学年の諸星くんもその名前を知っていた。


成績は学年首席、部活には所属してないものの、県の陸上記録会では選手に選ばれ記録を残している。

家は食品関係の会社を経営しているらしく裕福、まさにステレオタイプの樫木生とでも言うのだろうか


オレが、ダイナマイトでその姿を見た時は、よくその辺にいそうな今時の兄ちゃんにしか見えなかったのだけど

しかし知れば知る程、その宗方と那賀川亜治斗に共通点が見つからない。



「諸星くんは、宗方と喋った事とかあんの?」



「いや、樫木は一、二年と三年は別校舎なんだ、三年の校舎は付属の大学の方の敷地内にあるから、擦れ違う事もほとんど無い」



「樫木も人多いもんなあ」



同じ樫木生と言えど、宗方という男の詳しい人間性を知る程の接触は諸星くんにも無かった。


なかがわは行方不明、坂本もどこに居るか分からない、そして宗方も

手も足も出ない状態に、全員が沈黙

何かしたい、と皆が思っているのに、感じるのは何も出来ないという無力感



「取り敢えず、外に出てみるか」



重い沈黙の中、始めに言葉を発したのは黒やんだった。

まだ日は高い、黒やんは多分じっとしているのが、我慢出来ない質なのだ。



「まだ、決まったわけじゃないし、今アジトと宗方っていうのが絡んでるとか」

「まあね、本当ただその辺ふらついてるだけかもだしな」


確かに、こんなにも手がかりが少ないという状況は、逆にまだ良い証拠も、悪い証拠も、出ていないという事だ、とオレは黒やんに賛同した。



「そっすね、調度、留守番もいるし、デカイようで狭い街だから意外とその辺で見つかるかもな」



やっと、寝起きの頭が覚めてきたらんも、頷く。

らんに肩をポンと叩かれた諸星くんは、少し遅い反応で、らんの言葉の意味を理解し顔を上げた。



「あ、僕が留守番か?」


なんだか不服そうな表情でオレら三人を見回す諸星くんと目が合った時にオレは、なんだか申し訳ない気持ちになりながらも、視線だけで頷いて見せた。



「もし、ヘラヘラして帰ってきたらひっ叩いてやってよ、諸星くん」



オレが冗談交じりにそう告げれば、眉間に皺を寄せたまま諸星くんは長いため息をつく。

それが、なんだか素直じゃないようで素直な諸星くんの了解の合図だと受け取り、オレとらんと黒やんは、良樹のアパートを後にしたのだった。





【クライマックス編アラシの幕開け地点】





何か分かったら連絡を取ると決めて、バラバラに散ったオレら三人。

オレはまず、良樹のアパートの周辺を片っ端から歩いてみた。

黒やんは鳩中方面、らんはこの辺よりも人の多い繁華街方面に向かっている。



そう簡単に、見つかるとは勿論思っては居なかったが、捜索を続けて二時間くらい経過してもまるで手がかり足掛かり無く、焦りと疲労で少し心が折れそうになる。


まず、なかがわの情報自体がオレには少なく過ぎる。
マカダミアン周辺の、あいつが寝床にしていた飲み屋やバーは、当然の如くまだ営業しておらず、ずらずらと閉まったシャッターが並んでいる。


唯一開いていて、情報を掴めそうな可能性のあるマカダミアンには、何故か今日に限ってマスターがおらず、変わりに店番をしていた若い男性はなかがわの事を知らないみたいだった。


時間を無駄に潰しているみたいで、やるせなくなってきた。


日は少しずつ傾きつつも、まだまだ日光は強く、暑さがきつい。


オレは休憩を兼ねて、日陰に入り、閉まった店のシャッターを背に座り、電話を掛けた。




「らん、そっちどう」


「いや、全然、つーか人多過ぎて探すどころじゃねえよ」


「こっちは人いなさ過ぎだって、孤独で死にそうっすよ」



「あははー」


「あははー」



お互いの状況に、渇いた笑いしか出てこないオレとらん。
調度、時刻は三時半くらいで昼の賑わいのピークも過ぎ、夕方の買い物にもまだ少し早いこの時間の商店街付近は、数える程しか人が居ない。


