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現世乱武小説
ガーディアン(小十佐)


「いてぇ!いてーって佐助!」

「み…鳩尾……うぷ、」


足の下で喚き立てる聞き慣れた声にはっと我に返り、顔を下に向けてみると銀の頭がふたつ。


「チカちゃんと……お、鬼庭さんっ?」


ぱっと足をどけると、銀髪がニ体もそもそと動いて居心地悪そうにその場に正座した。


「…テメェら、人に用なしとか言っといてこれはどういう了見だ」


佐助の背中越しに地鳴りのような低音が響く。
思わずこちらまで固まってしまいそうになるその声音に、一体目の銀髪・元親はぴゅっと委縮したがニ体目の銀髪・綱元は腹を大儀そうにさすりながら不貞腐れたように唇を尖らせた。


「いいじゃねーか別に。何も減らねーぞ」


すっと佐助の肩に手が添えられて横に移動させられると、代わりに前に出てきた小十郎が今まさにデリケートな状態にある綱元の腹部に容赦なく爪先をめり込ませた。


「大体なんでテメェまでいんだよ。さっき俺のあとに風呂入るっつってただろうが」

「ふ……相変わらずツメが甘いな、片倉。」


小十郎の爪先は、綱元の腕によって見事に阻まれていた。
しかしその蹴りは正真の本気だったらしく、ガードした腕から顔を上げる綱元の表情は何かを堪えるように引き攣っている。


ガードされたことが気に食わなかったのか綱元が言ったことが気になったのかは判らないが、ぴくりと小十郎の眉間のしわの数が増えてより剣呑な面持ちになった。


「……どういうことだ」

「俺はお前のあととは言ったが、ありゃあ別にすぐってわけじゃ…」

「片倉さんっ、最初に言い出したのは鬼庭さんで俺じゃねえんだっ」

「……ほう」


今まで沈黙していた元親は、突然口を開いたかと思うと一も二もなく仲間を売った。
小十郎は、俺は無実だ乗せられただけなんだと懸命に主張する元親と、何言ってんだお前嘘はいけねぇよと必死に食らいつく綱元を交互に見やり、やがてよしとひとつ頷いた。


「長曾我部。お前は見逃してやる」

「さんきゅー片倉さん!信じてたぜっ」


指名を受けた元親はすかさず立ち上がるなり、綱元と対峙する小十郎と佐助側に回り込んだ。
これに納得していないのが、当然裏切られた綱元である。


「てめ、絶対それ私怨だろ!」


誰もが思っていたことを口にした綱元に、小十郎が半眼で切り返した。


「うるせぇ。佐助に蹴られて喜んでた時点でテメェは黒だ」

「わけわかんねーよ!つーか廊下禁煙だろ!」

「ああ、そうだったな。鬼庭、手出せ」

「……なんでだよ」

「お前の手の甲で煙草の火ィ消す」

「いらねーよそんな洗礼!」


綱元の反応はもっともだが、小十郎に冗談を言ったつもりはないらしく至極真面目な顔で正座のままの銀髪男を見下ろしている。

と、そこで本当に乗せられただけか疑わしいもう一人の銀髪が、ちょいちょいと佐助の浴衣の袖を引っ張って部屋の中に誘い込んだ。


「俺が言うのもアレだけどよ、そろそろ片倉さん……止めたほうがよくね?」


確かに今の小十郎さん、キレててちょっと周りが見えていないかも。

でも…


「いいんじゃない?カッコいいから」

「…お前それ……まじか」

「うん?」


結局元親が身を挺して小十郎を止めに入り、綱元の手が灰皿になることはなかった。


まあ、そのあと元親が小十郎に「佐助を布団に連れていって何をしようとした」と迫られ、答える間もなくヘッドロックをかけられたことは言うまでもない。


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あきゅろす。
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