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現世乱武小説
欲しい言葉(小十佐)
*小十郎side*





ソファに座っているぶん少しだけ高い位置にある相手の顔を見つめると、微かに鳶色の瞳が揺らいだ。

明らかに同様の意を表したその小さな反応は、しかし本人は気づいていないようで。
佐助はぎこちない笑顔を顔面に張り付けて口角を上げてみせた。


「…してないよ。遠慮なんて」

「よく言うぜ。お前の顔見りゃわかる。」

「……」

「心配するな、表情に出てるっつーより雰囲気でそんな気がしただけだ」


おそらく少し前までの自分では気付くことはなかっただろう。
そしてそのラインには大抵の人間が含まれてしまうと思う。
処世術を心得すぎた恋人の些細な言動から心の内をぼんやりと覗くことができるようになったのはつい最近のことだ。

加えて言うなら、佐助はその本音が顔に出てしまうことを極端に畏れている節がある。
だからあとから付け足した言葉はこいつを安心させるためのものであって、本当に俺が雰囲気から感じ取ったわけではないのだが。
たまにはこういった嘘も必要だろう。


「…何かあったら俺に言え」

「……うん」


――とは言ってみたものの。
こいつの今までの生き方から考えてそれはなかなかの難問なのだろう。

問題が生じても周囲に迷惑をかけないように処理しようとして、一人で抱え込んでいるうちになんとなく解決できてしまう。
一度そうなれば、余計周りに助けなど求めなくなることなど自明だ。


だから、俺にできることはほかにもある。


「…言えねぇことは俺が全部気付いてやる」


声にならない声を聞こう。
思いにならない思いを知ろう。

そうすれば、こいつが一人きりで苦しむこともなくなるだろうから。


ちなみに、先程の玄関先でのやり取りは相当判りやすい部類に入る。
あそこまでフリーズされれば確実だ。

佐助の隣には真田がいつもいるように、俺の隣には政宗様がいる。
が、俺も佐助も別段嫉妬などしなかったし、寧ろその互いが守るべき存在を認め合っていたように思う。

そこに差なんてないのだろうが、あのときの佐助は明らかに俺以外の誰か…つまり政宗様に何故か申し訳なさを感じていた。
もちろん理由なんて知らない。思いを漠然と汲むことができても、別段心が読めるというわけではないのだ。


佐助は驚いたように中途半端に口をあけて固まっていたが、やがて真一文字に唇を引き結びぱっと俯いてしまった。


「なんで…」


ぽつりと零れた声は聞き取れないほどか細くて。
ん?と訊き返すと、微かに顔を上げて舌足らずに言い直した。


「なんで俺様のほしい言葉…ちゃんと言ってくれんの…」


よくよく見てみれば耳が赤い。
泣かれたかと思い内心冷や汗をかいただけに、思わず小さく笑ってしまった。
要するに照れているらしい。

佐助の手首を掴んでいるこちらの手にもう片方の手を重ねて、ぽそぽそと、少し苦しげに続ける。


「…あんまり甘やかされると……もっと弱くなる」

「弱くなる?」


復唱すると、赤い顔がこくりと頷いた。


「ただでさえ最近あんたに頼りっぱなしだし…。俺様らしくないっつーか…」

「……ふー。」


そういうことか。

深く細い溜め息をついて、佐助の手首を引き寄せこつりと己の額に当てがう。
その手首に、ぴくりと僅かに力が入ったのが判った。


「…馬鹿野郎が」

「ごめん…」

「馬鹿野郎」

「……うん、ごめん」

「それが馬鹿だってんだよ」

「……、」


手の甲から顔を上げて少し高い位置にある相手の顔を見上げると、よく判っていないような不安そうな双眸とぶつかる。

…相変わらず顔は真っ赤だ。
赤すぎて瞳まで濡れて見える。

手首を解放した手をそっと伸ばし、佐助の熱い頬を包み込んだ。


「…誰かを頼るのは、そいつを信じることができるからだろうが。……弱さなんかじゃねぇ」

「――…」


曇っていた瞳が一瞬見開かれ、細められる。


「……そっか。」


しばらくしてからもう一度だけ小さな声で そっかと呟くと、佐助は安心したようにはにかんだ。


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あきゅろす。
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