目の前の過疎した状況に、オレは絶望的な気分になる

と、同時に、ここを離れたくなる




「らん、ちょっとオレ場所変えてみるわ、樫高の方まで歩いてみる」



「マジで、あの辺なーんもねえよ」



「あーでもここ居ても何もみつかんねえし、何かここじゃないような気がしてきた」



「分かった、またこっちも何かあったら電話すんね」



携帯を切った後、立ち上がれば、少しふらつく頭。
直射日光の下で動き過ぎたのかもしれない、気を張って精神を保つ。

なかがわを、探すのは二度目、一度目も、電話が繋がらなくなったなかがわを当てもなく探し歩いた。


結局なかがわは、こっちが拍子抜けするほど脳天気な格好で、姿を現し、そっちが何やってんのて目でオレを見て来たんだっけ


今回も、どうか、そんな感じであってくれれば、そういつもの感じで、ケンくんって


そう思ったら、遠くで誰かが話す声も、風が木を揺らす音も、全部なかがわの声みたいに聞こえて、一々空耳に反応しながらよたよたと歩いた。


なんだか、なかがわが居ない事と坂本が居ない事は同じシーソーに乗っているようで怖い。

どっちかが、見つからなければどっちにも出会えないような気がする。

どっちかが、こんな弱ったオレの後ろ姿を見つけて、よう、って声を掛けてくれればいいのにという妄想。


これは途方に暮れたオレの、最後の期待であった。


微塵に砕かれると知る前の、最後のおめでたい思考







樫高前に到着した頃には、時刻は既に5時前、到着したはいいが、らんの言う通り、本当に何も無いし誰も居ない。

なかがわ、宗方どころじゃない、夏休みだから当たり前なのかもしれないが、部活生すらいないよマジかよと、一時間以上も費やした自分に怒りと情けなさが沸いてくる。


さすがに中には入れないし、校門の周辺をうろついてみたものの、虚しさばかりが増すだけで、しばらくした後に校門前にあるバス停のベンチに腰を下ろした。
時刻表を眺めて次のバスの時間を確認する
一番早いのは、後20分後だ。

