小説置場 11 須藤と雪の間に沈黙が漂う。 雪は益々混乱するばかりだった。 大きな目を更に見開き、ポカンと須藤を見つめている。 「なんだ?何か不満でもあるのか?」 テーブル横に立ち、再び煙草を吸い始めた須藤が、眉をひそめながら雪を睨(ネ)め付けた。 鋭い視線に怯えた雪が目を逸らし、言葉を選びながら答える。 「…いえ、その…、そんな大金を頂くわけには…」 「勘違いするな。金をやるわけじゃない。お前が俺に体を売る代金として支払う金だ。120回分、前払い一括での支払いだ」 有無を言わせぬ傲慢な態度の須藤に、雪はどうしていいのか分からなかった。 借金が今すぐ返せるのは心底嬉しい。 だが、数時間前に初めて会った人間に甘えてしまっていいのだろうか、と雪の真面目な性格が葛藤する。 「でもっ…」 「あの店のバイトはもうしなくていい。俺からマスターに伝えておく。…いいか、これからは俺だけがお前の客だ」 「……っ!」 何故だか、須藤のその言葉に雪の胸が騒めいた。 徐々に顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。 須藤から金で買われる状況なのに、逆に自分が須藤を独占しているような気がした。 特別な感じがした。 そんな事を思いながら、雪の胸はドキドキと高鳴っていた。 「…須藤さんは、…僕でいいのですか?…素人だし…何の取り柄もないし…」 照れ隠しなのか、雪が俯きながら小声で言った。 それを受けて須藤はフッと口端を上げる。 「お前に最初からテクなど求めていない。それに、手垢がついてない分、俺好みに育てる事が出来る」 ニヤリと意味深な笑みを浮かべた須藤が煙草を消すと、雪の腕を掴む。 「おい、寝室へ行くぞ」 雪を引っ張りながら、リビングから寝室へと移動した。 寝室はリビング以上に生活感がない。 主役であるキングサイズのベッドが中央に鎮座するだけだった。 家具といえばベッド横にローチェストがあるだけ。 ベッドを挟んだ壁一面はクローゼット、その反対側の壁は大きな出窓。 全体的に落ち着いたトーンで纏められた寝室は、須藤の雰囲気と合っていた。 掴んでいた腕を離した須藤が、自らのネクタイを緩め始める。 「脱がしてくれ」 そう一言雪に言い付けると、ネクタイを抜き取った。 「あ、はい…」 下半身丸出しで釦が取れたシャツを羽織るだけの雪は須藤に従い、スーツのジャケットを脱がしにかかる。 主にかしずく従者のごとく、雪は須藤の服を脱がせていった。 [前へ][次へ] [戻る] |