華影‐はなかげ‐ 其の壱 其れは、華。 決して倒れぬ、屈強な華。 常に独りで、孤独な華。 触れてはならない、高貴なる華。 神と呼ばれし其の姿は 確かに 散りゆく華のようだった。 「お前、名はなんと言う」 その人の声を初めて聞いた時、風のようだと思った。 「・・・影呀と、申します」 少し震えるその声は、底知れぬ強さが伺えた。 「えいが。・・・そうか、影呀か」 真意が見えない、悪戯のように、男は何度も名を呼んだ。 「・・・?」 キラリと顔に光が反射し、女は少し目を開けた。映ったのは、鈍色の刃。 刃先が顎にかかり、ゆっくりと上向かされる。瞳は、透き通るような銀。 「お前・・・、俺の騎士にならないか?」 瞳が大きく開かれる。男は静かに笑い、刃を差し出す。 その刃先に、静かに女は口づけた。 男の名を栄華、この国を統べる王。女の名を影呀、堕ちた神の転生者。 2人のはじめての出会いは、騎士の誓いが交わされた日でもあった。 [次へ#] |