まだ結構待つ事になると、オレはタバコをくわえて火を付けた。


ぼんやりと煙りを吐きながら、校門へ真っすぐ伸びる並木坂を眺めていたオレは、隣に誰かが来た気配を察するのに少し遅れる。




「あ、終わった終わった、今どこ?」



オレが座っているベンチがきしむ振動と同時に聞こえてきたのは、若い男の声

気配につられて振り向けば、樫木の制服を来た一人の男が居た。

その顔を確認した後、オレは思わず固まって凝視する

知り合いではない、けれど絶対に一度どこかで見かけている


誰だったか、ざわつく心臓を落ち着かせ記憶を巡る


ああ、そうだ、間違いない。

こいつ、ダイナマイトで宗方と居た奴らのうちの一人だ。




「え、じゃあ今から行く、マジマジ、決定」



向こうは通話に夢中で、オレの方に見向きもせず、多分オレが目が離せないでいる事に気づいてもいない

誰と話してんだ、もしかして宗方

男が電話を切ったタイミングを計って、オレはこっちに向けられた背中を掴んだ



「おい、今からどこ行くわけ」


「は、え、誰」


「お前宗方と一緒にグロリアスやってんべ、なかがわどこか知ってんのか!」



余りにも突然の出会いに、余裕無く食って掛かるオレに男は、訳がわからないという表情で萎縮する

見知らぬオレの尋常じゃない様子に、混乱の様子を浮かべたものの、宗方、グロリアスという言葉に、しばらく無言でこっちを見つめ返した後、不機嫌そうにようやく口を開いた




「誰、マジで、つーかオレはもう関わってないから知らないし」


「は?7月終わりくらいに、宗方とダイナマイトに居たよな、なかがわがどうとか話してたの、オレ聞いてたんだけど」


「んなの覚えてねえよ、何だよお前、気持ちわりい」


オレが押す度に、どんどん引いていく男に、とうとう気持ち悪いと言われて、カチンとくるが、確かに向こうの立場からしてみればオレは気持ち悪いかもしれない。

突っ走る衝動を抑え、オレは考える。
この男が本当にもうグロリアスに関わっていないのだとしても、あの日は宗方と一緒になかがわがの事を話していたのは確か。



「オレ、なかがわの知り合いなんだけど、昨日の夜中に急に居なくなった、お前らが何かやったんじゃねえの?」


「知らねえよ、オレはもう宗方達と居ねえし、こっちはあいつらみたいに遊んでても志望大学受かるような頭じゃねーから」


「本当に、何も関わってねえのかよ、ダイナマイトでお前らが話してる時、近くに居たんだよ、あん時の話は何?」



「あんなの、ネタでしょっちゅう話してんだよオレらは、何、お前赤部?」



「赤部」



「あのさあ、確かに、オレらが赤部おちょくって遊んでるのは本当だけど、オレらがやんのはせいぜい出会い系っぽいメール送ってラブホ前に呼び出して放置とかその程度、本当にヤバイ事やってる奴は絶対そういうの人前で話したりしないから」



「じゃあ、ヤバイ事やってんのは誰」



「知らねえよ、そういう奴らとはサイト以外では交流ないし、顔すらしんね」




男は迷惑そうな顔でオレとの会話を早く終わらせたいような雰囲気を出していた。
そうだ、グロリアスは元々、匿名の素性の分からないインターネットの世界。

自分が誰なのか、隠せる事にメリットがあるのだ。

本気で、狂暴な願望を抱いている奴こそ、傍目には無害に見えるのかもしれない



「でも、宗方は本気だろ、宗方はマジでなかがわに何か恨みがあんだろ」


「さあな、ただ気に食わねえだけなんじゃね、ああいう何も考えてなさそうな馬鹿が、直接本人に聞いてみれば最近はほとんどダイナマイトばっか居るらしいから行けば居るかもな」




男が呟いた、その直後に、バスが到着し、男は会話を打ち切ってそれに乗り込んだ。

オレはそのままその場に残り、並木道を通り抜けるバスを見送る。

待ちわびていたはずのそれに、乗らなかったのは、ダイナマイトがある方面に向う次のバスに予定を変更した為であった。





「らん、オレ、今バス」



それから30分後、ようやく到着したバスに乗り込んだオレは、一番後ろの座席に座り、らんに電話を掛けた。

車内にはオレ以外に二人の乗客しかいないけれども、当然に声をひそめる。



「はあ、ケンケンどこ行ってんの?」


「今からダイナマイト、もしかしたら宗方が居るかもしんね」



「えー、まだ開いてねえよ、基本9時か10時オープンだから」



「え、でもこの前行った時は早かったじゃん」



「あん時はセージくんの誕生日で都合悪い知り合いの為に相当早く開けてたっぽい」




まだオープンまでに相当時間があるが、もう向かっているのだから仕方ない。
他に行く所も思い付かないオレは、このままダイナマイトに行ってその付近で待つ事を決める。


らんの方はというと、繁華街から赤部方面に戻っている途中であった。

電話の奥からタクシーの運転手が道を尋ねている声が聞こえる。



「らんはこれからどうすんの、ダイナマイトの方来る?」


「ああいいよ、じゃあその辺またちょっと回ってから来る」



らんとの通話を終了した後、携帯のディスプレイ見ればいつの間にか届いていたメール。

送り主は、黒やんで、シンプルに鳩中方面から引き返すと書いてあった。


引き返す、という事は、今らんも黒やんも赤部方面に向かっているのか

合流して一緒に来てくれればいいけど、まだきごちない二人は大丈夫なのか、と少し不安要素増やしたオレを乗せて、バスは段々と薄暗くなっていく道程を揺れながら走って行った。





