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91クライマックス編失踪地点
オレはその日を始まりから思い返してみる


忙しい一日だった。
一分が10秒に感じ、ふと気が付けば、数時間が経過している。
それほど、事態はどんどん進展していったのである。
落っこちる方向に


オレは度々坂本の顔を思い浮かべ、思い出していた

いつもなら、一体どこから嗅ぎ付けたというタイミングでオレのピンチに姿を現す坂本


でも今回は違う、ふと気配を感じたと思い込みたくて、幾度となく振り返った時もそこに坂本は居なかった。


一人になったあの時も、肩に置かれた手を坂本だと思って振り向いた。



最後まで、オレは心のどこかで坂本の登場を待っていた





【クライマックス編失踪地点】




その日深夜を迎えた頃に、オレとらんと黒やんの三人はそれぞれの家の中間地点で集まった


一番最初に待ち合わせ場所に着いたのはオレ。
待ち合わせ時間ピッタリに到着したオレは、その後20分程二人を待ちぼうけた。

同じ位遅刻してやって来た二人の作戦は、残念ながらオレには透けている。

らんも、黒やんもオレが来る前に二人りきりになるのを心配したのだろう。

お互いが同じ事を考えていたせいで、結局同時に到着し、オレに挨拶を振る暇も無く目を合わせ硬直する。
ああ、裏目裏目。



「よお」


と黒やん


「うん」


となぜかぶっきらぼうにらん。



「う、うん」


と困ってつられる黒やん



「な、夏バテ、あ、終わった?」


とその様子に後悔してなんとか話を続けようと焦るらん


「あ、まあ、うん」


もうギブアップな返事の黒やん


「あ、あそう、うん」


諦め切れないらん


オレの存在を忘れ、無駄にうんが多い会話をする二人。
必死でいつも通りにしようとしているのだろうが、余計に不自然で無理をしているのが伝わってくる空気。
聞いているこっちまで酸欠を起こしそうで危ない。



