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現世乱武小説
ニセモノ(成綱)


日も傾いてきた頃、早い時間から出勤していた成実は手が空いて一段落したのを見て取ると帰り支度をはじめた。

ちなみに成実は毎日自転車で通勤している。
実家は仙台と、政宗の実家の近くにあるが今はアパートに一人暮らし。
これからもずっと政宗を支えていこうと小十郎や綱元と決めてから他に職も考えていないので、完全にこの近辺を根城にしていた。

夕飯どうしようかななどと考えながら着替えを済ませ、事務所を出たところで綱元が厨房のエレベーターから出てきたのが見えて思わず立ち止まる。
向こうもこちらに気づくなり、おっという顔で歩み寄ってきた。


「上がりっすか」

「うん。チカ兄のぶんの仕事も終わったし」

「んじゃ俺も上がるかな…。このあと飯でも食い行きません?」


…自覚なしの無防備男め。
あんまり自分から飛び込んでくると食われてしまっても文句は言えないというのに。

一緒に出かけたところでツラいのは自分自身なのは判っている。判っていても、綱元からの誘いを断るなんて有り得ないんだ。


だから今回だってそう。


成実は複雑な心境に笑みを乗せて大きく頷いてみせた。
笑顔が似合うと言ってくれた。
だったら笑おう、いくらでも。


「いいねー!ラーメンでも行く?」

「っはは!シャレっ気ゼロじゃねーっすか」

「つなもっちゃんにシャレっ気なんて必要ないっしょ」

「おっと、そういうこと言っちゃいます?俺すげーオシャレさんなのに」

「わーかったわかった、じゃあ早くオシャレな私服に着替えてきなって」


しっしっと銀髪の自称オシャレさんを事務所に追いやり、成実は細く息を吐くと表情を消した。

綱元といるのは楽しい。
くだらない会話をいつまでもしていたいと思う。
…それ以上を求めるのは贅沢だろうか。
あの髪に。顔に。体に。心に。
触れていい特権がほしい。
好きにしてもいいという、特権がほしい。


「……やっぱナシか、そういうのは」


一人ごちてみても、至極当たり前なはずのその事実を受け入れることはできない。
もう自分を偽ることができる段階はとうに終わったのだ。


裏口から外に出て、階段にのろのろと座り込む。

こういう時間はよくない。
余計なことを考えて、綱元を好きだという自分に改めて気づいてしまうのだから。

夕方の風に煽られて舞う髪を、鬱陶しいとばかりに無造作に掻き上げた。












+++
*綱元side*





事務所の更衣室で着替えながら、綱元は頭を悩ませていた。


…俺、何かしたっけか。


先程、成実の様子がおかしかった。
しかしよくあるへそを曲げたそれとは違って、どことなく苦しそうなものに見えたのだ。
無理をして笑うなんて、普段のあの人では考えられない。つまらないならつまらないで顔に出すタイプなのだから。


「……どこ見てんだ、お前」

「うおっ!!」


唐突に目と鼻の先に片倉が現れて、条件反射で手がでてしまった。
しかしそこはさすがと言うべきか俺の拳は片倉の手によりしっかり防がれていて、ほっとしたような少し残念だったような、難しいところだ。


「焦点あってなかったぞ。何かあったか?」

顔面に向いていたこちらの手を下ろさせ、昼にも見せた神妙な顔で訊ねてくる。

「昼の成実殿との件は落ち着いたのか?」

「ん…ああ。原因はよくわかんねーけど機嫌はなおしてくれた。……はずなんだけどよ、なーんかさっき元気なかったんだよなぁ」


未だ痛みの残る顎をさすって綱元はぼやいた。

無理やり作った笑顔と本当の笑顔の違いがわかるくらいにはあの人のことを知っているつもりだ。
成実の挙動を思い返しながら唸っていると、小十郎が少し考えてからそういえばお前、と切り出した。


「最近…成実殿のことで悩んでばかりだな」

「……」


何か心当たりがあるのかと続きを待った矢先飛んできた予期せぬ見解に、俺の思考回路は呆気なくショートした。


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