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現世乱武小説
夜のお願い(小十佐)


その日の夜、久しぶりに佐助が顔を見せた。
ここのところ仕事が立て込んでいたらしくこちらに足を運ぶ暇がなかったのだとか。


「支配人、今日はもう俺らだけで大丈夫っすから、猿飛さんとゆっくりしてくださいよ」

「そうそう!お客も二組ですし、オレたちに任せてくださいって」


心持ち疲れの見える佐助を迎えた俺を呼び止めた、髪を後ろに撫でつけた男の言葉を皮切りに長髪の男もすきっ歯を見せながら笑って頷いた。

心遣いは嬉しいが、上に立つ人間としてそれはまずいだろう。
俺の心の声が聞こえたわけでもないだろうに、ちょうど厨房から戻ってきた綱元にすれ違いざま肩を叩かれた。


「無人島の件でお互い話したいこととかあんだろ。甘えとけよ」


どうせ俺も今日遅番だし。
軽い調子で短く付け足すと、綱元は俺の返事も聞かずに過ぎ去っていってしまった。


「ほら、鬼庭さんも言ってくれてますしっ」


……なんだか、嫌に一生懸命勧められてる気がする。
まあ確かに佐助とはゆっくりできる時間が欲しいところだったが。

こちらの話の流れを見守っていた佐助に視線を投げると、困ったように小さく笑われた。
ここまで言ってくれてるし。佐助にそう言われた気がして、渋々ながら首を縦に下ろした。














「…少し痩せたか?」


いつもの二人部屋に上がり、障子を引いて庭を見渡す佐助の背中に 会ってからずっと気にかかっていたことを訊ねる。

一度家に帰ってから来たのだろう、佐助は作業着ではなく七分丈のシャツにラフなパンツというさっぱりした服装だったが、額にバンダナを巻いた顔は少し見ないあいだにこけたように思う。

こちらの静かな声を受け、佐助は不思議そうに振り向いた。


「痩せた…って、俺様が?」


自覚はないらしい。
ぱちぱちと瞬きを寄越す青年に胸中で溜め息をつく。
…確か、今までの棟梁が形だけであれ引退して、真田が一人前になるまでのつなぎとして棟梁をやっていると聞いた。
少人数とはいえそのトップに立つとなれば、心身ともにこたえるものがあるのかもしれない。

小十郎は佐助の問い返しに答えずに押し入れから布団を引っ張り出した。


「今日は早めに寝ろ。明日も仕事か?」

「うん。でも明日は午後から。さすがに連日朝からはキツいからね」


だから来たんだ、とはにかむ佐助。
そんな笑顔を見せられたら寝ろだなどと強く言えなくなってしまう。


「…真田の話か?」


先程綱元も言っていた無人島の件。
疲労と多忙をおして佐助がここに来る理由といえば、実際それくらいしか思いつかなかった。
が、窓の障子を閉めてこちらに歩み寄る青年は曖昧に笑う。


「まあ…無人島のことは旦那たちの問題だから。俺様は無事に帰ってきてくれればそれでいいって思ってる」

「それは……意外だな」


思わず声にでてしまうほど、本当に意外だった。
この心配性の塊の言葉とは思えない。

こちらの反応に気付いた佐助は可笑しそうに笑って、でもと付け足した。


「なに準備するかとか一緒に考えることは多そうだけどね」

「ああ……真田ひとりにやらせたら取り返しがつかなくなりそうだ」

「お、わかってるじゃん小十郎さん。真田の旦那、最初に用意しようとしたのスコップだからね」

「スコップって……あのスコップか?」

「うん。遭難しかけたら穴掘るんだって」

「…雪山でもねぇのにか」

「ほんと、用心深いんだか抜けてるんだかわかんない人だよね」


佐助は眉尻を下げて楽しそうに肩を揺らすと、布団を敷き終えた小十郎の腕にこつんと額を当てがった。
足元がふらついて見えたのは、おそらく気のせいではない。


「…で、どうした」


無人島の話ではなく、もっと違う目的があって来たことはもう判っている。
こんなに弱っているなんて珍しい。

そっと労るようにひと回り小さな身体を抱き寄せて問うと、佐助は沈黙したままこちらの左手を捉えてある箇所へと導いた。
そこは本来欲情しなければ反応しない器官。

しかし、佐助のそれは違った。
手の甲にあたるのは、服越しでも立ち上がっているのがわかる男根。


「…おい、なんでこんな、」

「ごめん…。迷惑かけないようにって思ってたけど…」


もう、一人じゃ無理みたい。

申し訳なさそうに俯き加減に呟く佐助は、いつのまにか耳まで赤く染めていた。


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あきゅろす。
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