90クライマックス編プロローグ地点
二度目に目にしたグロリアスに新たに作られていた掲示板。
その中身は一目じゃ何を目的としてグロリアスに存在しているのか分からない物。
まるで追うように一日と空けず載せられ続けている携帯の写メ
被写体は全て、この辺りの同年代なら一度は耳にした事のある名前の人物。
中央の、赤部の、坂本明男。
グロリアスの中に居る坂本はどれも無防備な姿でこっちを見ていなかった。
誰かが、坂本を隠し撮りしながら、坂本の行動を追っている
投稿している者の情報は一切分からない、一体誰が、何を目的として、この掲示板を動かしているのか
一から順に最新の今日まで見てみると、気付いた事があった。
写真によっては把握出来ない物もあるが、坂本が写真を撮られている場所は赤部から遠い所ばかり
オレはなんとなく、坂本は自分の状況に気がついているような気がした
もしかしたら、グロリアスも見ているかもしれない。
仮に、樫木の目的が、坂本の行動を監視してゴシップのようにグロリアスに晒す事で精神的にダメージを与える事なのだとしたら
坂本は四方八方に動いて、樫木のネットワークを試しているのだろうか
どこまで追ってこられるのかで、何か突き止めようとしてる
もしくは、ただ単に一目につかなさそうな所に避難しているのか
うーん、オレは坂本を買い被り過ぎか
しかし、やっぱり、赤部から遠い、というポイントにオレはやたらと引っ掛かる。
【クライマックス編プロローグ地点】
オレのモヤモヤとした頭の中の陰はその日に霧の中から顔を覗かし始めた
黒やんが帰ってからのそれまでのオレの行動と言えば
「坂本ー、さあ最近全然見とらん」
「連絡とかもない?」
「あーそういえばちょっと前に牛嶋くんについて聞いて来たわな」
「牛嶋くん?誰?」
あの後、オレはまず坂本がオレ以外の誰かに連絡を取っていないか、坂本の周囲から近況を探る事を始めた。
黒やんもらんも何も知らない、そうなると次に何か知っているかもしれない所は、赤高カッパ派安藤太斉
眠そうな声で電話に出たアンジーから出て来た意味深な名前をオレは聞き返す。
「オレの知りつーか先輩つーか、教えろつーから言ったのに結局キレ始めてあいつマジ意味わかんねえべいつものごとく」
「まあまあ、つーか何で坂本はアンジーにその人の事聞いてきたのよ」
「知らね、なんか樫木がどうのっつってたから、やっぱオレに樫木の知り合いがいんのが羨ましいのよ嫉妬嫉妬」
「は?樫木?坂本樫木て言ってたの」
最初は不作かと思っていたアンジーの情報の中に、ついに樫木というキーワードが出て来て、オレは思わず電話ながら身を乗り出す
坂本が、アンジーに樫木について何か尋ねている
思わぬヒットに、急激な脈拍の上昇を感じた。
「何ケンちゃんまで樫木て、流行りかオイ」
「ぶっちゃけブーム、坂本樫木をどうするって?ぶっつぶすって?」
「そんなアホな、どっちかつったら樫木の方が坂本暗殺とかしてーんじゃねえの、坂本つーか基本樫木の奴は赤部とか仙山とか嫌いじゃん」
「え、何でよ」
「えーてかよ、まあ城中はまあまあ平和だったもんな、なんつーかオレらのさ中央とか特に格差社会だったから中央の時いじめられっ子とかヤンキー嫌いとかだった奴樫木に多くてその逆が仙山とかに多いんだ」
「恨んでます系?」
「それもあるし、中学の頃は怖くて黙ってた奴も高校に入ったら周り金持ちの味方いっぱいだから強気になってね、実はオレらの方が強かったんじゃねとか思い始める奴もおーいよ」
「え、となると」
「まあ仙山ヤンキーみたいにあからさまな奴はいねーけど金も権力もある奴はやるべなー悪の高校デビュー」
アンジーの言う事は、主に赤高をターゲットにされたグロリアスの存在から無理無く納得がいく。
明らかに凶暴な仙山に比べれば赤高はただの馬鹿だし、恨みをぶつけたり、自分の力を試すには調度いいのかもしれない。
で、グロリアス効果で赤高の侵略が面白いくらい簡単にいってフィーバーしていた矢先に、樫木は出会ったのか
赤高の看板息子坂本明男に
「牛嶋くんは中学の頃はバリバリガテン系のヤンキーだったのにさー息子の非行のストレスで母ちゃんが病気になったとかで三年終わる直前にいきなり勉強し始めて、奨学金まで貰って樫木行ったのに昔の悪行のせいで教師含め樫木で総孤立」
「そこまでかよ」
「ねー、まあ樫木は馬鹿とヤンキーにはマジ冷たい所だから、ケンちゃん間違っても目指すんじゃねーよ」
