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73明るい下で待ち合わせ
坂本がキレた事にオレは非常にビビった。

同時に考える、あいつはいつから樫木高校にいらついていたのか、グロリアスとなかがわの事を伝えた時

あいつはこんなふうになるような前兆を一切見せず

でも本当は違ったのか、見抜け無かった。


「はー、ビビった。やはし、なんだかんだ言ってなかがわの事でムカついてんのか、あいつも」


あれから間もなくセージくんに見つかってどこかに連行された坂本を待つ間、オレは本日の出来事と、グロリアスという存在を知ってからのオレの日々を、解りやすくらんに説明してみた

オレの話を聞いて、坂本という人間の心理について詳しい数少ない者の一人

らんはこう解答する



「や、というより多分あきおくんは自分の愛する赤部に勝手に手え出された事にムカついてんのよ」


何、それは初耳である
あいつにあったのか愛校心。

「赤高はあの人の大好きな箱庭だから」



大事に自分好みに作ってきたボンクラの掃きだめ。

それを自分の知らない間に有名進学高なんかが勝手にいじった、それこそが坂本のプライドに触れたという。


らんがそう言うなら多分それは間違いない。






【明るい下で待ち合わせ】






こっちも色々大変だが、やはりあっちも気になるので少し時間をさかのぼってみると



オレに無理矢理急かされて自分の状況を完全に理解してないまま、那賀川亜治斗は、喫茶マカダミアンに居た。


これは二人の再会のチャンスに焦っていたオレが二人の意見を聞かず勝手に決めてしまった待ち合わせ場所である。


良樹にオレが告げた待ち合わせ時間は午後7時。


なかがわはオレに急かされてしまったせいで待ち合わせ一時間前の6時からマカダミアンで暇を持て余す。

今考えれば、オレの余裕のなさ、面目ない。





「メシアン、いつもと格好違うね、いつも制服なのにどうしてまた今日はムギワラボーシ」



まだまだ営業時間の範囲だか、いつもより更に客薄なこの日
何も注文せずに窓際の席に座るただ一人の客メシアンことなかがわに世間話を振るマカダミアンのマスター。

マスターの何気ない質問に、なかがわも何の躊躇いも無しに返事を返す




「葬式だったから、オレ喪服とか持ってないしー急いで調達した黒服よ、ムギワラはその死んじゃった人の形見だー」


「葬式?誰が亡くなったの?この辺?オレも知ってる人か」


「この辺ちゃ、この辺だけど、マスターは知らねーよ」


「そう、メシアンとどういう関係だった人?」



「うーん、スポンサー?」


普通なら言い切れるはずの質問に語尾を濁すなかがわに、マスターは訳のわからなさを感じる。

スポンサーという単語、こんなはかなげな外見の子供から出るにはとても不自然な言葉だった



「いや、友人?知り合い?どうだったかー、ごめん今になったらオレにもよくわかんねえんだー」



「なんだか、あんまり悲しそうじゃねえなあ、そこまで親しくなかった人?」



曖昧な事ばかりのなかがわの言葉に、マスターは本当に葬式帰りなのかと疑問を抱く。


マスターも詮索はしないが、ここでメシアンと呼ばれてるなかがわが何か訳有りの人物である事は分かっていた。
それがその辺の家出少年レベルじゃない事もなんとなく

余り治安の良くない飲み屋に挟まれたマカダミアンの常連にははそういう人間が多かった。


だからなかがわが一般的とは外れた言動をしようとも、動じない自信もある






「いや、親しくはあった、向こうも多分オレを親しい人間だと思ってたと思う。それがどれ位かオレはあんまり他を知らないからわかんないけど」



曖昧に答え続けていたなかがわが、僅かに何かを訴えるように話す。


普通の人間でいう「必死」。それでもなかがわの場合は通常より淡々としてはいるが


マスターは微かに変化したなかかわの様子に気付きながらも、ただ黙って話を聞いた。



「たださあ」


「ただ?」



「その人の葬式の参列者名の中に、必ずオレの名前が無くちゃいけないとは思うんだわー」




友人、知人、結局最後まで、なかがわはその関係を具体的な物に当てはめない。

でもマスターは、そんな物よりなかがわ本人によって作られたこの言葉の方がきっと真実に近いんだろうと思う。




「例え嘘っぱちの名前でもなー」




訳有りの子供だというのは分かる。
好奇心も人並にある、でもこの話はこれで終わるのが多分一番うつくしい。


だからマスターは詮索はしない。



「そっか」



マスターが最後の返事を返した後は、もうお互いに喋らず、マカダミアンは先程と同様過疎した喫茶店の店内に戻る。



マスターは黙ったまま、心の中で一つだけ訂正した。
おそらくなかがわはその人の死に悲しんでいる

この世最上級の悲しみではないにしろ、誰もが普通に抱く親しかった者の消失に

他の誰とも違わない、普通の悲しみを、なかがわもちゃんと普通に抱いていると






それから数時間、店内にはまた新たな問題が発生していた


あれから一人も新規の客が来店してない店内には未だマスターとなかがわの二人きり


しかし、先程変わってない沈黙の店内は現在、やや気まずい。



「マスター特薄コーヒーくれ」


「はいよ・・」



なかがわが特薄コーヒーを頼み出したのは7時を少し過ぎた頃。

それから二時間経った現在、特薄コーヒーの注文は六回目である


今日なかがわが一人まだ日が残る頃から居座っているのは、待ち合わせのためであると知っているマスターは現在待ちぼうけ確定のなかがわの状況に哀れみを感じていた



「メシアン、今日待ち合わせだったんだよな」



「うーん・・わからん」



元々オレが突然セッティングした二人の待ち合わせだった為、満足な説明もないままここに駆り出されたなかがわは段々と自分は何か間違っているんじゃないかと微妙な表情になっている