他のクラブが密集して並ぶ通りの、調度裏手側にあるダイナマイトの周辺は、レコード屋や服屋があって昼間は賑わっているが夜はどこも閉店して薄暗い。

特に階段を下りた地下にあるダイナマイトの開店前はより暗く、まだ若干視界が明るい今の時刻でもどことなく不気味だった。


やはり開店より一足先に到着したオレは、入口の傍で再び携帯を確認しながらタバコに火を付けた。


らんか、黒やんが、早く来てくれないかと思う。
一人で居たら無駄に焦って、中々時間が過ぎてくれない。





その頃、らんはというと、まだダイナマイトには向かっていなかった。
赤部方面に戻って来た時に、らんは確かめ無ければならぬ事を思い出したからだ。

近すぎて、盲点だったというか、色々な所を探し回っていた今日、まだ赤高自体には行っていない。

夏休みでも、部活生や職員は居るので、赤高生なら入れない事はない。

見つかるかどうかなんて、確証はないが、らんはダイナマイトに向かう前に、念の為、赤高に寄っていた。


体育館では、まだどこかの部が活動しているみたいだが、やはり夏休み中の校舎内はシンとしている。

スリッパを取り損ねたらんは、サンダルを脱いで、裸足のまま廊下を歩いた。


歩きなから、順番に教室を覗いて、ふと一つの教室で立ち止まり、入ってみる。
そのまま窓際の後ろの席まで歩き続け、その机に座った。

目を開いたまま、上半身を伏せて、机の模様をなんとなく眺めた。

一学期はよく、こうしていた、堂々と、すげえなあ、らんは思う。


今は黒やんが隣にいるだけで緊張する、普通にしようと、意識すればする程自分の一挙一同が取り返しのつかない物になっていないかが、気になる。

分かってはいたが気持ちがバレているのと、バレていないのではこんなにも違うものか
自分の中にある気持ち自体は、10年前も今も、別に変わっていないというのに

どうしたもんだか、これからどうするか、半日動き続けた体を休めながら、らんは自分自身の問題について少し考えた。


その時、廊下に人が歩く足音を感じ、らんは思わずビクリとして体を上げた。

教師だろうか、まさか誰かが来るとは思って無かったと、らんは黒やんの席から掃除用具入れとカーテンの間の狭い隙間に身を隠す。

死角になっているその場所から、廊下側に意識を集中させれば、足音は、やはり段々と近づいて来てるのが分かる。


らんは出来る限り息を潜め、願わくばそのまま通り過ぎて欲しいと祈るが

そんな思いは虚しく、一つだけ開けっ放しになっていたこの教室の引き戸の前で、足音は止まった。

誰かが、教室に入って来る空気が、らんを刺す。
覗きたいけれど、動いていいか分からないらんは、ただそのまま狭い隙間で、じっと身を潜め続けるしか無かった。


足音は、再び、教室内に響く、ゆっくりと室内を回るような足音がらんの居る場所に急接近するのは時間の問題であった。



「うわっ!!!」


「あわっ!!!」


足音の人物は、狭い隙間に挟まっている人間に気づき、驚きの声を上げる。


同時に、その人物の姿を確認したらんも、同じように、叫んでいた



「黒やん・・・?」



「はー・・はー・・らん?」


暗がりに慣れた目に映った人物は、あろう事か、ついさっきまで、らんの頭の中の全てを占めていた、ただ一人の人物

お互いにパニック状態が引かないまま、しばらく無言で見つめ合い続けていた




らんと黒やんがそんな微妙な形で鉢合わせていた頃、オレはそんな事つゆ知らず、二人が遅いと感じるのは、自分の焦る心に問題があるのだろうと思っていた。

いつの間にか、今日はほとんど吸っていなかったタバコが、待っている間の時間で半分に減ってしまっていた。