「よっしゃ、お前ら来たし、時間が(勿体)無いんで進むべ」


苦しい空気に耐えかねたオレは、棒立ちで向き合っていた二人の背中を両手で押し、なかがわの居る良樹のアパートに向かって歩き出す。


ようやく正気に返った黒やんとらんも、オレと同じ歩調で歩き始めてくれたので、今の失敗な会話や遅刻の理由については突っ込まないでおこうと思った。




こんなに遅い時間に良樹のアパートを訪れたのは初めてで、昼間は穏やかで花咲き乱れる周辺の民家も、現在はどこも電気が消え人の気配を感じさせない程静まり返っていた。

若干錆ついた、階段を音を出さないよう上り、良樹の部屋の前まで移動する。

チャイムを押して、玄関が開かれるのを待つオレ達が異変に気付いたのは、しばらく間抜けに立ち尽くした後だった。



「あれ?」


「留守じゃね?」


反応のないドアにまさかの留守を予感するオレとらん
チャイムを押しても部屋の中からコトリとも音がしないこの状況にその可能性はかなり高いと感じる。



「寝てるとかじゃなくて?もう1時だし」


「でもあいつ昼間もスゲー寝てるよ」


「夜行性だよね」



当然の如く起きてると思っていたオレとらんは黒やんの真っ当な意見にそう返すが、確かに寝ているという可能性も無い訳ではない


らんがもう一度チャイムを押した後、何を思ったかいきなりドアノブを回した。


「あ、開いた」


らんが勢いよく引いたドアは力も要らず軽く開く。
開かれたドアの奥は真っ暗だ。


「何勝手に開けてんの!?」

「え、ケンケン友達留守っぽかったら取り敢えずやらねえ?」


「ええーオレんちではやらないでね」



らんの大胆な行動に呆気に取られているのもつかの間、1DKの部屋は暗くて静かで、なかがわが留守なのか寝ているのかハッキリとしない。


玄関先で入るか入らないかの間際で身を乗り出してオレが名前を呼んでみるが、それにも応答は無かった。



「もう入っちゃおうぜ」


「バカ」


痺れを切らしたらんがついに越えてはいけない一線を越えようとした瞬間、黙っていた黒やんが呟いて小さくらんを叩いた

その軽く触れられた肘辺りの感覚にらんは驚いたような戸惑っているような表情で素早く黒やんをチラ見し、恥ずかしそうに瞬時に明後日の方向を向く。

口をぎゅっと引っ張り笑うのを我慢しているようならんの横顔を暗がりながらオレは確認した


「・・ジョーダン、だもんっと、」



とらんが照れ隠しに変な音程で呟いたその時、アパートの階段をカンカンと上る音がオレらのいる廊下に響き、反射的にオレら三人は階段側を向く。



「誰だ!」



足音の張本人は段々とこちらに近付き、その姿を現していった。



「何だお前ら!泥棒か!?」


ビニール袋を片手に持った背の高い人影は、威嚇の目でオレら三人を睨む、この部屋の家主良樹である。

自分の家の扉を開き、中を覗き込んでいる男三人を目撃してしまったならごもっともなリアクションだが、なんとか誤解を解かなければ



「よ、良樹!泥棒じゃないっす!ケンだよ!」


「あ?ああ、え?、ああ、まあ、どうした!?」


泥棒じゃないと主張し、顔を見せたら、またもやオレを認識してくれているのか定かじゃない様子だったが、警戒を解いてくれた良樹。

何故良樹はオレばっかり忘れやすいんだろうと尋ねそうになりながらも、怪しげな行動を取っていた理由を説明する事を優先した




「あ?あいつがいねえ?そんな訳ねえよ」


「でも部屋ん中人の気配しないんだよ」


「10時だったか、バイト先から電話掛けた時は居たぞ、ちょっと見てくる」


オレの話を聞いて、良樹も少し焦ったように急いで部屋の電気を付けた。
その後に、オレらは続いて部屋の中に入る。
台所を通り過ぎ引き戸を開ける、閉ざされて確認出来なかった六畳の部屋には、やはりなかがわの姿は無かった。



「おかしい・・」



良樹は眉間に皺を寄せ、現状を眺める。

良樹すら理由の分からない予想外の展開に、当然オレらも事態が掴め無かった。


「鍵開いてたのか?」


「別に入るつもりじゃなかったんだけど、ドアノブ回してみたら開いて、です」

「何で閉めねえで外出たんだろうな」



良樹の言葉に、オレもハッとなり気付く。
出掛けてるにしても、鍵を開けたままにしておくのはおかしい。
そう思った矢先に、テーブルの上になかがわ用の合い鍵が置きっぱなしにしてあるのを良樹が発見し、より不可解に思う。



「なあケン、これは、あれと関係ねえといいわな」


ついさっき、オレからグロリアスの話を聞いた黒やんは複雑な表情でオレに視線を合わせる。

多分、オレも黒やんと同じ表情をしている



「だと、いいんだけどなあ」


呟いてみたものの、悪い事が起こる前触れの、よくあの嫌な予感を誤まかす事は出来なかった。



その夜、朝までに帰ってくる可能性もあるので、オレら三人は良樹の部屋で雑魚寝する事になった。


電気が再び消えた真っ暗な部屋の中で、睡魔に意識を持っていかれそうになっていたオレに、誰かの声が聞こえる。

夢か現実か分からないまどろみの中で、オレは返事を返したら、それは現実で、目を開けば窓際に座り星を眺めている良樹が居た。



「良樹・・、ごめん、もしかしてなんか言った?」


「あー、もしかすると、あいつは家に帰ったのかもな」


良樹の言うあいつが、なかがわの事だと分かったオレは、体制を仰向けから俯せに変え、正面で良樹に向かった。



「いや、多分違うって、あいつにはここ意外に家は無いから」



「それなら、あいつは、今どこにいるんだろうな」




良樹の声は淡々としていたが、その瞳は何を思って星空を見上げているのか何となく分かって、オレにも深夜独特の寂しさが移ってくる



「きっと、すぐ近くだよ」



手がかかりも無く、根拠の無いオレの言葉でも、今の状況には希望の一つかもしれないと、眠りに落ちる直前まで、その言葉を心の中で繰り返す。


繰り返す度に、オレの頭には坂本の金髪が浮かんで、変だけど懐かしいような気持ちが沸いて少し泣きたくなった。

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