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現世乱武小説
歳月には敵わない(小十佐)
*小十郎side*





場所は移って"竜の住み処"。
幸村のもとに電話がきたそのときから、時間は少し遡る。

夏休みということもあり、学生のみの客を何組か受け入れていた"竜の住み処"では夜の接客の準備に追われていた。

夕方という時間帯に一番忙しいのは厨房だ。
料理というものとは縁のない小十郎は、同じく縁のない政宗や元親とともに事務所で束の間の休息をとっていた。


気を利かせて茶を淹れてくれるような女性従業員もいないため、小十郎は慣れた手つきで三人分の茶を淹れる。
夕飯時になったら料理を運んだり片付けたりと、またばたばた慌ただしくなる。それまでの一服のようなものだ。


「あ、そうだ。政宗」

「んー?」


唐突に元親が口を開いた。
政宗も別段何をしていたわけでもなかったので、どことなく疲労の漂うおもてを上げる。

小十郎がそれぞれの前に湯飲みを置くと、軽く礼を言って元親が早速それを口に含んでから続けた。


「無人島の話なんだけどよ、来週とかって無理か?」

「ぶっ」

「うわ、きったね!お前な、急に吹くなよー…」


前振りのない話題に、元親に続いて茶を啜っていた政宗は盛大にそれを吹き出した。
目の前のデスクに積まれたファイルに飛び散った茶を必死にティッシュで拭き取りながら、まったく悪気はないらしい元親を隻眼を赤く潤ませて噛み付く。


「あんたがぶっ飛んだこと言うからだろーが!来週なんて無理に決まってんだろっ、なあ小十郎」


半分がた一気に吹き飛ばされた政宗の茶を淹れなおしながら、小十郎は元親にちらりと横目を投げた。


「…この忙しさを身を持って知りながら言ってるんだろうな?」

「おうよ。バイトとはいえ従業員の端くれだからな。でも佐助が来てくれりゃ問題ねえんだろ?」


改めて政宗の前に湯飲みを置きつつ、小十郎は難しそうに眉を潜める。


「頼む立場としては向こうの予定も大事だろうが」


元親のこの様子から見て、当然幸村や佐助にこのことはまだ伝わっていないだろう。
しかし元親はその言葉の裏を汲み取ったようで、てことはと笑顔を見せた。


「佐助がよけりゃあんたらは大丈夫なんだよな?」

「まあ……営業上はな」

「おーし!なら話は早ぇっ!幸村がお願いすりゃあいつはイチコロだからなっ」


イチコロ…

今時あまり聞かない単語だったが、元親はどうやら自信があるらしい。
携帯を取り出すなり幸村の番号を探しだしたが、不意に今まで黙っていた政宗が元親の携帯を無理やり閉じた。


「幸村にかけるのは俺の役目だ」

「あ?なんだそりゃ。…まぁいいや、じゃあ頼むぜ。幸村を通して『あとはお前だけ』みたいなことを佐助に言えばいけるだろ」


確か元親は佐助と付き合いが長いと聞いている。
佐助が高校のときの同級生ということは…かれこれ5年ほどになるのか。


……。


なんとなく、面白くない。


「ん、なんだい、片倉さん」

「…」


無言のまま立ち上がるこちらを元親が不思議そうに見上げてくる。
そして完全に油断しているその頬を潰すように、顔を強く掴んでやった。


「いでででっ!!なんでっ?俺なんかした!?」

「うるせぇ。そのまま潰れちまえ」

「ひでえっ」


年月の差ばかりは仕方ない。
どうやっても埋められないのだから、八つ当たりするしかないだろう。
元親がギブアップするまでやってやるつもりだったが、電話をしようとしていた政宗にうるさいと一喝されてしまい結局解放することになった。


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