ヤバイ、と感じ、オレは他で気を紛らわそうと携帯を開く。


今日だけで、何件着信を残してしまっただろうか、出ないと分かりつつも、なかがわの番号に繋げてみる。

もう耳に当てないまま、ディスプレイだけ開き、無意味に点滅する番号を眺めた。

薄暗い道の片隅で、きっとオレの携帯だけがボンヤリと光っている。


これでも、何もしないで一人待っているよりは、気分が落ち着くと、オレは何分も、なかがわの携帯を鳴らし続ける、その時だった。


背中に、誰かが居る気配、人気の無かったこの場所に、初めて感じる物だった。

オレは、黒やんと、らんを待っていた。
なかがわに、電話を掛け続けていた。


通りすがりの他人だという可能性も十分にあるというのに、不思議な事に、その気配を感じた時に、浮かんだのは金髪。


ずっと会えないままなのに、オレは、真っ先に、坂本の事が浮かんで、携帯を地面に落とした事にも気づかないまま勢いよく振り返る。



つくづく自分は、甘っちょろくて、めでたい奴だと、後悔する間もなく、暗転。


一体何が起こったのか、後ろに居たのは誰だったのか、確認する間もなく、オレの記憶はそこで途切れた。




「残念、ダイナマイトは臨時で休みだから、開かねえよ」




そう言った、誰かの声を聞く事もなく。






「え、ケンケン出ねえ」



「え、なんでだろ」



その頃、まだ教室に居たらんと黒やんの二人は、いいタイミングで繋がらなくなったオレの携帯にひたすらコールを掛け続けていた。

結局、お互い同じ考えで赤高に訪れていたと分かった二人は、ダイナマイトに向かう前にオレに電話を掛けようとしたが、この短時間でいきなり応答しなくなったオレに、混乱する。


何か、進展があって、電話に気がつかないのだろうかと深読みする二人には、勿論オレに今何が起こっているかなんて予想出来なかった。




「まあ、とにかく、出るか、もう真っ暗だし」



中々、いつものように続かない会話に痺れを切らした黒やんが、赤高から出ようと切り出したその時、今度は二人で縮こまる教室の外で、再び足音が聞こえてくる。


大きく鳴る足音は、結構速いスピードで、らんと黒やんの居る教室に近づいていた。

突然の事に、二人は同時に目を合わせて焦り始める。
足音はまるで、二人を急かすようにどんどんとボリュームアップしていき、廊下側の窓から懐中電灯と思われる光が見えた時、ついに黒やんがらんの腕を掴んだ。



「あ」



らんが小さく上げた声を聞き取る余裕もなく、らんを引っ張り込むように黒やんは掃除用具入れの中に入る。

まともな掃除なんて出来なさそうな、壊れた箒しかない用具入れの中は、らんの想像よりは広かったが、やはり人二人が入ると満員電車並の圧迫感。

頭を少し下げるだけで、黒やんと鼻がぶつかりそうになる程の密着に、らんは廊下から聞こえてくる足音の事など、一気に頭から吹っ飛んでいった。


色んな意味で、声を出せない用具入れの中で、二人は、おそらく警備員が、教室の鍵を閉め通り過ぎていく音を静かに聞く。



そのまま数分篭った後、足音が完全に聞こえなくなった事を確認し、黒やんは用具入れの扉を開いた。



「はー・・焦った」



落ち着きを取り戻した黒やんが呟いた言葉に、口には出せないが、らんは心の中で叫ぶ。



焦ったのはこっちだっつーの


自分の顔が、赤くなったまま戻らないのを感じるらんは、いくら暗闇と分かっていても気が気じゃない。




そして、意外にも脳天気な二人は、赤高の教室は、外側から鍵を閉めれば、内側からは開けられないという致命的な部分にまだ、気が付いていなかった。

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