ここにきてまさかのすれ違い、こんな自体をオレも予想していなかった為双方に連絡を入れる事もない




「相手に連絡入れてみたら?携帯ないならオレの使え」


「や、連絡先知らない」


「は?」


「そもそも、本当は存在しないんじゃないのか・・」

「ええ?」



多分この日オレに会う時点では、なかがわは全く再会出来ない「星の人」を半分諦めていたんだと思う。


ただでさえ、葬式帰りの余韻の中に居たなかがわ


この急展開の後の更にどんでん返しの今、なかがわの中には「星の人は空想だった」説が浮かび出してしまっていた




「マスターオレこれ飲んだら帰るわ」


「え、いいの?」


「うん、取り敢えず今日は、なんだかよくわかんねーし、もしかしたら何かに化かされたかも」


「そう・・大変だな・・」


意外とあっさりしたなかがわの様子に安堵したマスターだったが、常連のかわいいメシアンが健気に待ち続けた人物の顔を見れない事に少し残念だった。





マカダミアンを出たなかがわの足は、やる気なさ気に今日の寝床をふらふら探す。


常日頃、寝泊まりしていたのはあの女性と繋がりのある店ばかり、未成年でかつ制服姿のなかがわを煙がりつつも受けいれていたのはあの女性の力があったこそである。


彼女が亡くなった今、多分今までのようにはいかないだろうとなかがわは分かった。


それに、昨日の今日で彼女の姿が目に焼き付いている場所に、なんとなく足を向けられないような気もしていた。




「だるいぜー、人間はだるい・・死にたいわけじゃねーけどオレも飼い犬に生まれたかったー」



マカダミアンがある飲み屋街を抜け、シャッターの閉まった赤高商店街を歩きながらなかがわは以前に主人の買い物を待つセントバーナードとのたわむれを思い出していた


あいつなら、常に裸だから毎日制服である事も怪しまれない
名前も適当でいい、国籍なんて必要ない、道端に繋がれてようとどこも不自然じゃない

それでもちゃんと家族が居る。

条件は同じなのに、人間はハードルが高いとなかがわは不満に思う。



怒涛の一日に疲れて、なかがわは少しの休息にその場に腰を下ろした。


なかがわ自身はこのままここで寝てやってもいい気持ちだったが、前にオレにそういうのをやめろと言われた事がちゃんと残っていて、目を開けたまま座る姿勢に留める。


今日も星がきれいだ、この辺は田舎じゃないが、星がきれいに見える方だと、首を空に仰がせるなかがわは思った。


天然のプラネタリウム、建物が低めの赤高傍商店街は特に一人で満喫するには調度いい




「あ・・・」




視界の隅にある何かの陰を察して、なかがわは今ここを一人締めしている訳じゃない事に気付く


自分の数メートル先、閉まった店のシャッターに背をもたれさせ、自分と同じように空を見上げる人物が居る事。


なかがわの視線はそこに固まったまま止まった。


射止めるようななかがわの視線、向こうも数メートル先の地面に、生き物の気配を察知して、顔を向ける






「イチロー・・」




なかがわはその時初めて記憶への信頼を取り戻した

やはし、空想じゃなかった

がしかし、何故ここに




「オレの事覚えてる?」


「てめえ・・パスポート・・人の家に忘れるもんじゃ」


「オレの事忘れてない?」


「忘れてねえよ・・おいマカダミアンってどこなんだよしらねえんだよ・・大体何屋なんだ、ナッツ屋か・・?」




焦ったオレが良樹に口走った事


「7時にマカダミアンて所に来て、赤高から遠くない、頼む」


オレの適当な説明が二人を擦れ違わせていたという真相。


確かに、マカダミアンは赤高から徒歩10分位の場所にあるけど、飲み屋に入り組んでてわかりにくい


ケン致命的ミス


マカダミアンに辿り着けず途方に暮れていた良樹は、赤高周辺であるこの商店街付近をさ迷っていた。


待ち合わせ時間から随分経ってしまった今まで、諦めモードで星を眺めながら



「オレイチローじゃねえよ」


「じゃあ誰なんだよ・・これ忘れてったのはお前だったじゃねえか」


「あははそれ捨てていーよ、ただのメモ張だから」



一匹狼とみなし子の天使


なんでこの二人がこんな形で繋がったのか
それは誰にも語れない所。

でもそれでいいのだと思う


この意外な配役は、現代のおとぎ話
第三者が解説を入れるには不粋なロマンの話



「なら、なんで今日マカダミアンとかいう所に呼び出されんだよ・・つかなんでお前はここに」



「なんでかねー、ねえ、それより」




なかがわは良樹を見上げる、良樹の戸惑うようでもななかがわと再会して一息ついているような顔は、きっと望んでいた予感の的中。

こんな瞬間を見たくて、人はたまに確率の低い非現実を信じる




「ずっとここで、オレを待っていたの?」




押さえ切れず弾けたようななかがわの笑顔は
どんな言葉よりもその心を良樹に余す事なく伝えた

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