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現世乱武小説
とっとと行けばいい(小十佐)
*小十郎side*





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「……すまねぇ長曾我部。何がどこに迎えに来るって?」


無人島旅行に政宗様が出立する前日。
明日どこに行けばいいか、早番あがりで既に帰り支度を済ませた長曾我部になんとなしに訊ねて、俺は凍りついた。
実家が四国地方だとか言っていたくらいだから、最悪その実家まで送っていかなくてはならないのかと思っていたのだが…


「だから、ここって言った場所に船が直接迎えにくんだよ」

「……」


…これが金持ちの力なのか。

ヘリなんかもぽんと呼びかねないようなクソ真面目な顔でもう一度言う長曾我部。
黙り込んでしまったこちらをどう解釈したのか、隻眼の銀髪はああそっかなどと呟いて苦笑している。


「あんた海渡るの心配してんだろ。だいじょぶだって。俺免許持ってるし、船もよく乗るクルーザーだからよ」

「……」


いや確かにそこももちろん不安要素ではあったが。というかお前はよくクルーザーに乗るのかああそうか。
しかも操縦は本人自らするらしい。免許って……車ですら20万は軽く超えるこのご時世で船の免許。
いくらかかるものなのかすごく気になるところだったが、聞いたらまた我が身に返ってくるのものが大きすぎる気がしてやめておいた。

と、そのとき。
どことなく不機嫌そうな声が飛んできた。


「ふん。船くらいでなんだというのだ。左近もそのくらい持っているぞ」

「…あの、三成さん……俺いつそんなすごい嘘吐きましたっけ」


二つの歩幅の違う足音に振り返ると、二泊ほどしていた顔馴染みの客が長曾我部と同じく帰りの準備を整えた姿でそこにいた。
おそらくカウンターに向かうところだったのだろう。


「お前らも帰るのか」


石田三成と、島左近。
久しぶりに二人揃って顔を見せたということもあり、少しばかり名残惜しい。

訊ねると、島は小脇に抱えたカバンを持ち直し小さく笑ってええと答えた。
仕事を持ってきていたのだろう。悠々自適に過ごしているように見えるのは奴の振る舞いのせいであって、実際は暇な日などない人物なのだ。

一週間の穴をどうするのかは知らないが、こいつは昔からそういった対応には長けている。


「荷物はもう作ったんですが…最終チェックしたいらしくて」

「一週間だぞ、一週間。何度も確認するのは当然だ」


そう言う三成は仏頂面をしていながらもどこか浮き足立っているようで、本当は楽しみで仕方ないのであろうことが見てとれる。
年頃であることと生来の性格が起因しているとして、以前に比べて険がなくなったように思うのはおそらく気のせいではない。
環境は人を変えるのだ。


「島、向こうでのことは頼んだぞ」


その三成の険を払拭したと思われる当人に目を向けて言うと、そいつは諦めたように笑った。


「ま、無事に帰ってこれりゃ万々歳、ですかね」

「行き先が行き先だからな…。ま、まあ俺はお前がいれば間違いないと思うが」


……ツンデレ、という生き物を、俺はおそらくこいつしか知らない。
だが少し、こういうのがいいという島の言い分もわかった気がした。


「…片倉さん、いま三成さんのこと変な目で見てませんでした?」

「見てねぇよ。変なってなんだ、人聞きのわりぃ…」


寧ろそういった視線に敏感すぎるお前を見る目のほうがよっぽど変になっているだろう。
苦虫を噛み潰したような顔で切り返すと、長曾我部がそういえばと口を開いた。


「政宗ももう上がるって聞いたんだけど……あいつどこ行ったんだ?」

「政宗様ならもうお帰りになったぞ」

「もうっ? なんだよはえーなー…。じゃあさ片倉さん、あいつと住んでるんだろ? 明日7時に学校って言っといて」


長曾我部が軽く零した身近な単語に俺は一瞬反応し損ねた。


「…学校集合にするのか?」

「おう、島さんと三成は車で行くことになってっけど、車ない奴はそこからバスと電車で海まで行く」


…なんだかひどく面倒くさそうではあるが、足のない奴らは必然的にそうなるだろう。
俺としても車を出してやりたいところだが仕事を投げてまで行くわけにはいかない。


「レンタカーとかも考えたんだけどな、一週間も借りるってなると電車使ったほうが全然安いんだわ」

「…まあそうだろうな。判った、伝えておく」


とはいっても今夜は旅館のほうに泊まるのだが。


「あ、そうだ三成さん、日焼け止めちゃんと持ちました?」

「……持つわけがないだろう。俺は寧ろ焼きに行くつもりだ」

「! 縁起でもないこと言わないでくださいよ!三成さんが持たないなら左近が持ちます。寝てる隙に塗りたくりますんでご容赦を」

「おっ…………………起きてるときに、塗れば……よかろう」

「三成さん、それって…!」


…前言撤回。
名残惜しくなどないからさっさと楽しんでくればいいと思う。

頬を染める三成と伏し目がちな瞳を輝かせる左近を白い目で眺めつつ、小十郎は胸中で嘆息した。


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あきゅろす。
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