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現世乱武小説
 聖夜までの男事情・壱


もうすぐクリスマス。
世の恋人たちにとっては、相手に何を贈るかという最大の難問に直面する季節。

旅館の支配人を勤める片倉小十郎もまた、大工たる恋人へのプレゼントに頭を悩ませていた。
が、何が欲しいかなど本人にしか判るはずがない。サプライズなどという洒落たものも面倒だからと、小十郎は佐助に直接訊ねたのだった。




佐助「…クリスマス?」

小十郎「ああ。気持ちだけで十分とか言いやがったら地獄車だぞ」

佐助「うわ…すっごい殺人的。……んー、でもなぁ…これといって……。……あ」

小十郎「なんだ」

佐助「そういやずっとシャーボ欲しかったんだよ!」

小十郎「…しゃーぼ……?」

佐助「うん、いちいち使い分けるの面倒だったんだよね。小十郎さんのセンスでさっ」

小十郎「……」

佐助「あはは、そんな難しい顔しないでよ。高いのなんていらないんだからさ、使いやすそうなの頼むよ」

小十郎「………おう」





……しゃーぼ、ってなんだ。

聞き慣れない単語に小十郎は困り果てていた。
今更佐助に訊くのも気が引けて、おもむろに携帯を引っ張り出すと旧友の番号を呼び出す。
少し癪に障るが、背に腹はかえられない。

しばらくコールしていると、強面の設計士、島左近が出た。


左近『はいはい。珍しいですね、片倉さんから連絡くれるなんて』

小十郎「いきなり悪いな。訊きたいことがある」

左近『へぇ…?俺に答えられるもんならなんでもどうぞ』

小十郎「島、お前しゃーぼって知ってるか?」

左近『……はい?』

小十郎「しゃーぼだ、しゃーぼ」

左近『あ、もしかして佐助へのプレゼントですか?』

小十郎「まあ…そんなとこだ。で、知ってんのか?」

左近『……。シャーボですよね。知ってますよ』

小十郎「どういうやつだ?聞いたことがねぇ」

左近『まぁ片倉さんはそうでしょうな。シャーボってポケモンですから』

小十郎「ポ、ケ…モン……って、ゲームのか?」

左近『ええ。いますよ、シャーボ』

小十郎「……いや、いるのかもしれねぇが…クリスマスプレゼントでポケモンってのもおかしくねぇか?」

左近『甘く見ちゃいけません。中には本気で図鑑を埋めようとしてるトレーナーだっているんです』

小十郎「そ、そういうもんなのか…。だが俺のセンスで選んでいいらしい。センスでポケモン選べんのか?」

左近『ああ、たまに色違いがいますから、おそらくそれのことでしょう』

小十郎「なるほど…。じゃあ高くなくていいってのは…」

左近『レベルのことじゃないですか?自分の手で育てたい、とか』

小十郎「使いやすそうな、とも言われたんだが…」

左近『たぶん捕まえやすそうなって言ったんだと思いますよ』

小十郎「…なるほどな、そういうことか。金のかからねぇクリスマスだな」

左近『片倉さん、シャーボを舐めちゃいけませんよ。あれ、巷じゃあ影の伝説のポケモンなんて呼ばれてますから』

小十郎「影の伝説?」

左近『ええ、出現率の異常な低さからまことしやかにね。それより片倉さん、ポケモン持ってるんですか?』

小十郎「確か成実殿がお持ちだ。それを借りればなんとかなるだろ」

左近『もしダメなら三成さんにお声がけください。持ってますから』

小十郎「ああ。感謝する」

左近『いえいえ。んじゃ、頑張ってください』


電話を終えると、小十郎は踵を返して旅館の従業員の一人である伊達成実のもとへ足を向けた。




一方、同じく電話を終えた左近は緩む口元もそのままに仕事に戻った。

無論、シャーボとはシャーペンとボールペンが合体した文房具のことだ。
ポケモンのキャラクターにそんなものはいない。…と思う。
あまりに真面目に小十郎が返してくるので冗談だと伝えはぐってしまったが、まぁクリスマス当日の一週間前くらいに教えてやれば十分だろう。


左近「しかし……クリスマス、ね。」


三成へのプレゼントはまだ用意していない。
とりあえず甘党なあの人のことだ、ケーキは喜んでくれるだろうが……さて、あとはどうしようか。


先程旧友へ適当なことを吹き込んだことなど忘れ、自分のほうで手一杯だった。


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あきゅろす。
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