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現世乱武小説
俺様の知恵袋
*佐助side


才蔵の部屋は日当たり良好な我が家に比べて意外なほど快適だった。
途中コンビニでつまめそうな菓子を買ってきて、冷たい飲み物を飲みながら旦那のテストの話で盛り上がっていると次第に日が傾きかけてきた。


「そういえばさ、才蔵って料理作るタイプ?」


いつもならもう夕飯の支度を始めないと武田家の場合は間に合わない。
大将はもう出かけたのかななどと頭の隅で考えながら訊ねると、才蔵はばつが悪そうに鼻の横を指先で掻きつついや、と短く答えた。


「…どうにも面倒でな。コンビニ弁当で済ませることが多い」

「コンビニ弁当などより佐助の作る飯は何倍も美味いぞ!」

「あはは、そりゃどうも。そう言ってもらえると俺様も作り甲斐があるよ」


握り拳を作って宣言してくれる旦那に笑い返すと、才蔵が意外そうに瞬きした。


「猿飛殿は炊事までしているのか」

「ん、まぁね。家事全般は俺様担当なもんで」

「…疲れないのか?」

「んー、」

神妙な面持ちの才蔵の質問に思わず腕を組んでしまう。
疲れるか疲れないかと訊かれれば、そりゃあ疲れる。
だけどそういう感覚以前に…

「美味しいとか綺麗とか言ってくれるから…あんまり考えたことないな。まぁ忙しさはハンパないけど」

「そ、そうであったか佐助!ではこれからは何か手伝いをっ」

「いや、旦那はなんにもしなくていいから。障子の貼り替えだけ手伝ってくれれば」


苦笑してそう言うと、旦那は任せろとばかりに拳を握り込んだ。

昔の障子を引っ剥がして新しい紙を貼る際、あの木枠の中すべての紙を破いていくのはなかなか骨が折れる。
そこで旦那の出番というわけだ。
破壊衝動というと危険な響きを孕んでしまうが、単調に破くという作業がどうやら燃えるらしい。

そんな旦那に炊事なんて任せられるわけがなかった。
…まぁやらせてみたからこそ言い切れることではあるのだが。


と、不意に才蔵が財布を片手に立ち上がった。
旦那と揃って見上げると時計を気にして口を開く。


「そろそろ買わねば安いのは売れてしまう。二人は待っていてくれ。それとも帰るか?」


なるほど。
コンビニ弁当は数に限りがある。早く行動を起こさなくては目当ての商品が売り切れるという可能性は高い。

俺は旦那と一度顔を見合わせると、にっと笑って腰を上げた。


「帰るなら少し送ろう」


何やら勘違いしているらしい才蔵の頭をくしゃくしゃと撫で、先に玄関に向かいながら背後に声を投げる。


「夕飯、俺様が作ってあげるよ」

「…は?」

「佐助のメシは美味いぞ、才蔵!」

「日持ちがするほうがいいから……カレーかな?」

「おお!佐助のカレーか!近頃政宗殿のもとでご馳走になってばかりだった故、楽しみなのだっ!」

「ま、待てっ、まだ俺は頼んでなど…!」

「まーまー、たまには甘えるのも悪くないよ?」


甘える。
俺自身、つい最近教えてもらったことだ。
未だに甘え方が判らないうちに才蔵に言うのもどうかと思うけど、確かに大事なことだと思うから。


「時間微妙だけど…ご飯炊けるかなぁ」

「佐助に不可能はない!俺は知っているぞっ」

「不可能がないのは旦那でしょ。ほら才蔵ー、置いてくよー?」


玄関から出て手招きしてやると、ぽかんとしたままの才蔵がのろのろと歩いてくる。

届く距離まできたら腕を引いて。
相手が靴を履き終える前に歩き出しては抗議され。
近所迷惑も省みず大声で騒ぎながらアパートを出た。


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あきゅろす。
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