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現世乱武小説
理由は簡単(小十佐)
*佐助side*





「やべぇなこいつ。前の女顔の奴もたまんなかったけど」

「あー、俺あんときいなかったんだよな。惜しいことしたー」

「ばか、俺なんか半殺しだったんだぞ…」

「の割に学ばねーよなー」

「学んだろ?クスリ使っちゃうとか」


ぎゃはは、というひどく耳につく哄笑を聴覚の表層で聞き流しながら、佐助はべたついた体を横向きに頃がされたきり動かなくなっていた。

息ばかりが上がっていく。
もはや自分のものではないような気がするほど体は重く、いうこともきいてくれない。
もう何度イったか知れないが、精液はもう残っていそうになかった。
少し前から空の射精ばかりが続き、頭痛を通り越してとにかく怠い。


「じゃ、そろそろ退散しようぜ」

「そうだな。また遊ぼうぜ、兄ちゃん」

「…なあ、でもまだクスリ効いてんなら勿体なくね?」


ようやく解放されるのかと息を吐こうとしたとき、いきなりそんな言葉が飛んできて佐助は凍り付いた。

…もういい加減飽きたらどうだ。
なんの抵抗もできない見ず知らずの野郎にハメたところで何がおもしろいのかさっぱり判らない。


「じゃあとりあえず車乗せようぜ。ここじゃ暑くってよ」


そう言って一人が路地の奥に向かうと、残った二人が愉しげに歩み寄ってくる。


「な、お前名前なんつーの?」

「これからもちょっと相手してくんねーかな。あんたマジいいから」


言われた言葉に対しても特に反応を返すでもなく一点をぼんやり見つめていると、唐突にもう何も出すものがない雄をやわやわと揉み込まれた。


「ん……っは、」

「この虚ろな感じよくね?…あー、もう一発ヤりてーなぁ」

「あとでな、あとで。とりあえず服だけ着せねーと…」


ギラギラと欲にまみれた眼差しで股間をまさぐる男を押しやって、放られていた服を拾ったもう一人が佐助の上体を起こそうと屈み込んだとき。



――ごきっ



大きな黒い塊が唐突にその近づいてきた男の横っ面に激突して、一緒くたに真横に吹っ飛んだ。


「…え?」


直前に押し退けられていた男は幸い難を逃れたが、瞬間で視界から仲間が消えたという事態を飲み込めていないのか立ち尽くすばかり。
それらを視覚による情報としてぼんやりと眺めていただけの佐助も、ろくな反応が出来なかった。


……あの声を聞くまでは。


「理由は十分だ。言い訳は聞かねぇ」

「――!」


はっとした。
熱い体を必死に起こして、割れんばかりに痛む頭を巡らせて、気を抜いたら閉じてしまう重い瞼を押し上げて。

その姿を夢中で探した。


「…悪い。待たせた」

「こじゅ……ろ、さん…」


ふわりと風を感じ、温かい大好きなぬくもりと匂いに包まれた。
一拍遅れて肩に何かがかけられる感覚。


「無事…ってわけじゃなさそうだが、とりあえずケガはないな」

「島さん…」


後ろからくしゃりと頭を撫でられるが、ちょっと今は振り向けそうにない。
安堵で涙が出そうだ。
…きっとどれだけ年をとったって、俺はこの人たちには敵わないんだと思う。


ちょっと待ってろと短く言い残して立ち上がる小十郎を目で追いかけると、左近が大丈夫だからとばかりにその何かでこちらの体をすっぽりと覆った。
未だにあまり回転しない頭のままそれを見やると、巻き付けられたのが小十郎の羽織であることが判ってまた胸がいっぱいになる。


「あ、ああああんたっ…この前のっ」


一人無事だった男が小十郎越しに左近を見つけ、わなわなと震える手で自身の額をぱしっと抑えた。

その仕草から思い出したのか、左近も少ししてからあ、という顔をする。


「…島、知り合いか」

「そうですね。…あのときは三成さんがお世話になりました」


その言葉に小十郎が軽く目を見開く。


「……まさかこいつら…」

「お礼はしたつもりでしたが…額割られる程度じゃ足りなかったかな。まさかまだこんなことしてたとはね」


昔、バイト帰りの三成を襲った二人がこの中にいるのだろう。
そういえばそんなようなことを話していたような気がしなくもない。
唯一穏やかだった左近も剣呑になったが、息の荒い佐助の様子に気づいたのか小十郎の隣には行かずにこちらを抱き上げた。
その際羽織が触れた胸の突起から甘い痺れが走っていく。


「ッ…」

「…何か飲まされたな」


鎌首をもたげる雄を見て確信した声で左近が言う。
心当たりはある。
気を失う前に口に突っ込まれた錠剤…おそらくあれは媚薬か何かの類だろう。


「島、先に車戻ってろ」

「…片倉さん、」

「判ってる。こんなくだらねぇことで捕まりたくねぇさ」


小十郎の返事を聞くと左近は軽く笑んで佐助を横抱きにし、車が停めてあるほうへと足を向ける。
離れていく背中に何か言いたかったけれど言いたいことも見つからず、佐助は宵闇に紛れてしまうまでその背を見つめ続けた。


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あきゅろす。
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