そこまで聞いて今更憧れんぜという気持ちを抱きながら、アンジーとの通話を終えたオレ
改めて、樫木は危ないと思う。
加減を分かっていない馬鹿の仙山と違い、分かっていながらギリギリの所でえげつない事をする
それは今もジワジワとエスカレートしていってるが、歯止めの調節を間違えない樫木は自滅する事はない
今最もヒートアップしているだろう時、坂本が上手く引かなければ、この戦いは地を這うナメクジのようにジワジワジメジメ続くのだ。
現在、樫木を煽る坂本は、一体いつ終止符を打つ気なのだろうか
坂本の目的は
頭を抱えていた時だった、傍らに置いていたオレの携帯が鳴る
着信表示を見てみると、つい今日の昼過ぎまでこの場所に居たあの男
うちを飛び出していってから後の事も気になっていたオレは素早く電話を取った
「らん、たえさん行くの間に合ったか」
「合った合った、つーかそれより分かったべ、宗方」
「それよりて何だよ次から次にドタバタ騒がしい奴ね」
「馬鹿ヤロ!そんな事言ってる暇ねえべ、ダイマーであきお君写メってた樫木の事が分かったんだって、宗方っちゅうベラボウ賢い奴だったんだってば!」
「は!?」
グロリアスの事を話していた時は上の空もいい所だったらんが、いつの間に何か活躍しているのにも驚きだが、それ以上に驚愕の最新情報にオレは強く食いつく
「え、何それおまえ!どうやって調べたの!?」
「おいおい金持ちなめんなよ〜、さっきセージ君の店行って来たんだ、常連何人かに超買収して色々聞き取りしてきた、そいつ以外の周りはコロコロ変わるっぽいけどダイマーにもよく来てるっぽい樫木の集団」
「マジ、でやっぱそいつよね、坂本のストーカー」
「や、いくらなんでも一人で四六時中あきお君について回れねーべ、膨大な数のグロリアス会員が色んな所に居て、あきお君を囲ってんじゃね」
「やっぱすげえ数なのかグロリアス」
「問題はそこじゃねえケンケン、本当は樫木は坂本明男自体を狙ってんじゃねえんだよ、赤部つーわけでもないかも、少なくとも宗方は」
「どういう事」
「宗方の狙いは、最初っからアジトだけ」
らんが買った情報で、急速に形を変え初めた、オレの中の樫木の思惑
生唾が喉を伝い落ちていくのを感じながら、オレはらんの言葉の続きを待った
「ダイマーでも、宗方はそこそこ有名らしくね、何人か直接話した奴も居たわけよ、そいつらが言うには宗方はキレ上戸らしく酔っ払た時に言った事があるらしい、ムカつくて」
「何が」
「赤部のなかがわの笑い方」
アンジーは言った、樫木には下剋上を狙う奴、もしくは恨みを持った奴が多いと
らんが拾って来た情報から感じるのは、酒の入った時の話にせよ、こっちまで背筋がゾっとするような深い恨み
宗方という男が持つ物は、もしかしたら、樫木とか赤部とかグロリアスとかの枠とは別の所にあるのではないか、と
「とにかく、オレはあきお君の掲示板は何かのカモフラだと思う、無言で写メだけ延々貼り続けてるなんて変だべ」
「まあそう言われてみれば」
「宗方について調べんには、あきお君よりアジト当たったが早いかも」
そういえば、元々グロリアスを知ったのは、なかがわの問題が始まりだったわけで
坂本が大丈夫だというから、あれからそんなに気にしないようにしていたが、原点に返れば、主軸の人物はあいつ
「ね、ケンケンこういう事する時は、出来るだけ人増やしたがいいじゃん、向こうにケンケンの家とか割れてる程存在漏れてんなら、いざとなった時オレケンケン助けられねーから逃げるし」
「助けてよ!でも人は多い方がいい怖いし」
「でしょ!だからケンケン黒やんに電話して連れて来てくれ」
「え、おまえ平気なの?」
「いつまでも避けて、いつか人見知りでもされたらどうする!今はどーしょもねーけど、ちょっとずつでも話す機会作んなきゃ駄目しょ」
「おー、じゃあ、黒やんちなら、おまえんちの方が近いじゃん、らんが来るとき寄って連れてよ」
「・・・・・・・まだ二人っきりはイヤ!!!!!」
めんどくせーこいつ
とは思いつつも、新たな展開に足を踏み入れたオレらの問題は、この日から翌日までで急速なクライマックスを迎える事となる
時が経つのを速く感じた一日の、ハードな結末の行方に気付く事もなく
[前へ]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!